実は僕 19才ですが実はまだ童貞なんです。
顔も悪くないし、頭の回転も速いし。(自称だけどね)
きっときっかけがないんだと逃げていた。
そんな僕にも何かきっかけがあればと思ってて出た中学の同窓会。
最後のティーンエイジャーの夏だった。


僕はいままで引っ越しをしたことがなく、周りの友達も小学校からの仲だ。
だが高校というものは誰しもが同じとこに行くわけではない。
中学校まで仲のよかった仲間内もたちまちに疎遠になり、
高校でできた仲間とつるむようになった。
そんな仲間内で話はもっぱら恋の話。
誰が別れた。誰がフリーでねらい目だ。誰がホテルに行った。
そんな他愛もない話ばっかりだった。
だがいつも僕は一歩引いて聞いていた。
それは、僕にだけ彼女がいなかったからだ。
僕は当時、恥ずかしながらアウトローを気取っていた。
女子に話しかけられても、流して、基本的には寝ているかどっかでたばこを吸っていた。
前にも言ったが別に僕は顔は悪くない。
やっぱりアウトローに惹かれる女子もいるらしくそんな態度でも話しかけてくる女子はいた。
僕の心の中でも仲良くしたい、つきあいたい、できればもっと高度なことを・・・という気持ちとアウトロー気取ってる心との葛藤でなにもできなかった。
そして、僕に残ったのは年齢=彼女いない歴だった。
そんなまま高校も卒業し専門生になった。

流石に専門でアウトロー気取るほど子供ではないが、
女性に対しては高校の時に全く免疫を付けなかったせいか、
奥手だった。




「僕だって彼女ぐらいほしいさ。。。。」
そんな呟きは誰も聞いてくれない。
だって、いま僕は救急車の中にいるのだ。





久膝に会った中学のメンツ。
男の子はみんなかっこよくなってて、女の子はいつのまにか女になっていた。
居酒屋に入って、幹事の短い挨拶の後乾杯。
男テーブルと女テーブルで分かれての開始だった。
僕はひたすらにテンションをあげて騒いだ。
最初、伏し目がちだった奴も酒が入るによって饒舌になっていった。
みんなの進路のこと、家庭のこと、高校の時のこと、中学の時の教師の話。

そんな話をしているうちに時間はあっという間にすぎて、一次会はお開きとなった。
せっかくあがったテンションを余らせてはもったいないとみんなは二次会へと。
僕もついて行った。いや、むしろ、先陣切って二次会に行った。
二次会はボーリングとなった。本当はカラオケという案もあったのだが、待ち時間が長すぎるためあきらめてボーリングにいった。

ここで、問題が生じたのだ。


正直、僕はボーリングがうまいのだ。アベレージ160以上。
中学の謝恩会の後にボーリングに行ったときみんなに50ピン以上差をつけてトップだった。
(しらけさせるのも嫌だし軽く手を抜こうかな)
そんなことを考えているうちに僕が投げることになった。
一次会とは違い、男女関係なしに、ごっちゃとなってのチーム戦だった。

「そーいえばさ、謝恩会の時のボーリング、相当うまかったよね??」
と、当時、クラス委員長だった子が話しかけてきた。
「えっ!あっ、うっ、うん。そうだったかも」
女の子と会話したのなんて久々で緊張してしまった。
そんな思いのまま投げたら、手を抜くことなんて忘れてしまって、いきなりストライクだ。

周りからは小さいけど黄色い声援がとんだ。
男メンツからはポコポコと頭をたたかれた。
「さっすがだね!!これでうちのチームは安泰だね!!」
僕は照れ笑いで返すのがいっぱいいっぱいだった。

雑談を交えながら1ゲームが終わった。
途中から手を抜いていたがそれでも174というスコアだった。
もちろん僕のチームは一位。
2ゲーム目に入る前に男メンツは買い出しとしてコンビニに走らされていた。
もちろん僕もそのうちの一人。
おかしだの、ジュースだの、酒だの。
買いも買って戻ると、早速2ゲーム目に移った。

