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俺は出逢ってしまった瞬間にその姿に魅了されてしまった。
それがどれほど恐ろしく、無慈悲な存在であるのかを理解していながら・・・

――濡れたように艶やかで滑らかな黒髪――
――白磁のように透き通った肌――
――闇夜に浮かぶ月のように輝く金色の瞳――
――血に濡れたような艶めかしい唇――
そして
――その全てを覆い尽くす漆黒のローブと自身の背よりはるかに長く大きな鎌――

「そうか・・・私が見えたか。残念だろうが、そういう事だ・・・。」

そう、彼女の名は死神。
見たものを確実に冥府へと送り届ける死者の水先案内人。

ああ、俺はこれで終わり・・・殺されるのは仕方が無い。
俺にはそうなる理由がある・・・だが、なぜ今なんだ?
いや、俺だから今なのか・・・
だが、せめてあと少し・・・そう、あと少しで約束が果せるというのに・・・。

「どうした?恐ろしくて声も出ないか?
 ふん。見た目以上に情けないヤツだな」
「どう・・・して、どうして今なんだ?あと少し、
 あと、少しだけ待ってもらう事は出来ないか・・・?」
「出来ない相談だの。こう見えて、私も忙しい身でな」
「そこを何とか・・・地獄に落ちようが、召使や奴隷になろうが、自縛霊になろうがかまわないから・・・」
「ほう。珍しい命乞いの仕方だな・・・面白い」
「待って・・・くれるのか?」
「ああ、良いだろう。3日だけくれてやろう。
 なに、ここ最近は向こうへ連れて行くヤツが多すぎてな。少し休む位かまわんだろう」
「あ、ありがとう!本当にありがとう!」
「か、勘違いするな。お前の為ではないっ。本当に骨休めの・・・」
「ありがとうっありがとう」
死神の手を取り必死になって感謝する。
「ええいっ鬱陶しいっ!・・・今すぐ殺されたいか?」
「えっ?あっすいません。ごめんなさい」
気付けば死神のローブが肌蹴てしまっている。
「では良いか?3日後のこの時間、お前の命を貰い受ける。
 それまでは好きにするがいい」
「解りました。それで・・・貴方はその間どうするんですか?」
「ん、言ったであろう?骨休めをすると。まあ、好きにさせて貰うさ」

怪しい笑みを浮かべて、どこかへ消えていった。


翌日

朝から普段どうりに出勤し、溜まっていた仕事を片付ける。
自分が居なくなっても大丈夫なように、続きの指示を残し・・・
「これで、大丈夫だな・・・。」
「お前はこんな事のために命乞いしたのか?つくづく仕事人というか・・・」
「うわぁっ・・・ど、どうして此処に?」
背後から急に声がしたかと思うと、呆れ顔の死神がそこに居た。
「私はもっと面白い事があるかと思って、助けてやったと言うのに・・・ブツブツ」
心底面白くないらしくブツブツ文句まで言ってくる
「いや、あの~そんな事期待されても・・・」
「お前はツマラン。非常にツマランぞ。貴重な3日間であろう
 もっと、楽しむ事に使うとか出来んのか?」
「いや、楽しむといわれても・・・仕事、楽しいですよ」
「はぁ、もう良い。と言うより、そこまで仕事に精を出してどうするのだ?」
「え、仕事はきっちりやらないとダメでしょ?」
「いや、まぁそうだが・・・お前の場合は普通と事情が違うであろうが」
「はい。だからこうやって、今日中に何とか仕上げてるんですけど」
「もう良い・・・心底まじめ人間じゃ・・・昨日は面白そうだと思ったのだが・・・ブツブツ」
本当に気に入らないらしい・・・こいつ不真面目な死神なのか?
普通に考えて、期日を延ばす事などありえないし・・・
ひょっとしたら見逃してくれたりするのだろうか?


2日目

部屋を片付ける。
長い事居た部屋だ・・・狭いが思い入れもあるし離れたくは無い。
だが、明日で終わりの身。精一杯感謝の念を込めて部屋中を磨き上げる。
死神は、やっぱりつまらなそうにしながら俺の後のほうでブツブツ文句を言っていた。
何とか、掃除が終わり夕食の時間・・・最後の晩餐・・・にしては質素な夕食だった。
一人で食べるのもなんだか気がひけて、死神に声をかけてみる。
「一緒に食べませんか?」
「なっ、私に言っているのか?」
「他に誰もいませんよ。それとも、カレー嫌いでした?」
「そういう事ではなく、こういった場合、恋人や、友人と食べたりするのではないのか?」
「居ませんから・・・。それよりいかがですか?結構旨いんですよ」
「お前がそれで良いなら・・・頂こう」
「はい。頂きます」
二人で手を合わせて食事にする。
「ふむ。ちと・・・辛いが・・・旨いの」
「でしょ」
死神が、ちゃぶ台でカレーを食べると言うなんともシュールな絵だったが
喜んでもらえた様だ。以外にも、彼女は正座が出来た。
「お願いがあるんですけど・・・良いですか?」
「見逃せ。と言うのは無理だぞ」
「そうじゃなくて、明日俺のそばに居ないで欲しいんです」
「ふむ・・・まあ、よかろ。約束を破るとも思えんしの」
「時間には必ず、あの場所に行きますので」
「必ず・・・だぞ」
「はい」


