僕はどうやらいじめにあっている。
いじめられている事を相談するのも悔しいし、いじめられている事を認めるのもいやだ。
ただ、事実として同級生からはいじられ、上級生からは殴られ、プライドをずたずたにされている事は間違いない。
そして、もう我慢も限界だった。
学校の放課後。屋上。今、僕がここにいる理由を明かす必要もないだろう。
疲れた。一歩踏み出すだけで、終わるんだ。
「何してるの」
唐突に背後で女の声がした。ウチの学校の制服を着ているが知らない顔だった。
「べ、別に」
「そう、飛び降りるのかとおもったわ。昔、ここで飛び降り自殺した子がいたの」
「へぇ、そうなんだ」初めて聞いた。僕の前にもいたのか。
「その子はいじめられていたそうよ。性格はまじめですごくやさしかったんだって。」
「なんで、そんな子がいじめられるのさ」聞かなくてもいいのに、振り向いた。少し興味があったからだ。
「簡単よ。いじめっ子がいじめられっ子を決めたから。そして決められたときに反発できなかったから」女生徒は不機嫌そうに応える。
「いじめられっこはいじめられている事を放っておくから、引き返せないところまで我慢するしかなくなるのよ」
「じゃ、じゃぁ、なんだよ!いじめれている方が悪いって言うのか!?」
「なんで、あんたがムキになるのよ。でも、いじめられ続けるのは悪いと思うわ。自分のためにもよくないでしょ」
「ぐ、…!?で、でもどうしようもないから、いじられ続けるんじゃないか!」感情があふれ出す。
「味方はだれもいない、喧嘩してもかなうわけない!酷い目にあって泣き寝入りするしかないじゃないか!!!」
「ふん、まるであんたがイジメられっ子みたいね。すごい熱弁ね」
「あぁ、そうさ、俺はいじめられっこだよ!いつもいつも上級生には金をとられ、同級生からも侮辱されているんだ。だけどどうしようもできない。ただ、耐えるしかない。」
とめどなく、目から涙があふれてきた。どうして自分だけ…。
「どんどん、イジメはエスカレートする。初めはガキ大将に目をつけられただけだった。それから取り巻きにもいじられるようになった。うわさを聞いたそいつらの先輩たちが面白げに僕をいじるようになった!」
「…」女生徒は無言で僕を見つめる。
「もう、周りの全部が敵なんだよ!敵じゃなくても味方はいないんだよ!世界から拒絶されているんだ、僕は!!」
「…そうね。もう手遅れね」はっきりとその女生徒はいった。
「もっと早い段階であなたは、アナタを害する世界に反発しないといけなかったんだわ」その言葉が僕の心をえぐった。
「結局、僕もわるいのか…」そうだ。いじめられている事を我慢する事が黙認する事と同義だったんだ。
「もう手遅れだとして、あなたはどうするの?」女生徒が聞く。
「飛び降りる?」女生徒が囁きながら近づいてくる。
「首をつる?」女生徒の淡々とした足取りに何か危険なものを感じた。
僕は、後ずさりしようとしてそこが屋上の端だという事を思い出した。一歩一歩女が近づいてくる。
「ぼ、僕は!!」ぴたりと女の歩がとまる。
「なぁに?」うっすらと笑みを浮かべて女が聞く。
「悔しい!!こんな目にあうのが悔しい!!いじめられたのが悔しい!!何もできないのが悔しい!!死んでしまおうと思っている事が悔しい!!」
思いっきり叫んだ。そして、これ以上悔しいのはいやだから、屋上から飛び降りた。
落ちる瞬間に浮かんだことは、いい思い出は無かった。どれもいじめられた記憶だけだった。だから余計みじめで悔しかった。
「とびおりなきゃよかったかな…」そうだ。飛び降りるくらいなら、一度くらいやり返せばよかったんだ。そうじゃなくても親に相談したりすれば良かったんだ。
最後の最後までこんな悔しい思いをするくらいなら…
…
…
ぐしゃっ
…という音はいつまでも聞こえなかった。
…あれ…いつまで落ちるんだろう。ぐっと身を固くしているのに、体に衝撃を感じない。よく見れば、自分は飛び降りていないようだった。
目の前には女生徒がいる。
「残念ね、飛び降りさせなかったのよ。私が。でも、気分は体験できたでしょ」
「あ、あんた何者!?」
「何者でもいいわ。私はもう死んでいるから」びっくりした。そしてなんとなくわかった。彼女が自殺した生徒なんだって。
「僕を助けたの?」
「べ、別にあなたのためじゃないわ」女はくるりと後ろを向く。
「あんたが、ここで飛び降りたらここが騒がしくなるじゃない。それがうざいだけよ」
「あ、ありがとう」はじめて味方を手に入れた気分だった。彼女が
生きていたらよかったのに。
一度、歯向かおう。立ち向かおう。誰かに相談しよう。
僕は決心が付いた。屋上を去ることにした。
最後に一度、彼女を見ようと思った。既に女生徒の姿は無かった。
ただ、屋上の床にチョークで文字が。
「すぐに解決する問題なんて無いんだから、あきらめないでよね!」
僕しかいない屋上。
まるで孤立している僕を表すかのようだったけど、不思議と心細くは無かった。
最終更新:2011年03月05日 22:25