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また春が来た。いつも僕は思い出す。
そして、あの時傷めた足の傷も癒えた今。

僕は両親にねだって春休み、田舎に一人帰省する許可を得た。
両親は最初反対だった。無理もない。
僕がこの半年リハビリに費やした日々はそのまま悔恨の月日だったろうから。

駅まで迎えに来てくれた祖父母と祖父の喜びようはなかった。
僕があの時運ばれたまま、戻ってこないと思っていたんだろう。
確かに、あの日の僕はもう二度と来るものか、なんて思っていた。

あの日は。
だけど、長い病床の生活と苦しいリハビリの中、気付くことがあったんだ。
そして僕は帰ってきた。あの日のお礼をいうために。

あの日、僕はいってはいけないと言われていた廃屋に入っていた。
無邪気な冒険心だった。
茅葺の屋根。漆黒の柱に板張りの囲炉裏。
見るものすべてがおもしろかった。
そして・・・あの時を迎えた。
「かわらないな・・・」

あの時、取り乱して板の間を踏み抜き怪我をしたのは自分の責だった。
痛みに意識をなくし、気付いたら病室にいた。
あのままなら発見はかなり遅れていたはず。誰にもいわなかったんだから。

「・・・・帰れ・・・帰れ・・・」

広く、痛んだ茅葺から差し込む光がまばらに降りそそぐ広い空間に、声が響く。
あの日とまったく同じだ。あの日、僕はすっかりおびえてしまったっけ。

「うん。今日はお礼を言いに来たんだ。ありがとう」

取り壊されるでもなく、ただ昔のままにある家屋。だが老朽化が激しく、子供が
入り込んではよく怪我をしたという。
だが、ある時を境にぱたりと。ぱたりと入り込む者もなく、それはつまり。怪我を
する子供がいなくなったという事。最後の怪我人は僕だった。

「・・・・・帰れ」
「あの日、ありがとうっ助けてくれてありがとうっそれだけいいに来たんだっ」

この旧家は、僕の本家がかつて住んでいた家だ。賑やかなりし頃、座敷童子もいた
なんて言い伝えがあったそうだ。今も・・・怪我する子供がいないように、守っていてくれるんだろう。

お萩をそえて、僕は家を後にした。今度は慌てず、板の間を踏み抜いて怪我することもなかった。
振り返ると、お萩に歩み寄る赤い着物を着た子供が見えた。
歩き出すと、背後から声が聞こえた

「ごめんねー・・・驚かしてごめんねー・・・」

振り返らずに手を上げて振ってみた。
気にしてたのかな。そうかも知れない。
やっぱり来てよかった。お礼を言いに来てよかった。

生きていれば、僕の叔母にあたる人だ。
赤い着物がよく似合ったそうだ。
お萩、また来年持ってこよう。
最終更新:2008年04月07日 03:43