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あいつは、いつもベッドの枕元に立っている。気になって眠れないんだよな。
「なぁ、お前もこっちに入って来たら?」
急に話しかけられ、あいつはビクッと体を震わす。
「あ・・・な、なんで、私が貴方と一緒に寝なきゃいけないの!?」
「俺が一緒に寝たいだけ。それに、そうやって枕元に立っていられると
気になって眠れないんだ。」
俺の本心だ。駆け引きとか、そういったのは性に合わない。こんな性格の
お陰で大分損してきた。
あいつは、無言のまま俺に背を向け、しばらくして消えていった。
いつもこうだ。正直な気持ちを伝えると相手に避けられる。
俺は、明日には、またあいつが出てきてくれることを祈り、
静かに両目を閉じた。意識が闇に同化していく。

「ちょっと!どっちかに寄りなさいよっ!私が入るところないじゃないの!」
突然の聞き慣れた声で、俺は飛び起きた。
「お前・・・来てくれたのか。」
「い、一緒に寝た方が湿気が強くなると思ったから・・・しょうがなく一緒に寝るんだからね!
私が一緒に寝たいわけじゃないの!分かった!?」
そう言いながらあいつは俺の横に入ってくる。
背をこちらに向けたままだが、あいつの息づかいが聞こえてくるほど俺たちは近付いてた。
俺は何も言わずに、あいつを後ろから抱きしめた。あいつは、一瞬ビクッと肩を振るわせたが
何も抵抗をせず、俺に抱かれる。
暖かかった。
何百年もこの世に残る、人間ではない存在のあいつ。それでも・・・あいつは暖かい。
「まだダメだよ。」
ポツリとあいつが呟いた。
「分かってる。しばらく・・・このままで居させてくれ。」
「うん。」
俺の声は―――あいつの声も―――震えていた。

「なぁ、一つだけ聞いて良いか?」
あいつから返事は無い。俺は構わず続ける。
「お前、生きていた頃の記憶あるんだよな・・・。
まだ旦那のこと、好きなのか?」
あいつは、力任せに俺の腕を振り払い、俺の方へ体を向ける。
「な、何言ってんのよっ!そんなこと、貴方に・・・か、関係無いでしょ!!」
いつもの照れ隠しの言葉とは違う―――触れられたくない物に触れられたからか、
本気の言葉に聞こえた。
俺の口から勝手に次の言葉が出ていた。
「関係あるさ!お前に惚れちまったんだから!」
言葉にして・・・あいつにぶつけて、やっと本当の・・・自分の気持ちが分かった。
あの記述を知ってから、俺の中に渦巻いていたモヤモヤが消えていく。
「なっ・・・人間と妖怪が幸せになれるわけ無いじゃない!
む、無責任なこと言わないでっ!」
確かに、先程までは俺も妖怪と結ばれるなんて無理だと諦めかけていた。
でも・・・一抹の希望は見えた。
「お前を抱いて・・・お前の暖かさを知って・・・
お前の中にも人間の部分が沢山あるって分かった。
大丈夫。俺に任せろ。俺を信じろ!」
無言のまま・・・
俺はあいつと、あいつは俺と、瞳を合わせたまま時が流れた。

「私、結婚なんてしてないの。」
永遠に続くかと思われた沈黙が破られる。
あいつは、話を続けた。
「彼が居なくなったのは、結婚式の前日。彼は死んだわけじゃないの。
私を捨てて、他の女と逃げたのよ。だから―――もう、何も思ってないよ。」
俺は、あいつにかける言葉が見つからない。あいつは、まだ言葉を続ける。
「だから、私は綺麗なままなの。ねぇ・・・信じてるからね!」
俺はやっとの事で声を出す。
「あぁ、俺を信じてく・・・・んっ!?」
何が起きたか理解出来なかった。
唇に柔らかい感触が・・・あいつの顔が俺の目の前にあった。
「し、信じてるからねっ!」
呆然とする俺を尻目にあいつはクルリと背を向ける。
俺は、何が何だかわからないまま・・・朝方まで眠ることが出来なかった。

「いつまで寝てるのよっ!いつも冷めないうちに食べてって言ってるでしょ!」
「ん・・・あ、あぁ。」
昨夜の事がまるで無かったかのように、いつも通りのあいつだった。
俺は、いつも通り、あいつの作った朝食を食べ、大学へ向かう。
「んじゃ、行ってくるわ。」
あいつは何故か赤くなっていた。
「ちょっと待って・・・ん・・・、ん・・・。いってらっしゃい!
また帰るの遅かったら怒るからねっ!」
いきなりのキス。そしてあいつは俺を蹴飛ばし、ドアを閉めた。
最終更新:2007年03月19日 03:57