みんなで買ってきた物を咀嚼しながらチーム戦。
「2ゲーム目もひっぱってってね!!」
と委員長。
照れを隠すかのように僕は買ってきた袋の中からウイスキーとりだして、ボトルから直でのんだ。
これが幸か不幸か起爆剤となったらしく、気がついたら2ゲーム終わって、198というスコア。
もう、どうにでもなれとテンションがあがった僕は楽しかった。
きっと、久々に女の子と会話したという事実が僕を酔わせていたのかもしれない。
照れを隠すためにひたすら呑んで呑んで呑みまくった。
どうやら僕は相当酒が強く、気がついたら隣の奴は酔いつぶれて寝てしまっていた。

「相当、お酒強いんだね。男子ほとんど寝ちゃってるし」
委員長に言われて周りを見渡すと、二次会に来た男子メンツ(一次会から全員なんだが)
14人の半分以上はぐーすかと寝ていた。
とくに僕の周りにいた男子は二ゲーム半ばから戦闘不能となっていた。
まぁ、実際僕も結構酔っていて、あまり頭が回っていなかったが。


意識したくなくても意識してしまう。
(ほとんど委員長とふたりっきりだこれ)
別に僕は今も昔もとりわけ委員長が好きって言うわけではないが、
やっぱり女の子と会話しているという事実が僕を意識させた。
「みんな、だらしないなお酒にのまれちゃって」
「だね。みんな僕よりのんでないのに。。。。」
「ふふふ。相当お酒強いみたいね。  そういえばあなたときちんと会話するの初めてかもしれないわね」
「えっ!あっ。うん。そうかも。そうだね。。。」
「だって中学の時からしょっちゅう学校サボってたもんね。男子とは仲良かったけど女子とは疎遠だったもんね~」
と微笑みながら委員長が言った。
(いまでも疎遠だけどね)と心の中でつぶやく。
僕は慣れた手つきでたばこを取り出し、火をつけた。
「たばこ吸ってるんだ~。悪くなっちゃって。いや、もともと悪かったっけ」
とからかわれた。
「たばこ、駄目?」

「ううん。平気。前の彼氏が吸ってたから」
驚くべきことできないんだろうが彼氏という言葉を聞いてむせてしまった。
「ごほっ、けほっ。かっ、彼氏いたんだ~」
なんとなく軽く言ったつもりだったのだがきっと真っ赤な顔していたと思う。
もちろん酒のせいじゃんなくてね。
「うん。高校の時にね。一年の時からつきあってたんだけど・・卒業の時あたりにね。。ちょっとね。。。」
と、どこか懐かしそうに話していた。そしていきなり
「そういえば今まで、彼女は?」

それこそ、本当に不意打ちで思いっきりむせた。
「えぇぇ!?ごほっ、こぼっ、ああ。彼女ね。。。」
「大丈夫?」と笑いながら言われてしまった。

ゼロと答えるのもなんだが恥ずかしく、
「一人か、二人かな」と嘘をついた。
ニヤリと委員長が笑った気がした。
「そっか~いままで彼女いないんだー」
「うん。そうなんだ。って、え!?」
「そんな簡単な嘘じゃ女の子だませないぞ」
とまたからかわれた。

そんな時だった
「お客様。申し訳ございませんが、御遊技終了していらっしゃいましたら、、、、、」
「あっ、はい。すいませ~ん。ほら~~~寝ちゃった男子起きてぇぇぇぇ」
流石、委員長。さっきまでのからかってた子と同一人物とは思えないよ。

みんなでボーリング場の入口に集まりまた近いうちに呑もうと約束して別れた。
僕は最後に
「がんばって、早く彼女つくりなさいよ~~」
と委員長に耳元で囁かれて、顔を真っ赤にしていた。


