「・・・」
何?私の顔なんか見て楽しい?あなたは誰?ここは、私の部屋だよ?それとも、強盗?
まぁ、殺されてないから違うか。
「・・・・・・」
こんばんわ。随分と怖い顔で、睨むんだね。どうでもいいけどね。
窓から出入りするんだね。ああ、寒いのは好きじゃないからちゃんと閉めてね。って、
カーテンが揺れただけか。
「・・・・・・・・・」
今日も来たんだ。三日連続なんて、よく飽きないね。何かするわけでもなく、ただずっと
見てるだけで私を観察でもしてるの?
「俺の部屋に入って三日間、何をするでもなくぼけっとしながら毎度現われる俺をじっと
見るか」
へぇ、喋れたんだ。でも、可笑しいこというね。ここは、私の部屋だよ。あなたは、前に
住んでた人かな?
「四日間、何も食わずにずっと壁を眺めてて楽しいか?」
あなたと話すよりはね。もうかまわないでよ。
何?ようやく、何かするのかと思ったら私の顔なんか触りだして。触れたんだね。でも、止めてよ。気持ち悪い。
「熱があるわけでもなく、飯を食わずに俺の部屋で壁を眺めるだけ。やる気なさすぎだろ。おまけに、ガリガリだしな」
うるさいな。もう、かまわないでよ。どうでもいいんだから。それとも、私を食べるの?
幽霊さん。入る前に聞いたよ。五日前に死んだんだってね。26歳で、身寄りもなくて残念だね。無縁仏って奴になっちゃったのかな?
おまけに、管理人さんに迷惑な遺書残して逝ったんだってね。俺が使っていたものは、次に入る人に引き渡せ?呪いでもかける気?アパートのオーナーだったからって、好き放題
あなたは、実は幽霊じゃなくて化け物なのかな?お腹すかしてるの?食べるなら早く私を食べてよ。それとも、魂を抜き取るのかな?
「ふん、何を息巻いているか知らんが、体もガリガリなら魂もガリガリ。そんな爪楊枝見たって、食欲湧くわけないだろうが」
ああそう。もういいよ、お願いだからかまわないで。食べないなら、今すぐ消えて。お母さんには憎まれて、お父さんには毎晩のごとく・・・挙げ句の果てには、弟すらお父さんと一緒になって私のところに来るし。妹は、そんな私を見て罵ってくるしね。
ようやく、一人になれたかと思ったら今度はあなた。ねぇ、お願いだから一人にしてよ!お願いだからこのまま、眠るように死なせてよ。
「そうか。だが、ここは俺の部屋であり領域だ。死ぬなら、他のところに行ってくれ」
・・・最悪、消える前の捨て台詞がそれ?笑えないよ。まぁ、笑う必要もないか。
ダメだ、今日は喋りすぎて頭が回らないや。死に場所は、明日考えよう。
・・・ああ、私寝ちゃってたんだ。久しぶりだな。まともに寝れるのって。それに、何だかいい匂い。
「ふん、相変わらずガリガリだな。もし、食い殺して欲しいなら、まずはそいつでも食うんだな」
また、三文役者みたいな捨て台詞だね。かまうなって言ったのに。
こんなもの・・・・・捨てるのも、もったいないか。悔しいぐらいに、いい匂いだし。
へぇ、やる気のない顔してたのに、凄いなぁ。食事って、こんなに美味しかったんだ。
・・・美味しい・・・ちょっと、塩っぱくなっちゃったけど・・・本当に美味しいよ・・・何で泣いちゃうかな。こんなに美味しいのに。
私、何考えようとしてたんだっけ。
食べるのって、以外と疲れるんだね。また、寝ちゃってたんだ。
あれ?ボイスレコーダー?
