このトンネルを通る時はいつも気が重い。
隣の町に出る時、最も近いルートなので使う機会も多いが、
実のところあまり評判は良くない。
と言うのも、このトンネルにはいろいろと曰くがあるからだ。
まずはこのトンネルを造っている時に事故が起きて人が死んだ、
とか、近所の住人がこの現場で自殺した、とか、玉突き事故があった、とか、
通り魔事件があった、とか、調布市は東京、とか。
うわ、つまんねー。
それだけ何か事件があっても、ここが主要交通路となっているいま、
いまさらこのトンネルをどうこうすることはできない。
だから、ここを通る時は、利用する人の方が気をつけなければならない。
特に僕みたいに「見える人」はなおさらだ。
「ちょっと!この人誰よ」(怒)
助手席に座った彼女は、後部座席を指さして僕を怒鳴りつける。
「いや、ほらそれって……僕のせい?」
バックミラー越しの後部座席には、肩までのストレートヘアーの幼い顔立ちをした15,6歳の女の子がちょこんと座っている。
当然、僕が車で家を出た時には乗っていないし、途中で車を止めた覚えもない。
つまり。
「君も『見える』んだから、いまさら言っても仕方がないと思うんだけど」
僕が肩をすくめると、彼女は頬をぷぅ、とふくらませる。
「だから、そういうことを言ってるんじゃないの!」
「じゃあ、一体僕にどうしろと」
「だって……今日は、やっと……ふたりき……もう!」
彼女は勝手に人で完結すると、信号待ちで止まった車からでていった。
「好きにすればいいじゃない!知らない!!」
彼女はこっちを振り返りもしないで、ずんずんと道を歩いていった。
車に残った僕は、ふう、と大きく息をつくと後部座席を見る。
後ろの女の子はこの展開に小さくなっている。
「気にすることはないよ、いつものことなんだ」
『あの、でも』
「どうやら、僕はそういった体質でね。外を歩くと連れてきてしまうみたいなんだ」
そういった僕に後部座席の女の子はぱっと視線を逸らす。
心なしか頬が赤くなっている気がする。
(また連れて帰ってしまうのかなぁ?)
でも、1人もふたりも同じか。
などと、結論付けた時に携帯にメールが入る。
『楽しみにしていたのに台無し!
でも、許してあげるから早く帰ってきなさいね』
上目遣いで少し恥ずかしげに強がる彼女の顔が浮かんでくる。
わき上がってくる笑いを抑えきれない僕にもう一通メールが入る。
『それと、浮気は許さないからね!』
そのメールを後ろから覗き込んだ、女の子はちょっと眉をひそめる。
『あの、このまま一緒にいると迷惑?』
「気にしないでよ。いまさら1人2人増えても変わらないし」
それでも心配顔の女の子に僕は言った。
「気付かなかった?さっきの彼女も君と同じなんだ」
目を丸くした女の子は、僕の言葉に安心したのか、後部座席に座り直す。
僕は家に帰った後、新たなおみやげを前に彼女にこってり絞られる僕と、
その尻馬にのって責め立てる、3人の霊達を想像して苦笑いした。
でも、それもまた楽しいかも知れない。
明日からしばらく続く騒がしい日々を思って少し浮き浮きしていた。
「体、保つかなぁ」
最終更新:2011年03月04日 09:58