日中戦争の勝利を新聞は声高に書きたて、やがては米国との戦争をも
視野にいれた流れが出来つつあった。
軍需需要はわが財閥にも多くの利益をもたらしていた。だが・・・

「姉さん。このままでいいのでしょうか」
「・・・どう思う?」
「正直、わかりません。でも、大国に肩を並べるまでには熟成していないと思います」

椅子に腰掛ける僕と、そばに座る姉さん。当主を継いだ僕に、姉さんは約束どおり
一番に服従を誓った。
今までも、これからも姉さんは僕のそばにいる。

「少し・・・固くなっているわ。少し抜いたらどう?」
「はい。そうですね。少し、根を詰めたかも知れません」

優しく、なぞるように這う姉さんの指に身を任せる。僕がこうして当主になれたのは
姉さんのおかげだった。

「こんなになってる。少楽にして・・・」
「ありがとう・・・ふぅー・・・いい気持ちです」
「ん・・・うん・・・すっかり立派になって・・・」

姉さんの慈しむような指が、張り詰めた肩を揉み解す。

父さん。先代が急死したのは、まったく突然だった。病気もしなかったのに、本当に急逝だった。
姉さんはその知らせを聞いても、静かに微笑むばかりだった。

「次の当主は、貴方よ」
跪き、僕を見上げた姉さんの顔は、成し遂げた者の恍惚に紅潮していた。
最終更新:2011年03月05日 23:27