『起きたみたいだな。まったく、お前の荷物にはメモ紙すらないのかよ。まぁ、ドラムバックとリュック一つじゃ荷物も限られてるか。起きたら顔洗え。風呂入れ。着替えろ。
部屋の物は、適当に使ってかまわん。どうせ、俺には必要ないものだ。全部終わったら、冷蔵庫の中を見ろ。電子レンジは使える。それだけだ』
風呂入れって、・・・沸いてる。はは、たしかに入った方がいいね。私、臭いや。
服は・・・借りちゃおうかな。
「ああ、まだ居たのか。東尋坊辺りに行ったのかと思ったがな」
名所は、好きじゃないんだ。ご飯美味しかったよありがとう。食べ物って、あんなに美味しいものだったんだね。
「・・・まぁな。しかし、何でお前はそんな格好するかね」
ふふ、ワイシャツ借りちゃった。体も綺麗になったし、これでいつでも私を食べれるね。
「ガリガリが、何言ってんだ?それに、飯も風呂も気紛れだ。俺の気紛れが嫌なら出ていけ」
また消えちゃった。
そんなにガリガリかな。私。
「――足りないな。そろそろ――しかし――」
ん・・・もう朝なんだ。早いな。あ、私が起きたの気が付いてないや。
へえ、改めて見たけど、大柄なんだね。
そんな人が、包丁見ながら・・・私を食べる算段かな。
―― ・・・彼になら、食べられちゃってもいいかな。 ――
「ああ、起きてたのか爪楊枝。少し待ってろ」
爪楊枝って、私のこと?酷いな。一応、名前あるのに。熊さん。
「熊さんだ?まったく、礼儀も知らないとはな。俺には、ちゃんと悠太って名前があるんだ。戒名だってあるぞ」
うわ、自分のこと棚に上げてそんなこと言うかな。私は、恵那だよ。
「ふん、お前なんざ爪楊枝で十分だ。ほれ、食ったら着替えろ。もう日は昇ったぞ」
・・・また消えちゃうんだ。へぇ、ミルク粥も作れるんだ。うん、やっぱり美味しい。
あれ?お皿の下にメモ書き・・・。
~食い終わったか?着替えてから、冷蔵庫見てみろ。財布は、俺の机の中だ~
冷蔵庫?ああ、空っぽだね。
あ、またメモ書きだ。冷蔵庫に入れておくなんてね。
~見てのとおりだ。まだ、何か食べてみたいなら、適当に買ってこい~
・・・・・・なんだ。私を食べる算段じゃなかったんだ。でもちょっと、卑怯だね。
天気もいいみたいだし、出てみようかな。
はは、私変だ。
「何だ。樹海にでも行ったんじゃなかったのか」
言ったでしょ?名所は好きじゃないって、それよりこれでいいかな?
「・・・随分と買ったみたいだな。ま、当分死ぬ気はないってことか」
何だか、自分で死ぬのが阿呆らしくなっちゃったよ。こういうのって、餌付けって言うのかな?
ねぇ、熊さんは私のこと食べないの?
「また熊さんかよ。まぁ、好きに呼ぶがいいさ」
あ、待って!
あの・・・もう少し、一緒に居てくれないかな?