それから二十分後、僕は公園にいた。
潰れてなかった男子メンツで小さな宴会を催していた。
「そーいやお前、ボーリング相変わらずうめぇな~」とS君。
「いや、まぁね。」
「つかさ、S。それよりさ、こいつずっと委員長と話してたじゃん」
とじと目で酔いながらLが言った。
「そうそう。仲よかったじゃん」とS
「えっ。いゃ、まぁ。俺の周りみんな潰れちゃったし」
「おめぇー今彼女いねーんか?」といきなりMが言った。
さっきの委員長とのやりとりのせいでか、うつむきながら
「ええ。実はゼロでごじぇ~ます」
と正直に言った。
周りからは天然記念物でも見るような目で見られながら
「いままでなんか、出会いっていうのがないんだよね」とつぶやいた
「ふっ、ふはぁ、あははははは。おめぇ、出会いなんざ、待つもんじゃなくて作るもんなんだよ」とMが言った。

その後自分以外の三人はとっくに大人の階段上っていることがわかった。
なんか負けた気がして、いや完全に負けているんだろうが
へんなとこで意地張って
「うるせぇぇ。おめぇーら酒だ酒。進んでねーぞ。女よか酒だ!!」
といって酒にはしった。
気がつくと相当な量をのんでいる四人。

「ところでさ、もう八月も終わりに近いけど、この夏遊びまくった?」とL
「いや、俺、浪人だからずっと予備校。こうやって酒呑むのもこの夏、初だわ」とS
「俺、あれだ。彼女(ここ強調された)と海いって山行ってホテルばっか行ってた」とM
「んー。僕もなんだかんだ行って高校の時の奴らとキャンプしたり海いったり、旅行いったりしたな~。男だけだけどな(ここ強調してやったぜ)」と僕
「あはははは。悲しい奴め!」とL
「うるせぇ。そういうLはどうだったんだよ。」
「俺は謳歌したぜ。沖縄いったしな。ほら俺実家、沖縄じゃん。里帰りでさ~」
と和やかな顔で遠くを見ながら話していた。
「一夏の冒険ていうのかなー。いま彼女いんだけど沖縄で浮気しちゃってさ~」
と聞いてもないのに勝手にしゃべり続けるL。
要するに、自慢したかっただけなんだろう。

ひょんな話からLとその浮気相手が肝試しをした話になった。
「あー。無理無理。俺そういうの苦手。」とM
そうなのだ見た目、熊みたいなMは実は怪談とか駄目なのだ。

「あーー。そかそか。M苦手だもんな~、ゆうれぇーとかな。」とからかいながらS
LはそんなMなんざ関係なく、続きを勝手に話していた。
かいつまんで話すと
二人で浜辺でにゃんにゃんしていると後ろから物音して、見に行ったら墓場で
そのまま、墓地の中一周した。
というだけの話だった。

「そーいや、俺、肝試しなんて何年もしてねぇ~な~」とタバコの煙を吐きながらSが言った。
「じゃあ、いまからやろうぜ」と唐突に僕は言った。
「「「は??」」」 三人仲良くつっこみやがったぜ。
「いやさ、せっかくだからいまからやろうぜ肝試し」
「相変わらず唐突だなおめぇーは。でもいいねMいるし」とLがMを睨みながら言った。
「俺、ぜってーーーいかねーからな!!!!」とおきなりのM
「ふーーん。でもここの公園も薄暗くてなんかありそうだよな~~」とS
さすがS。ドSのSだけはあるぜ。


一同、仲良く(一人だけブルーで)近くの墓地にいくことになった。

ここら辺は繁華街まで十分もかからないため、墓地といっても百基ほどしかないお寺の墓地だ。
すぐ上には女子校があり、下にはコンビニという、今時の日本人らしい畏怖なんて全くない作りだ。

それでもやはり、夜の、しかも一時過ぎの墓地に進んで行きたがるような輩は肝試し中の僕らぐらいなものだった。

裏門から中に入りただ、墓地をぶらぶらするだけ。
Mの怖がっている姿をみて楽しもうというだけの目的だ。
ふらふらと暗く危なっかしい墓地の中をケータイの明かりだけで歩く。
ときたま、
「わっ」と声を出しMを驚かす。そのたびにMはきちんと驚いてくれて楽しかった。


