あれからどれくらいの時が流れたのだろう
見えるのは白い天井、聞こえるのは微かな機械のノイズ
変わらない日々、変えることのできない現実
「ああ、今日はいい天気。風が気持ちよさそう」
いつの間に現れたのだろうか
窓際から聞こえてきたのは女の声、視界の隅で揺れるカーテン
「……毎日毎日暇なやつだな」
「あなたの代わりに外の様子を見てあげてるんじゃない、感謝してよ」
女はひとしきり窓から見える風景を語り、いつの間にか消えている
今の私がどれだけ望んでも得られぬもの、失くしたものを女は持っている
あれからいくつの季節が巡ったのか
「あら、今日はいつものお爺ちゃんがいないわね。どうしたのかしら」
「なあ、頼みがあるんだ」
ある日生まれたひとつの決意
ここから抜け出す方法
「……やめた方がいいわ、きっと後悔する」
「今より後悔することなんて、どこにもないさ」
「……そう」
そして静寂が訪れる
目覚めた私は、そばに横たわる私自身に別れを告げて、ゆっくりと窓にかかったカーテンを開く――
そこにはただなにもない世界が広がっていた
そして私はすべてを失った
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元ネタ
↓
ある病室に2人の末期ガンの患者が入院していた。 一人は窓側のベッド、もう一人はドア側のベッド。
2人とも寝たきりの状態だったが、窓際のベッドの男は、ドア側のベッドの男に窓の外の様子を話してあげていた。
「今日は雲一つない青空だ。」「桜の花がさいたよ。」「ツバメが巣を作ったんだ。」
そんな会話のおかげで、死を間近に控えながらも2人は穏やかに過ごしていた。
ある晩、窓際のベッドの男の様態が急変した。自分でナースコールも出来ないようだ。
ドア側の男はナースコールに手を伸ばした。……が、直前になってボタンを押す手をとめた。
「もしあいつが死んだら、自分が窓からの景色を直接見れる……」
どうせお互い先のない命、少しでも安らかな時をすごしたいと思ったドア側のベッドの男は、
自分は眠っていたということにして、窓側のベッドの男を見殺しにした。
そして窓側のベッドの男は、その晩、そのまま死亡した。
翌日、ドア側のベッドの男はいよいよ窓側のベッドへ移ることになった。
男は、看護婦に抱きかかえられてカーテンのそばに横になる。
期待に胸がうちふるえた。
そこから見える外の景色、これこそ彼が求めているものだった。
そこから見えたもの、カーテンの向こうは、
ただの薄汚れたコンクリートの壁だった。
最終更新:2008年02月13日 03:01