…ちまい、にぃ枚…、三枚…、四枚…


夜毎、誰かが何かを数えている。
俺がこの現象に気づいたのは、ここに引っ越してきて3日目の夜だった。

…きゅうまい……
九枚目まで数え終わるとまた、

いち…まい…にぃまい…さんまい…
と、こうだ。声は庭の古びた井戸から聞こえてくる。
恐怖心よりも好奇心が勝って見に行った。

白い着物を着た女が井戸に浮かび上がっていた。うなだれ、何かをひたすら数えている。

ぱきり

小枝を踏みつけてしまった。その音に女は気づいたようだ。
こちらに顔を向け、もう一度、一から数え始める。

1枚…2枚…3枚…4枚…5枚…6枚…7枚…8枚…9枚…
イチマイ…タリナイ…

女が数えていたのは皿だった。
こちらをじっとり見ながら、女が口を開く。

イチマイ…タリナイ…

凍りついた時間の中、俺は気づいてしまった。




「むっはー、そのうなじ、サイコーーー」
「!?い、イチマ・・・」
「一枚でも二枚でも、オジサンが新しいのこうたる!!往生せいやぁぁあ!!」
「ぎゃー、くんなぁああ!!!…あぁ…」


しっぽりとした夜が過ぎ去った、次の朝、俺の家の皿はほとんど割れていた。
無事だったのはただ一枚。そこにはメッセージが…。


「別に満足したわけじゃないんだからね。また、来るんだから -菊-」



-終劇-
最終更新:2011年03月05日 10:04