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また――この夢か)

目の前の机には参考書と問題集。
冷めたコーヒー。
試験勉強をしている最中だった。
今もそのつもりだが、どうやら眠ってしまったらしい。
それがわかる。

鉤爪が何かをひっかく音。
吐き気を催す腐臭。

(起きなくては……)

ここはもう日常ではない。安穏としていれば命にかかわる。
緊張で息苦しい。
いつあの爪が襲ってくるか。
だからはやく。

ぎりん、と、耳元で金属音。

一瞬で視界が朱に染まり、閃光が瞬く。
パニックに陥ったのがわかるが、どうしようもない。
イスを蹴倒し、部屋を飛び出す。

(誰か……!)

僕は机に突っ伏していた。
全身が硬直していて、動けない。
鼓動が耳朶を激しく打ち、音も聞き取りにくかった。
それでも、耳を澄ました。
ここが現実であることを確かめるために。

「寝るつもりなんかなかったのに」
溜息のあと、残っていたコーヒーを飲み干す。
引きつるような違和感を首筋に感じ、手を当ててみた。
ぴりぴりとひりつく痛みが、一筋あった。

こんなことがもう二週間も続いている。
原因は皆目不明だ。
幸いというべきか、体のあちこちに付けられた爪痕のせいで睡眠の誘惑は
だいぶ薄れている。
でも。

(もう、だめかな)
いいことなんて何もなかった。
頭は悪かったし、要領も悪かった。同級生はおろか、先生からもイジメられた。
そして、これだ。

(もう、じゅうぶんだろ)
そう、思った。
そして笑った。
生を諦められる根性すら、僕にはないんだった。


その、もう少し後の話。
『僕』は不眠の時間を最大限に利用し、当時E判定の難関大学に合格する。
それ以降、爪の夢はいっさい見なくなる。
最終更新:2008年04月07日 03:59