「なんかさ、涼しくなってない?このあたり」と半分ぐらい来たところでSが立ち止まって言った。
どこまでもMをいじめたいらしい。さすが超ドSだぜ。
僕も思わずひゃっとしちまったじゃないか。
もう、腰抜けそうで泣き出しそうなMは
「もう、いいべぇ~。早く行こうぜ。立ち止まったりすんなょぉ~~」

そんな時、Lも
「いや、確かにすずしくね?つーか寒いっていうかなんか、嫌だなここ。」
おまえ、そんなにSっ気高かったっけ?
「あーもー。俺は行く。おまえら全員祟られろ。ばーーーか。しね。しね!!!」
とわめきながらMが走っていっちまった。

そんな時確かに、僕は聞いた。女性の声を。寂しそうな女性の声を



「おい。S、L。いまなんもしゃべってねーよな」
「おっ、おう。俺も同じ質問しようと、、、、」とS
LはLでMの姿を見て、爆笑していた。

「M、あいつ出口しらないべ。むっ、迎えにいくぜぇ。」とS
僕も一刻も早くここから逃げたくて賛同した。

まだ笑い続けてるLの両腕を二人でつかんで小走りで去った。

案の定、Mは正門の近くで出られなくなって小さくなって酒を呑んでいた。
酒で、怖さから逃れようとでもしているのだろうか。
「おめーらぁ。おせんだよぉぉぉ。ばーか。ばーかぁぁぁ。」と言うのが早いかどうか
いきなり、吐いた。
唖然とする僕らの前でMは吐いた。

足下みると、ワンカップの日本酒の瓶がころがっていた。
推測するに、さっき公園で呑んでた酒の余りを走った後に呑んで酔って吐いた。
こう考えるのが正論だな。
しかも、ワンカップ空になってて、明らかにMの肝臓君は限界の白旗をあげていた。


逡巡していたSだが119した。
それから五分後、救急車が到着した。
墓地の前でぶっ倒れているMをみて、不審な目でみる救急隊の方々。
「ごめいわくおかけします」と平謝り。

というわけで僕は付き添いで病院まで行くことに。
SとLはとりあえずタクシーで病院に行ったみたいだ。
救急車の中で取り調べというかMの身元を伝えたあとは、病院に着くのを待つだけだった。
そんな時うわごとの用に彼女の名前を言う、M。

Mの容態を聞くと隊員の人は
「ん~。まぁ。平気だよ。点滴二本ぐらいで今日中には帰れるよ」
それを聞いてほっとしたよ。
「さっきからつぶやいてるのは君の名前?」
「いや流石にそこまで女みたいな名前していませんよ」
「て、ことは彼女かなんかかな」
「だと、思いますね。」
僕と隊員が会話しながらも、まだずっとつぶやいているM。
すると隊員は
「君は彼女は?」
「いや、いまはいないっすね」
「あははは。じゃあ僕と一緒か。こないだ別れちゃってね」
と、とりとめのない話をした。
取り方にしては緊張した僕をほぐしてくれたのかもしれないが、
ここに来ても、そういう類の話で正直、うんざりだった。




「僕だって彼女ぐらいほしいさ。。。。」
その呟きは誰にも届くことはなかった。

すぐに病院に着き、その後、五分もしないうちにSとLがタクシーでやってきた。


急患として運ばれたMは点滴二本と親のビンタ二発で無事、
昼過ぎに退院した。

SとLと僕の三人はそのまま、昼飯にしようと近くのファミレスに入った。
病院というのは別に病気じゃなくても行くだけで精神的に疲れるものがある。
三人ともぐったりとして、何を食べたかも覚えてないぐらいだった。
そして解散となり、Lは帰っていった。
僕とSは家が近いので途中までは一緒だ。

ふたりでほとほと歩いているとSがいきなり
「そういえば、あの莫迦が倒れる前さ、なんかあの墓地、なんか変だったよな」
「うん。確かに最初SとLがMからかっているのかと思ったけど、
確かになんかおかしかったよ。いきなり寒くなったし。」

