我が輩は猫である。名前はそう…多分…「トラ」だ。
ご主人様が以前、そう呼んでくれていた…。
だけど近頃はご主人様は構ってくれない。この部屋に引っ越してきてからだ。
この部屋に来た時に、既に先住者はいたのに、なぜかご主人様には見えてなかったみたい。
その“見えない”先住者はご主人様を気に入ったらしく、事ある毎にご主人様をからかっている。
まぁ、壁に字を書いたり音がしたりする度に大袈裟に驚くご主人様は、我が輩から見ても可愛いものである。
あ、ほらまた…部屋の隅で布団を被って震えながらうずくまってる…。
仕方ない…、先住者には我が輩から言うとしよう…。
にゃあ
先住者には我が輩の言葉が分からないとみえる…。
何をきょとんとしているんだろう…。
にゃうにゃ~お
「ひゃうっっ!な、なにこの猫…、あたしの事が見えるの?」
ずっと見えてましたとも。あなたが気付いてなかっただけである。
にゃ~お
「あ、あっち行ってよ!あ、あたし猫なんて大嫌いなんだから!」
好きで寄っていってる訳ではない。ご主人様をからかうのを少し控えてほしいから言っているのだ。
「だ、だから…あっち行けってば!こ、こら!スリスリしちゃだめっっ!喉ゴロゴロ鳴らさないっっ!」
ふむ…、このまま続ければしばらくは姿を出さないかも。
と言うより、こちらもまた可愛いものである。ご主人様がされた分、からかってやりたいのだが…
何しろ、ご主人は怯えて我が輩の食事の事まで忘れてるようで、腹が減って仕方ない…。
「ちょ、ちょっと!あっち行きなさいってば!!ひゃんっっ!な、舐めちゃだめ!もうっっ!」
おや?いなくなった…。どこへ行ったのか…。まぁ良い、それよりご主人様に食事の催促をするとしよう。
おーい。我が輩の食事はどうなりましたかー?もう3日食べてないんですけどー。
あなたの可愛いトラがお腹減ってますよー。
- だめだ。起きないな、これは。我が輩も寝るとするか。
んにゃ?
なんで、いつの間にご飯が用意されてるのだ?まぁ良い、ありがたく頂こう。
「か、勘違いしないでよね!あたしは猫ちゃんが好きな訳じゃないんだからねっ!
…そ、そうよ!たまたま猫缶を見つけたから持って来ただけなんだからっ!」
あぁ、あなたでしたか。ありがとうございます。どうでも良いですが、食べてる所をジロジロ見ないでください…。
なにをそんなにニヤニヤしてるんですか。食べにくいじゃないですか。おいしいですけど。
「水も汲んできてあげたわよ!こ、これもたまたまなんだからね!空になってるのに気付いてたからじゃないんだからねっ!本当に勘違いしないでよ!」
ここまでしてもらっては、お返ししなくてはいけませんよね。んと…何をしてさしあげましょうか…。
「ちょ…こ、こら!指舐めないの!…きゃはっっ!太股に乗らないで!肉球がくすぐったいよぉ!」
食事と水のお礼です。それとご主人様のお返しの分も。
「きゃははっっ!顔舐めちゃだめだってば!肩に乗るのもだめ!もう…キミは甘えん坊なんだから!」
甘えてる訳ではない。サービスです。もうご主人様をからかうのは控えてください。
翌日からご主人様へのからかいは確かに減った。分かってくれたようだ。
しかし…我が輩にべったりくっつくな。裏返して腹をモフモフするのはやめい!肉球を触るな!
「わぁ~ぃ!お腹フカフカ~♪肉球プニプニ~♪」
助けてご主人様…
最終更新:2011年03月01日 21:55