つんでれぃ見習い
1
今日、すげえかっこいい人みかけた。
あたしが高校に入学して通学路になった道で、桜の木を見上げてた。
その辺の男子みたくチャラチャラしてなくて、どっか線が細い感じで。
ラッキーなことに、学校への行き帰りには、必ず彼を見かけるようになった。
けど、あたし、そのうちに気がついてしまった。
彼は、生きてる人じゃなかった。
2
フツーの人には見えないようないろんなものが見えるあたしは、そのことについては友達にも言わずに過ごしてきた。
あんまり話すようなことじゃないなって思えて。
あたしの場合、ギュって感じで睨むと、その「いろんなもの」って見えなくなるんだ。
見ていて怖くなる相手だと、睨んだままでやりすごすわけ。
見えなくなるだけで、その対象がいなくなるわけじゃないんだけどね。
彼が、あたしが睨むと見えなくなることに気がついたとき、とても悲しかった。
あんなかっこいい人にカレシになってもらうなんて夢の夢…というよりも、そもそもカレシカノジョになれないような気がする。
3
今日もいる。やっぱり睨むと見えなくなってしまう。
って、、目が合った?
「何でいつも俺のこと睨んでるんだ?」
ひゃあ、喋った!
あたし、言葉が出なかった。
すげえ緊張するというかどきどきするというかもうどうしていいか、何か喋らなきゃ、何か…。
「ち、だんまりかよ。 ざけんなコラ」
「…にっ睨んでなんかないもん! ふざけてもいないもん!!」
ぎゃー、そうじゃないだろあたし!
喧嘩ふっかけてどうすんの!
「いい度胸してるよな…」
あーあ、やっぱり怒らせたよ、あたしのバカ。
「俺が幽霊なのわかってやってんのか?」
「バーカ幽霊なんて別にこわくなんかないよーだ!」
…泥沼。バカはあたしじゃん。
いたたまれなくなったあたしは、その場から走り去った。
4
「ふーん、いい部屋じゃん」
ひゃ?
あたしの部屋に、あの人が立ってる。
「な、なによ人の部屋に勝手にあがりこんで、バッカじゃない!」
憎まれ口しか出てこない自分の口が恨めしい。
そりゃ、仲良くなってもしょうがないかもだけど、喧嘩するのはもっとしょうがないじゃんよ。
アコガレの人なのにさ(幽霊だけど)。
「あのな、俺としても、毎回睨まれるのは不愉快なわけだ。この際理由言わなくてもいいから、睨むのはやめろ。祟るぞ」
彼はそう言うと、しゅうっと消えてしまった。
部屋に一人残ったあたしは泣きそうな顔をしているんだと思う。なにやってるんだろう、あたし。
5
「睨むなって言ったろ、これで何度目だ」
「睨んでないもん。いちいちつっかかってこないでよ、うるさいなぁ幽霊のくせに」
「お前俺の言ったこと覚えてないんじゃねえの? マジで祟られたいのかよ」
「うるさいなぁ、あんたのことなんて怖くないもん。バーカバーカバーーカ」
あたし、もうダメだ。こんな調子で止まらなくなってしまった。
途端に、すうっと空気が冷えて、彼の顔色がより青く見えた。
祟られるのも自業自得ってやつよね。幽霊に喧嘩売ってるんだし。
「怖がらせようとしてもムダなんだから! やれるもんならやってみやがれ、バーカ」
彼は凍りついたような表情を浮かべ、無言で、あたしのほうに手を伸ばす。
さよならお父さんお母さんおじいちゃんおばあちゃん友達。
あたしは、目を閉じて、そのときを待った。
6
ひんやりとやわらかいものが唇に触れた。
閉じていた目を開くと、目の前に彼の顔があった。
もう一度唇に、さっきと同じ感触。
キスされたんだ。
あたしは真っ赤になって彼から離れた。
「ひどいよ、祟るんじゃあなかったの?」
涙が出てくる。
「人の弱みにつけこんで…どうせあたしはあなたを好きだよ、バカー!」
そこまで言うともう涙が止まらなくて、あたしはわんわん泣いた。
おしまい
結局あたしは祟られることはなかった。
そのかわりに、あたしだけに触れられる、大切な彼氏ができた。
たまにとんでもないタイミングでエロに走るのが玉に瑕だけど、それ以外はさして不満もない。
「俺幽霊じゃん。それは問題ないのか?」
…うん、問題ない。大好きだよ。
最終更新:2011年03月01日 11:07