だよな。とつぶやいてSはそれっきり黙ってしまった。
僕とSの家はその墓地から五分もかからないところだ。

次の瞬間
「いくべ」と僕が咄嗟に口走っていた。
「は?」こんどはSしかいないからつっこみも一人だぜ。
「気になるから見に行こうよ」と軽く言った
「いや、おまっ、ちょっ。えーー。流石にあれはいきたくなんねーよ。」
とキレ口調でいわれた。


それいらいだまっりっぱなしな僕たち。
ついに分かれ道にさしかかり、お互いに
「「酒の飲み過ぎには気をつけるように」」と苦笑して別れた。


徹夜で病院だったため家に帰ると同時にベッドで突っ伏した。

気がつくと、もう真夜中。一時ぐらいだった。
無性にお腹がすいたが、僕の分の晩ご飯は無く、しかたなくコンビニまで行くことにした。

ちなみに、僕が向かった、一番近いコンビニは墓地の下にあるコンビニでもあった。


「720円になりますぅ~」と深夜なのに女の子の店員さんだった。

ふと、気になってしまった。
昨日の夜、墓地で聞こえた声の事を。
あれは、確かに女性の声だった。
なんと、いったのかまでは聞き取れなかったが、とても悲しい、寂しい声だった。

僕の脳は直結らしく、気がついたら墓地の裏門の前にいた。

「やべぇ、なんかやべぇ。」と独り言の僕。
時計を見ると時刻は二時。丑の刻。
「さらにやばいじゃん。。」とつぶやいた。


その割に足取りは快調で、気がついたら墓地の真ん中にいた。
その時だった。

また僕は確かに誰かの声を聞いた。
聞いてしまった。誰かの声を。

後ろを振り返る。
誰もいない。
横を見る。
誰もいない。
前を見る。
やっぱり誰もいない。

だが女性の声は聞こえる。どんどんはっきり聞こえる。
それは声から言葉にかわり文章になっていった。

「まっ く、な で わた ぃが・・・・」

確かに声は聞こえるのだ。
だが誰もいない。
「新入りのし たりかなんだ しらない ど」
さっきよりもっとはっきり聞こえた。
「いったいどうすればいいのよ。もう~」

相当、近くで聞こえた。手の届く範囲だ。

そんな事を考えていたときだ。
どすん。

「いでぇ!!」「きゃっ!!」

僕が頭を押さえながら叫ぶのと同時に声がした。

上を見ると、女性がふわりと浮いていた。
おしりをさすりながら。

唖然とした。呆然とした。目の前にあることが理解できなかった。

女性も同じらしくポカーンとしている。
お互いの目線は交わったまま何分見つめ合っていたのだろうか。
まるで、みらめっこみたいだ。なんて考え始めたときだった。
「あなたは、まだ、そのぉ、生きているの?」
「へっ?あっ。うん。まだ、たぶんいきていると・・・」
めっちゃ声、裏返ったし。

女性はすぅーーっと音もなく僕の目の前に降り立った。
さながらその光景は女神かと錯覚できるほどだった。
そしていきなりこんな事をいわれた。
「そうですか。生身の人間ですか。よかった。」
なにがよかったのかわからないまま、

「そっ、そうですか。それは良かった。」と答えてしまった。
なにが起きたかまったく理解できない。


「では、私はあなたを殺します。」

は。
いまなんと。
えっ。
はい?
はぁ?
僕に死ねと。いや殺すんですか。

「は?」
それしか言葉にならなかった。
「ここの墓地では最初に会った人間に取り憑くです。」
「それで僕を殺すの?」
「いえ。直接的に殺すのではないのですが、やはり背後霊に取り憑かれると体が不調になっていくらしいのです。」
「らしいのですって。ちょっ。そんな。」
「私もおととい、ここに来たばっかりなんで、何もわからないので質問されても答えられないと思います。あしからずです。」

