仕事を終え、コンビニで飯を買い、アパートに帰って、
居間のドアを開けると中に女がいた。
はて、俺は結婚もしていないし彼女もいない。
なのに目の前でくつろぎながらTVを見ているこの女はなんだ。
前に飲んだ時誰かに鍵を渡したのか?記憶を思い出そうと良く見てみる。
年の頃は十代後半か二十代前半か?
髪は黒のストレート、細身で白を基調とした、ブラウスとスカート。
顔はここからはよく見えないが、だらしなくテーブルにもたれかかって
TVを眺めているのは既に家の「あるじ」の風格すらある。
・・・やはり思い出せん。とりあえず家主は俺だ、部外者はご退場願おう。
声を掛けてみるが当人は気づいてない、よほどTVに夢中とみえる。
咳払いし今度は声を大きくして注意する。
・・・・・・気づかれない、どうしよう。
掛けても駄目なら押してみろ、俺は女の肩に触れようとした。
!?
触れようとした俺は、そのまま前転の格好で奥にあったくずかごにぶつかった。
衝撃で掛けてあったハンガーが落ちてくる。ちくしょう、痛い。
頭を押さえながら女の方を見た。衝撃の音で気づいたらしくこっちを見ている。
よかった、気づいてくれた。髪が長くてさっきは良く見えなかったが
こうして見ると中々の美人だ。こんな事態でなかったら
マスターに頼んで女に酒を振舞いたいところだ。
・・・おっといかん見惚れてしまった、とりあえず女が何者か聞かねば。
かける言葉を考えてると向こうからかけてきた。
「・・・・・・あんた、だれ?」
それは俺が聞きたい。戸惑ってると彼女はまくし立てた。
「なに人の部屋に勝手に入ってきてんのよ!警察呼ぶわよ!」
ちょっと待てそれはこっちのセリフだ、呼びたいのはこっちだ。
しかし彼女は次々とまくし立てる。
「変態!痴漢!最終日東館壁際!近寄るなストーカー野郎!
そ、それ以上近寄ると舌噛んで死んじゃうからね!」
目の前で死んでもらっては困る。俺は彼女を落ち着かせようと肩に手を
―――かけようとして再び前のめりに倒れた。
・・・なるほど、すり抜ける体を持ってるなら不法侵入は簡単ではあるな。
俺はフローリングの床の固さを実感しながら不思議と感心した。
さてこのような特殊能力の持ち主に俺はどう対応したものか。
なんて事を考えてると、彼女の方も困惑した様子でこちらを見ている。
「あ・・・あんた今何したの?私の体・・・通り抜けた様に見えたけど・・・」
動揺している。すり抜けるのは彼女のあずかり知らぬ事か。
まあ、さっきよりは興奮した状態では無くなったので落ち着いて話は出来るか。
「それはこっちが聞きたい、それに俺は強盗でも何でもない。
この部屋の住人なんだけど、君こそ何者かな?」
「・・・あたしもここの住人よ。」
やれやれ、色々と整理する事がありそうだ。俺はため息をついて彼女に言った。
「すまんが状況整理の為にここはひとつ、話してもいいかな?」
彼女は俯いてしばし考えた後、静かに頷いた。
それじゃあここに住んでいたという事と名前以外思い出せない訳だ?」
「そういう事になるわね。」
彼女―――有紀と名乗る女はそう答えた。
俺の方は大家の賃貸契約書等を引っ張り出して、有紀に住んでいる事を納得させた。
ちゃんとサインもあるし、電気水道の請求書もある。
物的証拠がある限り家主は俺だ。主張だけする有紀は不審者である。
「二重に契約したという事もないし、主張だけじゃ怪しいな。」
「・・・でも!私はここに住んでいるのよ!間違いないわ!」
さっきから堂々巡りだ。何とかして帰って頂きたいのだが
有紀はここの住人という事を主張してきかない。いったいどうしたものか。
「まあ、ちょっと疲れたろ?冷蔵庫に飲み物あるから取ってくるわ」
有紀はふてくされてそっぽを向いていたが、こくりと頷いた。
俺は冷蔵庫に向かって飲み物を探した。
あったあった森永ココア。疲れてる時には甘い物に限る。
二つグラスへと注ぎテーブルへと運んだ。
「とりあえず一息つこう、落ち着いたら何か思い出すかもな。」
言って俺はグラスに口をつけ、ココアを飲み干す。
・・・うまい、残業帰りで疲れた体に染み渡る。
全身で美味を感受していたがある事を思い出した。
しまった、有紀はすり抜けるんだった。当然グラスもすり抜けるのだろう。
自分の迂闊さに舌打ちした。思わず有紀の方を見る。
有紀はグラスを両手で持ち、口へと運び半分ほど飲んでから一言
「・・・ありがとう。」
と言ってテーブルへグラスを置いた。俺は目の前の光景にしばし呆然とした。
有紀はそんな俺の抜けた顔に不思議そうな顔をする。
「どうしたの?」
「ちょ、ちょっと俺を触ってみてくれない?」
有紀は顔に疑問符を浮かべながらも俺の言うとおりにする。
有紀の真っ白な、よく整った手が、俺の肩に、触れた。
「やっぱり!」
「だからどうしたの?」
「君から触ろうとするのは問題ないが、こっちから触ろうとするとすり抜けるんだ!」
そう言って俺は彼女の体に手を伸ばした。
やはりすり抜ける。手を開けて又握る。左右へと腕を振って円を描く。
目の前に体があるが、実態を感じさせず突き抜ける。
ホログラムというものがあるが、それを思い浮かべてもらえればいい。
彼女の体を腕がすりぬけ、背の先に手のひらが見える。
難しい問題を解いた学生の様に俺は喜んだ。
・・・?・・・彼女の様子がおかしい。わなわなと体を震わせている。
まさか!透過を続けると体調が優れなくなるのか?
不安を感じていると有紀は俺を睨んで言った。
「・・・あんた!何ドサクサに紛れて胸を触ろうとしてるのよ!
やっぱり変態!変態!変態!気を許した私が馬鹿だったわ!」
「いや・・・ちが・・・」
誤解を解こうとした俺に向かって右ストレートが飛んできた。
無防備だった俺はもろに食らい崩れ落ちる。
「H!助平!送り狼!オナニー野郎!半角二次裏!またお前等か!etcetc・・・」
マシンガントークと同時に有紀は倒れた俺に向かって蹴りを連打する。
俗にいうサッカーボールキックという奴だ。
俺はその度重なる衝撃で廊下の方へと追いやられた。
後ろでガチャガチャと音がする、どうやら鍵をかけられたらしい。
ドアの向こうで有紀の怒髪天を衝く声がする。
「あんたがこのアパートに住んでる事は認めるわ!でも家主はあたしよ!
そのドア開けて入って来て見なさい!酷い目にあわせるわよ!」
すでに酷い目にあわされたのだが、一応住んでいる事は認めてもらえたらしい。
これからどうしようか・・・俺はしばらく思案して愕然とした。
「ああ・・・コンビニ弁当は居間の中だ・・・ちくしょー・・・」
これが有紀との奇妙な共同生活の始まりだった。 ~つづく、かも~
ツンデレとはちょっと違うかもしれないが投下してみました。
何か又、閃いたら書き込んで見ます。
最終更新:2011年03月02日 20:58