代々当家に仕えていた執事の横領が、発覚した。
僕が幼少の頃、姉さんが生前の頃もよくあやしてくれていた。
横領といっても、先代の墓前に添える花代として使用した代金を
台帳に記載しなかっただけだったのだが・・・
「すぐ暇をだすべきだわ」
「待ってください、姉さん。ほんの手違いだった訳だから」
「悪しき前例として残る事になるわ」
貫くような視線で僕を見つめる姉さん。こういう事に厳しかった。
「当主として、貴方が為すべき事は何?」
「・・・そ、それは」
「答えて。目をそらさないで」
頬を寄せ、耳元で囁く姉さん。僕に覚悟を示せといっているのだう。
当主たる覚悟を。
「はっきりとしなさい。私を見て、答えなさい」
「・・・姉さん」
「・・・」
はっと目をそらす姉さん。息がかかりそうな間合いから離れようとする。
「姉さん」
「・・・はい」
「僕は当主だ。そういったね」
「・・・はい」
「目を見て。離れないで」
頬を染めていく姉さん。だが目をそらす事は許さない。
「・・・そうです」
かすれた声で答える。潤んだ瞳が美しい。だが、この場で僕は示すべきだった。
姉が望む答えを。
「僕の決定に意見は許しません。わかりますか姉さん」
「・・・はい。わかりました」
感に堪えたように頷く姉さん。僕は答えられた。こんな事が、自信につながる。
「聞こえません。もう一度」
「・・・わかりました。お許しください当主さま」
膝元に座り込む姉さん。見上げる頬を手でさする。その手に手をあててくる。
「ご奉仕・・・させてください」
「わかってくれればいいんです」
まだ何かいいたげな姉さんを残し、僕は部屋を出た。執事に許しを与えるために。
自分が法。悪しき前例とはしない。僕は法を誤らない。
最終更新:2011年03月05日 23:29