大変なことになっちゃったみたいだ。

「とりあえず、君は幽霊なんですよね?」
「いえ、先ほどからあなたの背後霊です。」
「あー。はい。さようですか。。。ということはやっぱり僕に取り憑くんですよね」
「なんどもそう言ってると思いますが」
「あー。はい。さようですね。。。」

こうして僕は背後霊をゲットした。

正直。なにも理解できてなかった。


というか、この状況ではい。そうですが。では、がんばって取り憑いてください。
と、言えるのは基地外か精神の狂ったやっぱ基地外ぐらいだろう。


「とっ、とりあえず、ここじゃーなんだし、どこか場所移しますか?」
「あなたは、これからどこに行くつもりだったんですか」
「いや、まぁ自宅に・・・」
「では行きましょうか。道案内お願いします。」
「・・・・・・・」
理解しているのだろうか
「僕男の子。君女の子。僕の家でいいの?」
「私背後霊。あなた生身。」
「あー。はい。さいですか。。。」

ということでめでたく僕は初めて女性(母親以外)を部屋にあげた。
帰り道、背後霊らしく僕の後ろを漂っていた彼女だが、
すれ違った人がなんも反応しないということは見えていないのだろう。

僕の部屋は基本的に小綺麗だ。こういう時にそれだけは助かった。
テーブルを向かいに座る僕と背後霊ちゃん。
もう、女の子と向き合うだけでニトログリセリン並の衝撃だぜ。

「あのさ。。いろいろと質問してもいいかな??」
とりあえず、何も知らないままじゃ困ると思い、意を決した。
「申し訳ございません。先に言わせて頂きますが、
死ぬ前の事は記憶が曖昧で思い出せません。なので、
自己紹介もなにもできません。こっちの世界に来たのも一昨日からで何もわかりません」

ぐぅの音もでやしないぜ。俺の根性返してくれ。


「私から質問させて頂いても?」
「えっ。うん。答えられる範囲でいいなら」

「ここはどこ?」
「へっ?いや、あの僕の部屋ですが……」
「…………」
なんかすごく莫迦にさにしている目つきで見られている気がする。
「ここの地名はなんですか?という意味でお聞きしました」
「ああ。あああ。うん。ここは○○市の××区っていって、まぁ、繁華街からも近いし、ここら辺は静かだしいいところだよ。」


その後、日付や西暦、僕の名前など当たり障りのない質問がでた。
そして彼女は
「あなたの名前は言いにくいので「あなた」と呼ばせてもらいます」
と、言った。
僕はどうしようと迷った。名前が無い幽霊なわけでなんと呼べばいいのか。
「でさ、僕のことは「あなた」で決まったけど、僕は君のことなんて呼べばいいかな??」
「おまかせいたします。」
こういうのが一番困るんだよね。僕は君とかお前とか呼ぶのが好きじゃない。
「じゃあさ、いまから名前つけようか!」
「はい?私にですか??」
「うん。僕は名前で呼びたいからさ」
「結構です!。」
「…………。」
あーもー、やんなっちゃうな。
幽霊だろ~。幽霊ちゃんじゃ呼びにくいし。
あーそうか。そうだ。

「霊ちゃんでどうかな?」
「?。私の呼び方ですか?」
「うん!幽霊の霊で、霊ちゃん!!」
「………。まぁ、それならば許容範囲でしょう。」
と言いながらもすごい目つきで睨まれた。

一通り、自己紹介(もうグタグタだったが)が終わり、彼女の事をゆっくり見れる程度まで落ち着いた。
第一印象通りでとてもきれいだった。
可愛いというよりは美しいという言葉が似合いそうな感じだった。
腰まで伸びるストレートな黒髪。
さっきっからきつい目つきだが、ブラックダイヤモンドみたいな美しい瞳。
整った輪郭。華奢だけど、胸は……ぺったんこみたいだな。。。。。