「・・・無理するなよ。震えてるぞ」
うん。そうだね。だけど、ちょっと試してみたいんだ。
「・・・そこの戸棚に、紅茶がある。飲んでいいぞ――って、何で二つ作ろうとしてるんだ?」
雰囲気だよ。熊さん。
「・・・気が済むまでどうぞ」
「・・・お前、学校はどうした?」
ああ、もうそんな時期なんだね。ここに来てから二週間。始まっちゃってるけど、いいよね。
「・・・無理にとは言わん。だが、行っておいて、損はないとは言っておく」
ありがとう。熊さんって、優しいね。
「思い込むのは、自由としておいてやる」
――学校か・・・行ってみようかな。――
『冷蔵庫に、弁当が入ってる。朝飯は、机の上だ。ノートは、使ってないのが本棚にある。筆記用具は、机の中だ。以上、現場から熊さんがお伝えしました』
熊さんの目覚ましって、ベル式で耳が痛いや。
ボイスレコーダーがまた置いてあったけど、気に入ってくれたんだね。あだ名。
・・・学校行ってみよう。
「よお。中央線には、行かなかったのか?女子高生」
何それ?私の学校は、歩いて30分のところだよ。
「左様で。・・・制服、姉ちゃんのと間違えてないか?」
はは、たしかにブカブカだね。爪楊枝って意味が身に染みるよ。
「・・・その自虐ネタは、笑えないな。まだまだ修業が足りん」
奥が深いんだね。
・・・ちょっと、疲れちゃったかな。
「早く着替えろ。飯の用意してやる」
うん。楽しみにしてる。
「髪、洗ったか?歯、磨いたか?宿題は・・・問題なさそうだな」
大丈夫だよ。それより、ご飯美味しかった。お魚って、臭い匂いじゃないんだね。
「お前・・・・・・また作ってやる。それより、学校はどうだったんだ?」
先生に怒られちゃったよ。だけど、中学から一緒だった〇〇ちゃんが助けてくれた。
ちょっと、嬉しかったな。
「・・・そうか。その〇〇って娘、大切にするんだぞ」
うん、お礼言ったら赤い顔しながら、あなたのためじゃないんだからって言ってたけどね。
熊さんと同じで、凄く優しい顔してたよ。
「ふん、俺は単なる気紛れだ」
そんなところも一緒だよ。
ふぁ、さすがに眠いや。おやすみなさい。
「・・・今夜は、月が綺麗だからな。きっといい夢が見れる。とっとと寝ちまえ」
ん・・・あれ?カーテン開いてる。熊さん?
「起こしちまったか。すまない」
綺麗なお月様だね。ここからは、こんなふうに見えたんだ。
「・・・ここの窓は格別で、特別なんだよ。春は桜が咲き乱れるのを納め、夏は海と入道雲を納め、秋は紅葉を納め、冬は雪と月を納める」
・・・私は、こんな綺麗な場所で、死のうとしてたんだね。
「綺麗な景色を見ずに、染みの付いた壁を眺めただけでな。もったいない。・・・で、相変わらず淋しいこと考えてるのか?って、引っ付くな。風邪ひくぞ」
ちょっと冷え性みたいだけど、熊さんは十分暖かいよ。
・・・もう、自分では死にたくないかな。でもさ、熊さんになら食べられてもいいかも。
「俺の足を枕にするとは。もうちょい上に来い。腿の方が、柔らかくて寝やすいぞ。それと、何か勘違いしてるようだから言っておいてやる。俺は、化け物でもなければ人間でもない。単なる幽霊だ。何もしないし出来ないから安心しろ」
そんなこと・・・ない・・・・よ・・・・・・私・・・・・・
生きて・・る・・・。
ただいま。わぁ、いい匂い。
「おう。お帰り。もうちょいで出来るから、先に着替えてきなってこら、腰に抱きついて覗き込むな」
わぁ、これ、ビーフシチュー?・・・あちちち!
「お前、間抜けと言うか鈍臭いと言うか・・・素手で、味見しようとするとは、チャレンジしすぎだろ」
あ、今日、学校の中庭に下りる階段でころびかけたときに同じこと言われた。鈍臭いって。
姿が見えなかったけど。
「階段でころぶって、もうどじっ娘確定だな」
その時、胸触られちゃったよ。
・・・熊さん、耳赤いよ?
「へ?あ、いや」
冗談だよ。支えられたのは、腰だったよ。でも、助けてくれたの熊さんだったんだね。
ふふふ。熊さん可愛いな。
「あ、あんまり大人をからかうんじゃない。俺は、桜が見たかっただけだ。って、抱きつくな」
熊さん、地縛霊じゃなかったんだね。外に出れるならさ。今度、一緒にどこか行こうよ。
ねえ!行こう!
「ああもう!分かった!分かったから、俺に張り付くな!どこでも一緒にいってやるから、早く着替えてこい!」
耳、真っ赤だ。熊さん大好き。
――熊さんと、もっと楽しいことしよう。いろんなところに行こう。死ぬなんて、バカらしいや――
~~Fin~~
最終更新:2011年03月05日 22:41