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雪女


定年を迎え、唯一の趣味だった山登りを続けていた昨年。
山の怖さは知っていたつもりだったが、急変した天候にまかれ遭難した。
薄れゆく意識、暗転する雪山の中に・・・私は確かに見た。

そして今、夏になり再び山に登る。

夏山の日差しは幾分おだやかで、風が心地よい。山野草も緑づいて美しい。
あの出来事は謎が多かった。何故私はふもとの民家に助けられたのか。

つい気がはやり奥深く入り込んでいたのだ。
白雪のけぶる向こうにいた・・・白い着物、風に舞う柳のような黒髪。

雪女・・・失笑ものだ。助かった後も誰にも言っていない。
だが・・・私の祖父の代では、普通に山には雪女(ゆきめ)がいると継がれていたそうだ。
切れ長の眼差し。白い肌・・・美しい女性だった。

青く高い空。白い雲が風に流されていく。
少し疲れを覚えたところに、山合いに設けられた茶屋をみつけた。

日差しをしのぐ傘のした、彼女はいた。

「あ・・・」
「ん・・・?んっ」

黒く長い髪・・・切れ長の眼差し。小麦色の・・・・肌。白いTシャツ・・・

「・・・その節はどうもありがとう」
「かっカキ氷食べてるだけよっ」

「夏ですからな」
「ゆきだるまじゃないんだから、溶けてなくなる訳じゃないしねっ」

「本当になんとお礼をいっていいか・・・お会いできてよかった」
「な、夏だってここは私の山なんだからそりゃいるわよっ」

店内にいたわずかな客たちは、私たちを奇異の眼差しで見つめていた。
後になって思うと、確かにかみ合わない会話だったと思う。

「・・・食べたら?かき氷。ここのはおいしいわよ」
「いえ、私はお茶で結構」

その後、四季折々の暮らしを話し、雪山には気をつけなさいと諭され別れた。
聞くところによると私の父も、子供の頃世話になったそうだ。
まったくお恥ずかしい話だ。


最終更新:2009年04月14日 22:11