なあ、幽霊って見たことある? まあ普通は無いよな、うん。
俺? 実はあるんだよ……ははっ、こんな話の持ってき方すれば当然の流れだよなw
しかもただ見ただけじゃないよ? 殺されかけたんだから、マジで。マジだってば。
○○町の繁華街でバイトしてた頃の話なんだけどさ、あの辺って大通りは酔っ払いやら客引きで
喧しい癖に、路地一本奥に入ると妙に人気が無いんだよね……知ってる?
よく恐喝とか暴行とかの被害に遭う人がいるらしいんだ。俺は幸いにして無事だったけどね。
ある夜、バイトが終わった後に近くの店にヘルプに行ってくれ、って言われたんだよ。
正直疲れてたけど、その分バイト代はずんでくれるって言うから引き受けたんだ。
結局朝方までこき使われてようやくお役御免になって、フラフラしながら店を出た。
あんまり疲れてたせいか、良く知ってるはずの道を間違えてさ。
見たこともないようなうら寂しい路地の突き当たりに辿りついたってわけ。

そこで見ちゃったんだよ。幽霊を。

あー……見た、って言い方もおかしいな……見るどころかいきなり襲い掛かられた。
影法師みたいに真っ黒な姿だったよ。その「何か」が俺に覆いかぶさってきたと思ったら……

ミツケタミツケたミツケタミツケタミツケタミツケタ!ミツケタミツケタミツケタミツケタ見ツケタミツケタミツケタミツケたミツケタミツケタミツケタミツケタ
ミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタ
ミツけタミツケタミツケタ!ミツケタミツケタミツケタミツケタミつケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタ
!ミツケタミツケタミツケタ!ミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタ見ツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタ
見ツケタみツケタミツケタミツケタみツケタミツケタミツケタミツケタミツケタ!ミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタ
ミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミつけタ!ミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツけタミツケタミツケタミツケタ
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!みつ!!!ヶた!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!見つけた!!!!!!!!!!!!!!

頭の中をさ、その声でぶん殴られてるみたいなんだよ。全身訳も無く震えて力が入らなくなってきて。
もの凄い頭痛と悪寒で吐き気がしてきて、ホントにあのままなら死んでたんじゃないかなあ。
“とり殺される”って、あんな感じなんだね……初めて知ったよ。いや、別に知りたくなかったけどw

え? どうやって助かったのかって?
それがまったくの幸運の産物でしかなくてさあ……。
キチガイじみた「見つけた」がぴたっと止んだと思ったら、「違う……」っていう声がしたんだ。
若い女の声。それまでの騒音みたいな響きとうってかわって綺麗な声だった。
ぐったりしたまま薄目開けてみると、陽炎みたいに霞んだ姿の女が立ってた。
年は二十歳かそこらだと思う。紙みたいに白い顔が俺をじっと見下ろしてて
すぐにこの世のものじゃないってわかった。

「あ……あぁ………ちがう………この人じゃ…」

その時ピンと来た。
この女が幽霊だか貞子だかなんだか知らないが、こいつ人違いしやがったな? って。
……で、まあ、なんだ。俺もわりかし無鉄砲なところがあるから。ブチキレちゃったんだよねw

「……違う、じゃねえだろこのバカアマがあああああああああああっ!!!!」
「っ!? えっ、あ、あのっ」
「すっげえ苦しかったぞクソッタレ! そこ動くなよ……」
「何よ……な、何する気なのよっ!」
「優しく抱きしめて耳元で般若心経囁いてやる……首筋とか甘噛みしながらなっ!」
「せっ、セクハラまがいの除霊っーーー!!?? 」

……いや、ホントだって。ホントにこんなやりとりだったんだって。マジだって。信じて。
それでまあどうにか立ち上がって向かい合ったわけ。その女幽霊と。
ぶっちゃけ結構かわいかった。顔色悪いのと胸のあたりが血染めになってるのを除けば、ねw

まだお互いバリバリに警戒しあってたけど、とりあえず話をしてみたんだよ。
それでいくつか分かったのは

1.やっぱりその女は死んでる
2.お水のバイトしてて、ある客にしつこく言い寄られてた
3.結局そいつに殺された

……ってこと。迷惑なことにその犯人まだ捕まってなくてさあ。しかも俺に良く似てたんだって。
薄暗いから間違えたらしいけど、そんなんで殺されちゃ堪らんよねw
その女曰く

「……あんたが紛らわしい顔してるのが悪いんでしょ」
「だいたいこんな行き止まりに誰も来ないんだから、犯人が現場に戻ってきたと思うじゃない!」
「怨念パワー無駄に消費させないでよバカっ!」

どう思う? この言い草。だから俺も言ってやったね。

「そいつと顔が似てるのは俺のせいじゃねえやバカ」
「誰も来ないようなとこで待ち伏せしても意味ねえだろバカ」
「やーいやーいバーカバーカ」

……結果、もう一回怨念波動くらって倒れたんだけどね。ひどい女だよね。

え? 話がつまんないから帰る?
いやいや、もうちょっと待ってよ。もう少しで終わるから。お願い。
結局ね、その女は基本的にそこから動けないんだってさ。地縛霊って言うんかな。

あくまで「基本的」には、ね。

俺もさあ……まあ、まっとうな人間じゃないかもしんないけどさ。チンピラまがいのフリーターだし。
その女だって、深い考えも無しに水商売に手ェ染めてさ、世間一般の「善良な人」には後ろ指さされる
ような人間かもしんないけどさあ。

でも、殺されて当然ってほど悪い人間じゃないと思うんだよね。

だから俺、その女に手貸してやろうと思ったんだよ。
俺に取り憑いてなら「移動」できるらしいから。
そうすれば自分を殺した犯人が捜せるから。
明るい場所で顔を見れば分かるから。



んー? なんでそんなに震えてんの?
顔色も真っ白だし……まるで“あんたの後ろにいる女”みたいだよ?







           「見つけた」
最終更新:2008年05月25日 23:57