三連休一日目の夜、ビデオを幾つか借りてきた。
「さて、どれから見る?」
「え~っと…じゃあこれから」
これか。これはこいつが自分で選んだ物だから一番に見たいのは解る。解るけど…
「幽霊が幽霊見て怖いもんなのか?」
「じゃああんたはどんな変質者でも生きてりゃ怖くないっての?」
「むっ…それもそうか。じゃあ最初はこれで決定な」
「それじゃあ電気消そっと」
そう言うと奴は電気を消し始めた。
「ほら、映画館」
「…暗いだけだろ。テレビは小さいし、座るの床だし…」
「雰囲気出せりゃいいのよ!文句あるならもっと稼ぎなさいよ!」
稼いだ所でソファもでかいテレビも置くとこ無いけどな。そう思った。
…家買えとか言われそうなので思うだけだ。
「じゃあ、見るぞ。…なんでもう手握られてんだ俺」
「あ、あんた怖がりでしょ?だから手貸してあげてんのよ」
うーむ、ベタだ。でも俺、まだ再生ボタンすら押してないんだぞ?ビビり過ぎだろお前。
では、視聴開始。

握っている手に力が入る。おいおい、まだなんも起こってないだろ。
握っている手に力が入る。この場面の何が怖いんだお前?
握っている手に力が入る。お、そろそろ来そうだな。
力が入る。そうそう、こういう場面なら解るよ。ちょっと痛いが。
力が入る。おい、落ち着け、痛い、痛いって。
力が入る。や、やばいかもしれん。こんな状況で来られたら…来た!

「~~~~っ!!」ゴリッ
「~~~~っ!!」
お、お前なんつう握力して…
「ひぅっ!」ゴリッ
「ぐぅっ!」
止め…
「うぅっ!」ゴリッ
「ぬぅっ!」
ゴリッゴリッゴリッゴリッゴリッゴリッゴリッゴリッ

「はぁ…あー怖かったー…いやいや、あんたの話よ?怖かったでしょ?」
「お…おぉ…おぉぉ…」
さらば俺の右手…
「う、唸るほど怖かったの?予想以上に怖がりねあんた…」
「ああ怖かったさ…死んじまいそうなくらいな…!」主に右手が。
「そんなに怖かったんなら今日、あんたの部屋で寝てあげても良いわよ?」
まだ怖いってかこのビビりめ。そのビビりっぷりが怖いんだよ俺は。
「へ、変な想像しないでよね!布団は別々なんだからね!」
ほう、意見が一致したな。俺はさば折りなんてゴメンだからな。
「次から映画見るときはすり抜けるモードで頼む」
「え?な、何で?」
不安そうな目をするな。俺だって自分の身は大事だ。

なんたってその手のビデオはまだまだあるんだからな。
最終更新:2011年03月04日 10:46