ある日の夕方のことだ。
ある男が道を歩いていると、赤いコートを着て白い大きなマスクを口につけた女性に出会った。
女は男に近づくと一言、こう尋ねた。
「私キレイ?」
マスクで顔の下半分が隠れていたのではっきりとはわからないものの、その女性はなかなかの美人であるようだ。
男は素直に答えた。
「ええ、綺麗ですよ」
するとその女性は、マスクを取り、耳まで裂けた口を見せ、こう言った。
「これでも、キレイか!」
恐怖に歪んだ顔ではなく、男は冷静に彼女を見てこう呟いた。
「ムウ、口蓋裂だな(ぎらり)」
いつもと違ったリアクションにあっけにとられる女。男は女の手を取り、ずんずんと歩いていく。
「ちょっと!何よ!離しなさいよ!・・・・何よ・・・。」
「・・・ムウ・・・流石はスーパードクターl<・・・。」
3ヶ月後、ふっくらとした頬と、瑞々しい唇をたたえた、治療を終えた女がいた
「・・・なによ!これじゃあ
口裂け女のアイデンティティーぶち壊しじゃない・・。」
鏡の前で、涙を流す女。
「なんで・・・・どうして・・・信じられない。」
満足そうに女を見つめ、男はマントを翻し、病室を出て行こうとする。
「あの・・・・その・・・先生・・・。」
男は優しい目をして、彼女に伝える。
「言っただろう。きみは綺麗ですよ、と」
男は微笑み、ドアが閉じられる。
最終更新:2008年10月02日 18:11