此処は一体・・・何処なんだ?
いつもの苦しさを感じない不思議な幕開け

気が付くとそこは見慣れない場所だった
いつもと違う始まり。
混乱したが周りを見回して、何とかそこが病室だと理解した。
「良かった。気が付いたんですね。今先生を呼んできますから」
見たことの無い女が何か騒いでいる。
医者から話を聞いたところ、俺は1年近く意識が無かったらしい。
だが、それ以外は何も教えてもらえなかった。
「彼女はっ・・・巻き込まれた彼女は無事なんですかっ?」
「それは、おいおい・・・回復してからお教えします。
 まずは自分のことを優先してください。」

しばらくして、何とか車椅子で動けるようになった頃、担当医から
「会ってみますか?」
突然訊かれた。最初は何の事か分からなかった。だがすぐに
「会えるんですか?彼女に」
「会うだけ・・・でしたらね。」
連れて行かれたのは違う棟の病室だった。
そこで彼女は静かに眠っていた・・・
「貴方と同じで、意識が戻らないんですよ。」
「そう・・・ですか。」

彼女もまた俺と同じように生きていた。

それだけで嬉しかった。
今度は俺が待つ番だ。
いいさ待つぐらい、いくらでも我慢できる。
「なぁ、俺もうそっちに行けないよ・・・」
「・・・・・・」
「お前もこうやってずっと待ってたのか?」
「・・・・・・」
「辛いよなただ待ってるってゆうのは・・・」
「・・・・・・」
「早くこっちに来いよ・・・両想い・・・なんだろ・・・」
「・・・・・・」
「お前の声・・・聞きたいよ・・・」
静かに眠ったままの彼女。
毎日、時間の許す限り彼女の傍で声を掛け続ける。
いまだに返事は貰えない。



辛いリハビリをこなし、何とか自分の足で歩けるようになった。
「俺、もう自分で歩ける様になったよ」
「・・・・・・」
「いい加減起きてくれよ・・・」
「・・・・・・」
「お前の声、聞きたいよ・・・」
「・・・・・・」
「俺の事忘れてても良いから・・・
 嫌いになってても良いから・・・
 目を・・・覚ましてくれよ・・・」
ピクッ
「えっ?動・・・いた?」
彼女の瞼が震えたような気がした。
そして零れ落ちる涙。
「泣いて・・・いるの?
 そんなに辛いのか?」
「・・・・・・」
返事は無い・・・だが、彼女の目が・・・開いていく
「俺が・・・見えるか?
 声が聞こえるか?
 誰か解るか?」
「ん・・・ん?」
「良かった・・・良かった・・・」
「あ・・・れ・・・?」
「ごめんな・・・ごめんな・・・良かった・・・」
馬鹿みたいに同じ事しか言えない

その内、涙があふれて嗚咽しか出なくなった。
「ば・・・かぁ・・・」
「うん。ごめんな。」
「寂し・・・かった・・・よぉ」
「うん。俺も・・・」
「何で・・・泣いてる・・・のよぉ」
「泣いてなんか・・・ないぞっ」
無理やり笑顔を作ってみる・・・が、無理だった。
「悪い、嬉しくても笑えないや」
「ふふっ・・・変な・・・顔」
「やっと・・・笑った・・・」
久しぶりに見る彼女の笑顔。
まだぎこちないがやっと見れた。
それだけで、全てが報われた気がした。

どうして生きていたのか・・・
あそこがどういった場所なのか・・・
今となってはどうでも良い。
これでやっと新しい物語が始まるのだ・・・



その後
「ちょっと!早くしてよっ」
「ま、待て・・・心の準備が・・・」
「な、何よっただのマッサージでしょっ。
 早くしてくれないと・・・私も・・・緊張してボソボソ」
「分かった。分かりました。今すぐやります」
「へ変な所・・・触らないでね」
リハビリ後のいつものやり取り。
もうすぐ彼女も退院できる。
「なあ、退院したら何処行きたい?」
「海が良いなぁ・・・別に・・・貴方と一緒なら・・・何処ボソボソ」
「うんいいねぇ海。ん、顔、赤い?」
「水着は・・・ダメ・・・よ」
「なっ!」
最終更新:2011年03月01日 09:55