アットウィキロゴ
「えぇっと、まずはつかみの『うらめしや~』だったかなぁ?」
 内心ドキドキしていた。
 あたしが幽霊になってから初めて人を驚かす日が来たんだ。
 世の中には物好きな人もいる物で、格安というだけで「でる」って噂のアパートの一室に住もうって人が居る。
「って、そのおかげであたしも嬉しく成っちゃうんだけどね
 ああ、そうだ、効果音の練習練習…」

 ヒュ~ドロドロドロ

 うん、いい音も出るしこれで驚かせてやるぞぉ。
 幽霊は人を驚かしてナンボって、あたしの友達の幽霊さんも言ってた。
 まぁ、そのお友達は何だか恨みが晴れて成仏しちゃったんだけど…
 …っといけないいけない。
 集中しなきゃ集中……えぇっと
「う~ら~め~し~や~ぁ~」
 語尾をちょっと延ばしてみた。
 おお! これはいいかも!
 早く来ないかなぁ、この部屋の新しい住人さん。 あたしの最初の犠牲者。
「うふふ…うふふ」
 笑みまでこぼれてきた。
 だってしょうがないじゃない。 初めてなんだよ
 初めて人を驚かすことが出来るんだ。 それにはまずつかみを…
「つかみが大事…つかみが大事…」
 ―――集中してたせいかなぁ?
 まったく気がつかなかった。 あたしを凝視している目があることを。


「つかみが大事…つかみが大事…」
「あの…」
「ひゃう!?」
 突然声を掛けられた。
 驚きのあまり、普段あたしは出したこともない声を出してしまう。
 その声の主は、果たして目の前にいた。
「ここ、俺の部屋だよね…? もしかして…」
「はわ、あわ…ぅん…」
 完全に―――完全に意表をつかれた。
 驚かすはずが、最初に驚かされた。
 こんなの末代までの恥だ…許さない。
 絶対驚かして、その、オ、オシッコを、チ、チビルぐらいの恐怖を与えてやる。
 まずは、そう王道のあれだ。 王道って言うのは絶対に失敗しないから王道って言うんだ…ってあの幽霊さんも言ってた。
「う~ら~め~し~や~ぁ~…」
 よし、言えた。
 コレでつかみは万全。 絶対腰抜かして、オ、オシッコだってちびってるよね?
「………」
 ほら、驚きのあまり声も出ない。
 うふふ…うふふ……なんか、面白いかも。
「……なにそれ、ギャグ?」
 ――――え~っと…?


「ちょ、ちょっと、あ、あたし幽霊なんだよ! こ、怖くないの!?」
 思わずいきりたって叫んでしまった。
 くぅ、こんなの く~る で冷静な幽霊らしくないよぉ。
 でも、そうだ、絶対に驚かすしかないんだから!
「怖くない乗って言われても、俺、見飽きてるし…」
 ――――衝撃の事実、相手は強者だった――――
「み、見飽きてるって!」
「最初は驚いたけどさぁ、網何回も見慣れてると流石に飽きちゃうんだよね。
 それにしても、クク…ウクク…」
 目の前の青年は急にお腹を抱えだして肩を振るわせた。
 お腹でも痛くなったのかな? ちょっと心配だなぁ
「今時『うらめしや』だって! ウクク、ハーッハッハッハ!」
 ―――前言撤回、心配なんてしてあげない。
 なによぉ、そんな『今時』なんて!
 あたしはこう見えても、生前は りゅ~こ~のさいせんたん を行ってたんだからね!
「あ~っはっは…… 久々に大笑いさせて貰ったわ。 サンキュウ」
「あ…ども」
 ―――ども、じゃないだろ、あたし!
 内心自分で突っ込みを入れつつも、ちょっと頭を冷静にさせてみよう。


 あたしは幽霊。 人を驚かすはずの幽霊。
 んで、あるアパートの一室に住み込んだ(もちろん内緒で)
 でも、何かそのアパートは先客さんが居たみたいで、『霊が出る』噂もあった。
 で、全然誰も住まなくなって、あたしもいい加減ここから離れようと思ってた矢先に
 新しい住民が来るって言うことが決まった。
 で、その人を驚かす予定で練習してたんだけど……
「あ~それにしても、本当に憑いてるなんてなぁ、俺ってついてるかも。 ククク」
 こんな下手なだじゃれを言ってるような青年だった。
 しかも、幽霊さんには慣れているようで、全然驚いてくれなかった。
「う……」
 なんか悲しくなってきた。
 あたし、何の為に練習したんだろ…
 全部、コイツを驚かす為だったのに…
 そう考えてたら、涙が溢れてきた。
「あ、お、おい、泣くなよ。 泣くなんて幽霊らしくもないだろ!
 ……泣く幽霊……ハッハッハ、面白ぇ!」
 また笑い出した。 ムカツク。
 決めた! 絶対コイツ呪いまくってやる。
 古今東西聞いたこともない不幸な目に遭わせてやる!
「フンだ! アンタなんて絶対このあたしの手で 呪い殺してやるんだから!」
 まだ涙が乾かない顔で、ソイツを睨んでアタシは消えた。
 せいぜい、恐怖に怯えるがいいわ!

「呪い殺すって、ハハ! ボキャブラリーの少ない幽霊だなぁ! ハッハッハ」
 ……大笑いしてる。
 絶対、絶対、絶対、絶対不幸な目に遭わせてやる!
最終更新:2011年03月04日 18:50