夏休みになったので久しぶりに栃木の実家でのんびり過ごしていたが、都会に慣れた身には田舎は退屈すぎる。

暇つぶしに裏山に散歩に出掛けると古ぼけたホコラを発見した。

子供の頃に祖母に聞いたことがある。
昔この辺りでは疫病が猛威をふるい
病を恐れた人々は、はやり病を祟り神として祭り鎮めたとか。
祟り神様を敬わねば恐ろしいバチが下る、と祖母はよく言っていたものだった。 
無知ゆえの意味の無い信仰だ。
「馬鹿馬鹿しい…神頼みなんかよりワクチンのが効果的だっつーの」
非科学的な事柄が嫌いな俺は思わず口にだしてしまった。

その瞬間辺りの空気が一変した。
峻厳にして威圧するような空気に。

「我を愚弄するか、不埒ものが‥!」

ホコラの方から声が響く。
そちらを見ると異様なものが立っていた。
一言で言えば、巫女服を着たゾンビだった。

皮膚は爛れ飴色の膿が吹き出し、腐り落ちた肉から所々脂肪結体や神経糸が覗いていた。
眼球は濁り、唇は腐り落ちたのか下顎までむき出しでウジのわいた歯茎を露出しいる。

吐き気を催すほど醜怪な姿。
俺は本能的な嫌悪と恐怖から恐慌に陥り身を翻して逃げだした。
「ま、待って!そっちは…」

ゾンビが何か叫んだが気にしてなんかいられない。
俺は森を全速力で疾走した。

と、突如足元の地面が消失した。
恐慌状態の俺は崖に気付けなかったらしい

俺の体が宙を舞い、崖下に落下する寸前誰かが俺の手を掴んだ。

「待てって言ったじゃない!何やってんのよ!」

あの巫女ゾンビが俺の手を掴んでいた。
ウジがちょっと顔にかかったがこの際仕方ない。
身も蓋もなくその手にしがみつく。 

「や、やぁ…そんな強くしちゃダメェ!」

彼女の腐敗した肉がずるずる骨から剥がれ落ち
俺もずり落ちそうになる。
「なんて事するのよ!馬鹿ッ!変態!」
ゾンビは罵倒しながらも必死で俺を引き上げようとするが骨だけになった腕ではうまくいかない。

「そうだ!これに掴まって!や、優しく!優しくよ?」
弾力のあるチューブのようなものを俺に投げた。

それに掴まりよじ登る。
「あん、だ、ダメ…出ちゃう…ズルズル出ちゃう!」
上にいるゾンビが悩ましげな声でハァハァいってるが登るのが先決だ。

何とか崖からよじ登ってみると俺が掴まっていたのは彼女の腸だった。
「優しくって言ったじゃない!ケダモノ!」

「えっと…助けてくれてありがとう」
「わ、私をバカにしたバチを当てるまで死んでもらったら困るからよ!
それだけなんだからね!
勘違いしないでよ!」

露出した顔の毛細血管から濁った血をピューピュー吹き出しながら祟り神様は照れまくりました。
最終更新:2008年04月07日 03:36