最終日
無事に用事を終え、約束の場所に行く。
死神は・・・居た。なんか怒っている様だ。時間は・・・まだ大丈夫だ。
「おっ、お前はあんな事の為にっ・・・」
「憑いて来てたんですか?」
言葉を遮って質問する。
昨日約束したはずだ、憑いて来るなと。
「そ、それは悪い事をしたと思っておる・・・が」
「なら訊かないでください」
「し、しかしお前はそれで良いのか?」
「今日で一応約束は果たしましたし・・・」
丸3年続いた月命日の墓参り・・・今日でそれも終わり。
「何故だ?何故、お前がそこまでする必要がある・・・たかが・・・」
「あの人達にとっては大切な家族です」
「お前は・・・それで良いのか?誤解されたままで良いのか?」
「出来れば赦して欲しいですけど・・・無理みたいですね」
結局最後まであの家族に赦してもらう事は出来なかった
最後の約束の日である今日なら・・・と淡い期待も抱いていたのだが
玄関に入る事さえ許されなかった。
「お前は、自分が辛い思いをすれば赦してもらえると思っておったのか?」
「そんなことで赦してもらえるとは・・・」
「なら、何故あのような粗末な暮らしをしておる?
 何故、恋人も作らず仕事ばかりしておった?
 何故、友人や家族と連絡を取ろうとしない?」
まくし立てる様に追求される。
「そ・・・それは・・・」

見れば、攻め立てていたはずの死神の目が真っ赤になっている…
「お前は大きな勘違いをしておる・・・だが、今は言っても無駄であろう…」
そう言うと、少し俯いたまま何事かを考えているようだった…

「それで、俺はどうしたらいいのでしょうか?」
沈黙に耐え切れず、言葉を掛けてみる。
「わ、私は…お前と良く似た男を知っておる…。ほんの些細な過ちを起こし
 家族や友人、恋人に何も告げずに姿を消し……」
彼女がポツポツと後悔に責められるように話し始めた
「只、贖罪の為に日々を費やし…自身の幸福など…少しも省みず
 貧しさの中で、後悔の念に苛まされて…朽ち果ててしまった男だ。」

俺は不思議に想い、彼女の話を自分に当てはめてみる。
まるで俺とは似ていない。日々、貧しい生活をしているのは確かだが、
その中で、ささやかながらも幸せを見つけ、自分なりに満足のいく暮らしだったと思う。
後悔する事はあるが、生きていく上では仕方がないものだと思う。
「今、自分とまったく似ていないと思ったな?」
「当たり前です。」
「そう言うだろうと思っておった。
 …所で、初めて逢った時に言ったことは覚えているな?」
「待ってくれたら、地獄行きでも奴隷でも…」
「そう、それだ。今からお前を私の奴隷にする。」
「奴隷…ですか?」
「まあ、奴隷といっても私の仕事の手伝いをするだけ。ひどく楽なものよ。」
「解りました。楽なのかどうかは解りませんが…」
「そうと決まれば契約…なのだが…少し…目を瞑ってもらえないか?」
何故か、恥ずかしそうに告げる死神
言われた通りに目を瞑り、身構える…
と、不意にやわらかい香りが鼻をくすぐり唇に冷たい感触が残った…
そこで、今までの記憶が途切れた。



数年後
「ご主人様、一体何をしているんですか!早く次の仕事に行かないと!」
「お前は本当に口喧しいな…。昔とまったく変わってないではないか。
 さっきやっと帰ってきてゆっくり出来ると思っておったのに…」
「そんな事を言ってる余裕はありません。早く片付けてしまわないと…」
「解った。すぐに行くよ…それで、今作っているそれはなんじゃ?」
「カレー…と言うみたいですね?何故か急に作ってみたくなりまして。」
「ふむ、懐かしいの…さて、では次のはさっさと片付けてしまわなくてはな。」
そう言うと彼女はスッと消えてしまった。

私の主人は俗に言う死神である。ひどく怠け者で、いつもこの屋敷の中に居たがる。
何が目的なのか私が自分で何かを始めると、嬉しそうに見つめ…終わると必ず
「面白かったか?」
こんな質問をしてくる。
私はその問いにすぐに答えることが出来ない…「面白い…」というものが何か良く解らないのだ

だが、それで良い様に思える
私が「面白い」と言うものを理解した時が彼女との別れなのだ
多分、彼女は私が傍に居続ける事を望んでいる
そして、私もきっと居続けたいと願っている…
私は今日も彼女を喜ばせる為に何かを始める。
「面白い」と言うものを理解してしまわないように気を付けながら…
最終更新:2011年03月03日 21:35