…目が覚める。 職も金もメシを作る気力もない、いつもの朝。
「とりあえず、カップ麺かなんかですま―――――」
 ぶすっとむくれている少女の姿が、目に止まる。 …あれ、俺、もしかしてあの子誘拐した?
 いや、ないない。 だってあの子足ないし。 どう見ても幽霊ですよキバヤシさん?

「こんにちは、僕はトムです。 あなたの名前を教えてください」
 …中学生の英訳のような日本語で、意思の疎通が図れるかテストだ。
「名前を教えるメリット、ない。 …料理作るから、台所借りる」
「……え? それこそ君にメリットなくね?」
「キミの生活水準、ひどい。 …このままじゃ、キミを苦しめられない」
 あれ、この幽霊はもしかしてサドですか? …大歓迎だぜ。
「こ、このわたくしめを汚い豚と罵って下さい名前も知らない幽霊様!!」
 ぎろり、と睨まれる。 ただそれだけで、身動きひとつ取れなくなった。 …金縛り初体験。 めくるめく調教の日々? ヒャッホウ大歓迎だぜ俺は!

「………できた。 さっさと、来い」
 その言葉と同時に、金縛りが解除される。 …とりあえず、『食べ物』ができているのか見てみよう。
 最近カップ麺ぐらいしか食ってない俺は、このよくわからない臭いがなんなのか、わからない。
「―――――――なんて、コト」
 そこには、惨殺死体が数体、皿に盛り付けてあった。 …まずはトマト。 砥いでいない包丁のせいか、見事に力が入ってぐちゃぐちゃだ。
 次にご飯。 水を吸いすぎた彼らは、今まさに茶碗の底にどろりと沈みそうである。
 ……最後に、みそ汁。 その色は名状しがたく、外宇宙からのナニカを象徴しているかのようでもあった。
 どれも賞味期限ギリギリだしな。 ええい、俺は食う、英雄になるっ!!

「………あ、れ?」
 意外と、いける。 つーかうめぇぞこのみそ汁、見てるだけで正気度ガリガリ減りそうだけど。
「……おいしい?」
「…ま、悪くはない、かな」
「………思えば、キミに聞いても仕方ない」
 …ぶっきらぼうな台詞。 でも、嬉しそうに笑っていて。
 ――――――――だから、苦しめられるってのも、悪くないって思ってしまった。
「うぐぅぅぅぁぁあああ!!!」
 そのせいで、すっかり忘れてたんだ。 本当にマズイ料理は、後からダメージが来るってことを。
最終更新:2008年04月07日 03:17