……何故あんな丈の短い着物を着てるのかしら、右那?
……知らないわよ。そこら中、皆持っているあの小箱、何、左那?
『携帯でんわ』、ね。小箱に語りかけるだなんて……解らないわね、右那?
世の中解らない事ばかりが増えていくわ、左那?
そうね……
そうよ……

……左那?私、退屈だわ……
……私もよ、右那?我慢なさい

……
……
…………
…………

…………っ。右那?あれっ……!
なぁに、左那?…………!

珍しい男……。ね、右那?……ふふっ
ええ。でもやっと落ち着けるわ。ね、左那?……ふふふっ




右那、思った通り、ね?
本当ね、左那。この男、背中に“空き”が二つも。

「あれ、身体が……重い……?気のせい……?」

ふふっ、不思議そう……すぐ慣れるわ。それに、“空き”を二つ持っている方が不思議。ねぇ、右那?
ふふふっ、そう。おかげで、離れられない私達が一遍に憑くことができたわ、左那。





この男、居心地が良いわ……。ね、右那?
本当。この男、弱々しい気がしたけど……大したもんね、左那。




男が勉強しているわ、右那?
男だって学問の一つや二つ修めていないことにはね。価値がないものね、左那?
邪魔をしたくなるわ。ふふっ……あははっ、急に筆が折れたものだから呆然としているわ、右那?
ふふふっ……意地が悪いことをしてはいけないわ、左那?



右那?何をしているの?
『てれびじょん』を消しているのよ、左那。五月蠅くて仕方がないわ。
男が目を白黒させているわ、右那。あんまり驚かしては可哀相よ……ふふっ。
私は静かなのが好きなのよ、左那。この男の都合は知らないわ。




男が寝ているわ、左那。無防備ね。賊が入り込んで来たらどうするつもりなのかしらね?
刀が無い時代は不便ね、右那。……台所に刃物があったわ。握らせておいてあげたら?
寝返りでもしたら男が怪我をするじゃない。危ないわ、左那。
あら、本当。寝返りして自分を切りつけちゃったわ、右那?……これ位の傷、死にはしないわ。




色々な本があるわ、左那。これは何の本かしら?…………あっ。
この男は力が弱そうね、右那?だけど、頭は回る性質…………あっ。
本棚が……倒れてちゃったわ、左那。男が下敷きよ。……まぁいいわ。
大丈夫かしら、右那?




ねぇ、右那?私達のおかげで、この男の運気随分と揚がったわね?何度か怪我させてしまったけれど。
ええ。この男、二つも“空いていた”ものだから随分と損をしてきたみたい。感謝してるかしらね、左那?



「……ええ……そう……最近……おかしな……まさか……本当ですか?……」
「……いますね……霊……二人……貴方……憑かれて……だから……」

男が話しているわ、右那。話し相手の女は嫌な感じがする……。
そうね、左那。嫌な感じ……。



左那、見て……。この女、私達が見えているわ。
睨んでいるわね、右那。…………なのにこの男、何がなんだか分からないみたいな顔をして……ふふっ。
馬鹿面ねぇ……ふふふっ。あら……?嫌な女が、もっと嫌な物を取り出したわ。どうするの、左那?
この男から剥がされたら堪らないわ、右那。厄介だけど……女を殺すわ。
そうね……。女は殺した方がいいわね、左那。




嫌ね、私ったら……ふふ……ねぇ、右那?
ふふふ……左那はまだいいじゃない。私なんか両腕切り飛ばされてしまったわ……ふふふっ。
……この男が……間に入らなかったら、消されていたかもしれないわね、右那?
……そうね、左那。



前拾
「大丈夫ですよ!霊は二人とも苦しんでますから!このまま消してしまいましょう!」

「…………え?」

「?どうかしましたか?…………さあ!抵抗は止めて!さっさと消え…………!……ぇ、何ですか?」

「……やめてください」

「……は?」

「やめてください……やっぱり除霊しなくていいです。やめてください」

「え、あの……。え?」

「除霊、やめてください」



拾壱
男が心配そうな顔をしているわね……、右那。……あら……私達が見えているみたい……ふふ……。
相変わらず情けない顔の男ね、左那?……ふふふっ……。ねぇ、あなた……?
あ……男が近寄っただけで怪我が消えるのね、右那。やっぱり、大したもんじゃないの……。
本当ね、左那……。……あなた、私達を剥がしたかったんじゃないの?

