大学入って一人暮らし始めたときのこと。
最初に出来た友達の家がやばかった。
初めてそいつの家に行ってゲームやってたら隣りの部屋から
大音量で呪文みたいなのが聞こえてきた。
なにあれ?って訊いたら母親が変な宗教に入っちゃってるとのこと。
普通じゃないルールがウチにはあるからそんときは気分悪くしないでな
って忠告された。
まあそいつ自身はまともだし、大変だなって俺は笑ってた。
そいつがその宗教がらみで養子になったと後で知ったときは笑い事じゃ
ないと気付いたけど。
何回か遊びに行って気になったのがラップ音。家鳴りかと思ったけど
俺の実家が木造の古い建物だから、家鳴りの音は聞き慣れてる。
それとは全然ちがう硬質な音がひっきりなしに鳴ってた。
音の出所はいつも同じで、友達いわく「妹の部屋」。
妹については「出て行った」と言うだけで詳しくは教えてくれなかった。
その部屋の襖が凄かった。破れたお札が一面に貼ってあって、その上から
新しいお札がべたべた重ねられてた。襖と柱の隙間にはガムテープが貼ら
れていて密閉状態。
中に死体でもあるのかって冗談めかして訊いたら、そいつも中を見たこと
はないとのこと。見たくもないって言ってた。
おかしいよな?普通そんなミステリースポットが自分ちにあったら確認
したくなるだろう?なんでそんな嘘をつくんだろうな?
変化が起こったのはしばらくしてから。
背中にイボみたいなのが出来はじめて、擦れると相当痛い。うつ伏せに
しか寝られなくなった。
医者に行こうかなって話してたら、それ医者行ってもだめだよって真顔
で言われた。ほっといたら痛くはなくなるって。
なんか怖くなったからその日のうちに医者に行ったんだけど、お医者さん
は原因がわからないって首を捻ってた。
寝る姿勢が不自然だからか、金縛りによく遭うようになった。
銅鑼を鳴らすような音が金縛りの合図。それから女がカーテンの向こう
から現れる。首を絞められて息が出来なくなる。ものすごく苦しい。
寝るのが怖くなった。
友達に相談したら、変な霊能者の所に連れて行かれそうになった。
あの怪しい宗教かと思って断ったけど、手遅れになる、連れて行かれるぞ
とかってさんざん脅かされた。
ああやって新興宗教って入信者増やすんだなって思った。確かにこの状況が
すっきりするなら頼ってみたくなるのも分かった。お医者さんみたいな
もんだな。でも俺の怖さランクは変な宗教>>(超えられない壁)>>霊
だったんだ。この日を境にそいつとの友人関係は切れた。多分本当に俺の
ことを心配してくれたんだろうけど、ごめんな。
頼るものは切っちゃったし、自分でなんとかするしかない。毎晩のように
首絞め喰らってるけど死んではいない。俺を連れていく力はあの女には
ないんだと思い込むことにした。
夜。いつものように銅鑼の音がして、カーテンが揺れた。息が止まって。
(そんなに俺と一緒にいきたいのか?)
問いかけてみた。何か言いたいことがあるはずだ。
しかし期待していた反応はなく、女はしばらく部屋に留まったあと
消えてしまった。
それ以来、金縛りに遭うこともなくなった。
小指の先ほどになった五つのイボは切除したが、根っこみたいなのが深く
食い込んでいたようで、結局クレーターみたいな痕が残った。お医者さん
がビンに入ったイボを見てこんなのはじめてだよとはしゃいでた。
長々書いてきたがまあつまりあの女は
『バ、バッカじゃないの!? 誰がアンタなんかと…っ!』
って言って消えたんじゃないかなーってね。
だったらいいなーってね。
もうちょっとお話したかったなーってね。
今ならもうスゲーいじりまくってやるのになあ。
もったいないことしたなあ畜生。
最終更新:2011年03月05日 22:36