「私、なにか変ですか?」
「えっ?」
いやまぁ、幽霊ですから。変ですよ。
「いや、まじまじと見られていらっしゃいましたから」
「えっ、、、あっ。そのやっと落ち着いたから霊ちゃんの事、見てたんだ」
そういうと今度は霊ちゃんが僕の事を嘗めるように見た。
ちょっと、いやかなりこれは、恥ずかしい。顔が熱くなっていくのがわかった。
思わず、俯いてしまった。
と、その時、目に入った。
「えっ!ちょっ!!幽霊なのになんで足があるの!!???」
そうなのだ。ふわふわ浮いているものの、きちんと霊ちゃんには足があるのだ。
「私も最初そう思いました。でも、別に歩けるわけではないんで」
といいながら10cmほど浮きながら足だけうごいてまるで歩いているように、
ほわほわと浮きながら動いた。

そんなやりとりをしているうちに東の空が明るくなっていた。

「さきほどあなたは学生といってましたが、今日もあるんですか学校は??」
「あ~うん。そうだね」

そうなのだ今日は九月一日。本日から後期の講義が始まるのだ。

「どうしましょうか私は?一応、背後霊なので」
「非常に申し上げにくいのだけどここにいてくれないかな?」
「それは無理なお願いだと思います。私がここに残りたくても背後霊な立場上、きちんと背後にいさせていただきます」

(じゃあ、聞くなよ。。。律儀というかなんというか。。。。)

「たぶん、あなた以外の人には見えてないみたいなので平気だとは思います」
「……………」

僕の通っている専門は朝が早く七時には家を出なければならない。
すでに時刻は六時半。
「とりあえずさ、そろそろ身支度しなきゃいけない時間なんよ~」
「私はもう平気ですからどうぞ」

顔洗って、着替えて、後期の資料詰めて。
こう言うだけだと楽だが、
顔洗っているときも、着替えるときも、ずっと後ろでふわふわしている霊ちゃん。
どうやら5mも離れることができないらしい。

(は~。今後どうなんだろう。僕は。。。。)



支度して、自宅を出て、そこで初めて気がついた。

僕、バイク通じゃん。。。。

「あのさ。霊ちゃん。。。僕さ、学校バイクで行ってるんだけど。。。。。」
「では、すいませんが同乗させていただきます。。。」
「ん。。つか。乗れるの??」

「……………………さぁ。。。。」

(さぁ、って。。。。。。)

とりあえず僕が跨って、霊ちゃんが跨ろうとした。
まったく後ろに体重がかんじられない。
(やっぱ、駄目なんだ。。。。。)

と振り返ると
「どうやら、座るだけ座ることはできるみたいです。。。」

一応、ちょこんと後ろにすわっていた。。。まったく重みを感じないが。
「へっ、平気そう?とりあえずどっか、捕まって~。」
と、言うのが早いかどうか、腰に手を回してきた。
「こっ、これで平気でしょうか?」


(やべぇ。バイク買ってから後ろにおんにゃのこ乗せるのはじめてだぁぁぁ)

「とっ、と。とりあえずちょっとうごいてみるね。。。」

軽く、二速まで上げてかるく走ってみた。
腰の手を意識しすぎたせいかぎこちなくなってしまう。

「バイクって気持ちいいんですね!!!」
どうやら平気らしい。すくなくとも僕には密着する体のラインと回した手、以外では
彼女を感知できない。後ろに重みもないし。陰もない。
ただ、確かに、僕の腰には腕が回っている。

どういう理論でこうなっているのかわからないが、そもそも科学で霊が証明できない以上、何でもありな感じだ。



学校について講義をうけている間も霊ちゃんはふわふわと後ろで浮いていた。
ただ、僕の邪魔したり、話しかけたりは一切しなかった。

そして、やはり、誰の目にも写らないらしい。

別の講義に移るときに歩いていると、霊ちゃんの体をすり抜けて歩いて行く人が何人もいた。
そのたびに、彼女は不快そうな顔をしていた。
僕は声をかけるべきかどうかさんざん悩んだが、周りから見たら独り言の基地外君にしか見えないだろうという、自分勝手な理屈でまとめた。


