「う・・・」
何ともいえない気だるい重力
目蓋に淡く掛かるオレンジ色の光線
ゆっくりと、そうゆっくりと目蓋を開く。
「ここは、どこだろう?」
鉛のような身体を横たえたまま、微かに視線を漂わすと、
見慣れない電灯やしょうじが知覚された。
「わたしの家」
抑揚のない声がどこからか聞こえた。
やはりゆるゆると首を倒すと、横たわる僕のそばに女の子がちょこんと座っていた。
知らない娘だ。
薄いブルーのワンピース。掴んだら折れてしまいそうな細い腕。
肩口で切り揃えた艶やかな黒髪。妹が大事にしてた日本人形のような顔。
「あんなにたくさん血が出てたから、もう起きないかと思ったよ」
そういって女の子は僕を覗き込んだ。やはり知らない娘だった。
「自分で死のうとするなんて・・・お兄ちゃんはバカよ」
今は・・・今日は何日だ・・・。君は僕のことを知っているのかい?
僕の意識がしきりに発しようと試みるのだけれど、それを口にする前に女の子に遮られた。
「あなたの手当ては大変だったわ」
細い腕が伸びてきて、僕の手に触れた。
僕はまたどうしようもないほどの気だるさに、ゆっくりと目蓋を閉じる。
ガシッ。
痛みに目を見開くと、女の子がギリギリと手首に噛み付いていた。
「痛いよ!」
「そう・・・。あなたはまだ痛みを感じるの」
女の子が僕に抱きついてきた・・・。
「お兄ちゃんなんて、やっぱり助けなきゃよかった」
急激な寒気が全身を這った。
目を見開く。
眩しい。
同時に土の匂いと深い草いきれが肺胞を満たす。
鳥の声? 木々の葉擦れ?
鋭敏な知覚に戸惑いつつも、ここがあの日入った裏山だということを
僕はもうはっきりと判ってしまった。
腕を動かす。
ひんやりとした落ち葉の感触。
カタリ。
ああ・・・
小さな小さな、本当に小さな日本人形が
僕の腕の中にいた。
「・・・ありがとう。僕、生きるよ」
身体を起こすと、手首のキズがベリベリと開いた。
最終更新:2008年04月07日 03:49