眠る事が、恐ろしくてたまらない。
目が覚めた時、そこがこの世である保障など全く無い。
ここは病院の一室。目の前には抜け殻の私。
その抜け殻に毎日会いに来るあいつ。
私が寝ているのをいい事に、恥ずかしい台詞を並べ立てるあいつ。
残念だけど、全部丸聞こえだから。
…なんでもっと早く言ってくれないの?
聞こえているのに、今の私には返事を伝える事が出来ない。それがどんなに辛い事か。
そう言う事は、返事が出来る時に言いなさいよ。バカ。

あいつが帰って、私は私と二人きりになる。
…バカ、だって。おかしいよね。それはあんたも同じじゃない。
どうして、伝えられる時に伝えなかったの?
あんたがあいつをどう想ってるか、私は全部知ってるのよ?
あんたも、あいつも、こんなことにならないと素直になれないの?
…私の身にもなってよ。

この一人だか二人だか解らない夜を経て、あの時間がやってくる。
いやだ。怖い。眠りたくない。まだ、私は…

目が覚めると、すぐ隣から私の名前を呼ぶ声がした。
あいつがこっちを向いている。
あれ?…私が見えてるの?
状況を把握するより早く、あいつが私に抱きついていた。
そうか、私はようやく、一人の私になったんだ。
私は一言呟いた。

「バカ」
最終更新:2011年03月04日 10:38