おれは貧乏だ。間違いなく貧乏だ。
金がないから貧乏なのではなく、いやそれもあるが、心まで寒いから貧乏なのだ。
元凶がある。
あいつは今年もやってくるだろう。このおれの繊細な心に風穴を空けるために。
赤い服を着た貧乏神―――。

ドガンっ!

「痛えええっ!?」
突然の後頭部への衝撃に、一瞬気が遠くなる。
振り向くと、赤い衣装に身を包んだあいつがいた。
「出たな貧乏神」
「サンタ様と呼べ。そしてプレゼントだ」
そう言って、包装された物体を赤いヒールで小突く。
結構な重さがあるようだ。これがおれの頭を直撃したのだろう。

「プレゼント……頼んだ覚えがまったくないが?」
「よろこべ。おまえがずっと欲しかったものだ」
貧乏神は自信ありげに胸を反らした。

足元の塊をジト目で眺める。少なくとも、去年のような被害はないだろう、と判断した。
一年前のクリスマス、おれはこいつに「女が欲しい」と切実に願った。
それは奇跡のように叶った。グラビアアイドルのようなお姉さんと一晩を過ごし、
そしていま、慰謝料と、誰の子ともしれない子供の養育費を払い続けている。
だから貧乏だ。
くそったれ。このエセサンタさえいなければいまごろクルマも買えたし、ハイビジョンのTVだって
買えたんだ。なにが悲しくてママチャリかつ14型ブラウン管なんだおれは?

「さ あ あ け る が い い ! そして歓喜に ふ る え る が い い !」
……ヒトの気も知らねーでよ。期待してんのはどっちだよ。
ああ開けてやるさ!おれにはもう絞り取られるカネはねーからな!

「ずっと、欲しかったものか」
「そうだ。私の綿密なストーキングの集大成だ。さあ!」
「まさか、ゴールド聖衣……!」
「ご、ごーるどくろす?な、なんだそれは?」
「チッ、違うのかよ」
「だ、だって、そんなもの調査ではっ……」
「あー欲しかったなーゴールド聖衣ー」
「う……」

なにやら意気消沈しているようだがいい気味だ。おれは一気に包装紙を引き裂いた。
なかから現れ出たのは白い箱。家電製品特有の金属臭がした。まさか!

「X-BOX360!!」
ボロアパートにもかかわらず、思わず叫んでいた。
ここ(ゲーム機)まで辿り着いてなんでWii じゃねーんだ!もっとキッチリストーキングしやがれ!

「ど、どうだ?うれしいか?」
貧乏神が顔を覗き込んできたがあいにくおれは接続に忙しかった。
正直、微妙なプレゼントだ。だがこいつにしてはマシなほうだろう。そしてカネのないおれは
娯楽に飢えていた。一刻もはやくゲームを始めたかった。
その様子に、貧乏神は得意気に鼻を鳴らす。
「もう夢中か。当然だな」
「ソフトは?」
こいつのことだから、忘れたという答えが返ってくるものだと思っていた。そしてさんざ罵倒してやるつもりだった。
「ふん。私に抜かりはない」
取り出したのは。

「お姉チャンバラVOLTEX!!」
そこまできてなんでブルードラゴンじゃねーんだ!姉チャンシリーズはカネがなかったからやってただけなんだよ!


※【お姉チャンバラ】 エロカッコイイお姉ちゃんが血みどろになりながら大勢のゾンビをぶった斬っていくゲームだょ!
基本的におんなじステージを繰り返すだけでカネがかかってないんだょ!だから2000円で買えるんだょ!
でもX-BOX360版はたいして変化はないのに7140円もするんだょ!

※【ブルードラゴン】 国民的RPG、ファイナルファンタジーを生んだ人がX-BOX360で作ったゲームだょ!
映画作る才能に恵まれなくてクビ吹っ飛んだけど、ゲーマーはまだ期待してるんだょ!



「……まあいいか。プレゼントだからタダだしな」
「ひっかかる言い方をするな。もっとよろこべ。ほんとうは狂喜乱舞したいハズだろう?」
「そんな超必殺技は習得してない」

もくもくとゾンビを斬り刻む。
ちくしょうなんてこった。これは真実、次世代機と呼ばれるモノか?なにも変わり映えしねえ。
この14型TVでは色っぽいケツも揺れまくっている(だろう)お乳も、凄さがなにひとつ伝わってこねえ!

コントローラーを静かに置く。
貧乏神が傍らに立っていた。なにかマズかったか?といった表情。
おまえは悪くない。悪いのは。

「貧乏って悲しいよな……」
「なんだ突然」
「おまえが来るたび痛感するんだ」
「私の生まれ持った気品のせいだな。気にするな、私に比べれば大抵の人間はクズだ」
「おまえすげえよ貧乏神……」
「サンタだ」

翌日、ハイビジョンTVを購入した。これで四社のカードが上限に達したことになる。
これからさらに冗談ごとではない極貧生活が待っているだろう。だが、ちまっこいTVで
貧乏気分を満喫するのはもうイヤだ。貧乏神になんか負けてたまるか。
だから、どんなに生活になっても、生きていようとは思う。せめてあと一年は。
最終更新:2011年03月04日 18:08