…………



拾弐
右那、男が大学へ行くわ。送らないの?
え?もう行ってしまうの?私も送るわ、左那……。
行ってらっしゃい……。
気をつけてね……。

男は難しい顔をしていたわ、右那。何か気に障ったかしら……。手は振らない方が良かったかしら……。
照れているのよ。可愛いじゃない。照れ隠しなのよ、左那。



拾参
「痛いのとか、苦しいの、嫌なんですよ」
「憑かれていて……ははは、痛い思いもしましたけど」
「苦しんでますから、って言われたとき、なんか……嫌だったんで……止めました」
「生活に支障無さそうですし、憑いていても、いいですよ……?」

変な男よね、右那?
そうね。変な男よね、左那?……でも少し…………。
少し……なぁに、右那?
少し……ふふふっ…………。
ふふっ、そう……。私も……。


拾肆(左那)
ねぇ?疲れているんじゃない?……うん、そう。大分疲れてるわ。休んだ方が……ね?
あら……何処行くの?寝室?必要ないわ、私が膝枕してあげるから。
……さ、どうぞ?
そぅ、そぅ。んっ、もっとこっち向いて?ほら、お互い顔がよく見える。
耳掻き、してあげようか?随分してないんでしょ?遠慮しないで、ってば……。
気持ちい?ん?気持ちい?ね?ふふっ……あっ……おっきーの取れたわよ?

あ……もう終わり?元気になった?そう……?
何かあったら、左那にいつでもお申し付けくださいね……なぁんて……。



拾伍(右那)
まだ……寝ないの?『れぽぉと』?を書くの……???『れぽぉと』ってなにかしら……。
あんまり無理したら……うん、早く寝なさいね?おやすみ……。

失礼します……。
……あ。起きてたの……?御心配なく。私も寝るところだから。
あら、同衾は嫌いなの?……でも、断るわ。
……暖かい、ね……ふふふっ……。
え?私が冷たい?……あぁ、死んだ身が恨めしいわね……。
それじゃ、名残惜しいけど……。用事は、遠慮なく右那に、ね?



拾陸(左那)
良い湯加減かしらね……。ん、どうしたの?そんなに驚いて……。
だって私、幽霊だもの。壁を抜ける位。
さ、頭を洗ってあげる。おいで。
……はいはい、その慎ましい姿勢、私も見習うべき所が多々あります。
さ、頭をこっちに……。



拾漆(右那)
頭は洗い終わった?長いわよ……っとに。
さっ、次は身体を洗ってあげるわ。
そっちに立ってて……。ん、どうしたの?座ってたら洗えない。意地悪しないで?
背中が広いね……。え?なぁに、大変だなんて。
洗いながらでも話はできるから……。さぁ、おいで。



拾捌(左那)
さ、口を開けて。私が食べさせてあげるから。
あ~~~ん。
どうして逃げるの?……ふふっ、恥ずかしいんでしょ?分かってる……ふふ……。
さ、……また逃げる。早く食べないと口移しにするわよ。あぁ、それがいいわね……。んっ……。ほら口開けて……。
……ちょっと。なんで早食いするのよ。



拾玖(右那)
口元汚れてるわよ……。拭いてあげる。あら……。
顔を逸らさないように。
ほぉら……子供じゃないだから……ふふふっ……。しょうがないわね……。
え?あぁ、気にしないでいいわ。私の手拭位、何枚汚れても構わないから。ね?
ほらぁ、また汚してる……ふふふっ……。



あなた……後悔してない……?
私達を憑かせ続けたこと……。

そぅ……良かった。

こんな美人を、それも二人、侍らせてるんだもの……ふふっ。
当然の回答ね……ふふふっ……。

あなたが死ぬまではずっと一緒……。ね?
でも、あなたが死んだ後は……また二人ぼっち、かしら……。

もうちょっとだけ……時間があるから……。ね?
あなたがいなくなるときのことは……考えない……。
最終更新:2011年03月01日 00:11