そんなことを、ぼっーと考えているうちに講義は終わった。

帰り道、行きと同じように後ろに座る霊ちゃんだった。




僕部屋で、ちょこんと座っている霊ちゃん。
相変わらず緊張してしまう僕。
沈黙を破ったのは霊ちゃんのほうだった。

「あなたの通っている学校ってパソコン関係なんですね」
「うっ、うん。特にこれといってほかにやりたいことなかったし。
昔から、パソコン好きだったし」
「そうですか・・」
どことなく伏し目がちに話す霊ちゃんだった。
「そういえばさ。」
「えっ。はい!」
「ん。どうかした?」
「いや、なんでもないです」
まぁ、なんかビクっとしてたがまぁいいや。
「今日さ、学校でいろんな人とすれ違ってたけど平気?」
「・・・・。あまり心地のいいものではありませんでした。」
「明日からは自宅待機する?」
「・・・。背後霊ですから。」
思っていたとおりの返事だった。


そんなことを話していると
「ばんごはんよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
とおかんの声。
そういや、昨日からなんも食べてなかった。
「霊ちゃんはやっぱり食事とかは食べられない?」
「そうですね。寝るという行為以外に体力回復は出来ませんので。
気にしないで食事とっていいですよ」
「うっ。うん。わかりました」
それでもやっぱり一人でもくもく食べるのには抵抗あるな。

とりあえず、食卓に行く僕。
もちろん霊ちゃんもセットだぜ。


やはり、霊ちゃんはおかんにも見えてない。
後からずっと見られている食事はなかなか喉を通らないものだった。



「あまり、大食じゃないんですね。」
「なんか、あんまり調子よくないみたいでね」とはぐらかす僕。
「それは、背後霊として至極恐悦な言葉です」とニコリと微笑んだ。

あー。なんかかわいいな。と素直に思う僕だった。
「なんかかわいいな」
やべぇ、口にだしちゃった。
「何がです?」
「・・・笑った霊ちゃんが・・・」

すこしとまどった霊ちゃんだが
「あなだが仏様になれば私も成仏できますんで」
と、さっきとは違う笑みをくれた。

僕は馬鹿だった。
そんな笑みもかわいいなと思った。
「霊ちゃんになら殺されてもいいかな。。。」
と、すこし恥ずかしかったが言ってみた。
間髪入れずに
「じゃあ、今ここで首吊ってください」

アボーン。前言撤回。
流石、背後霊だぜ。ようしゃねぇ。

ぐったりとうなだれた僕を見て、
「やっぱおもしろいですね。背後霊としては失格かもしれませんが」
「ん?どゆこと?」
「いいえ。なんでもありません」と今度は普通にニッコリと笑ってくれた。

いい夢みれそうだぜ。

で、困った。5Mぐらいしか離れなれない僕ら。
トイレはまだしも風呂はどうしよう。

「あの、寝る前に風呂はいりたいんだが。。。」
「ええ。普通は入りますよね。むしろ入らなかった引きますね」
 ・・・・・・。察してくれYO。


「あのさ。ほら、あんまり離れられないじゃん?背後霊の決まりとして」
「ああ。別に見たりしませんから平気です。」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「それに、別に私はお風呂場に入りませんし」
「でも、そんなに距離離れられないんじゃ?」
「えっ。ああ。そうでしたね。でもまぁ、それぐらいの距離ならなんとかあるんじゃないんですか?」
僕に疑問系で聞かれましても。
「じゃ、じゃさお風呂入ってくるね」ともじもじな僕。
「ええ。どうぞ。ここにいます。」
ドアを閉める瞬間に
「それとも一緒に入ってほしかったですか?」
階段転げ落ちる僕だった。


カポーン。(風呂の音ねwww)

「ふぅーー。これからどうなるんだろ」
なーんも考えていなかった僕はやっと現実感が出てきた。



部屋に戻って見ると、ふわふわ浮きながらかわいい寝息を立てている霊ちゃん。

声をかけちゃいげないと思った僕は、もそもそとベッドに入った。
最終更新:2011年03月05日 22:16