現在の状況は、『迷子』の一言に尽きる。

親戚の小学生に、カブトムシを採ってくると約束してしまい、仕方なく親友を呼び出し共に出撃。
そして気が付くと、同じ道をぐるぐる回り続けるという異常事態に。
お盆直前の丑三つ時の山の中。
本来ならブルってるのが正しい姿なんだろうが、最近は怪奇事象に慣れたこともあり、この程度で怖がるのが馬鹿らしい。
「昔は庭みたいに駆け回ったもんだがな~」
「それはいいけど何当たり前みたいな顔してタバコ出してるのかな17歳」
「こういう時は一服するといいって中山の爺さんが」
「ってタバコ屋さんだから」
親友と掛け合いをする余裕もある。

「こういう時こそ霞さん連れて来りゃいいのに」
「虫苦手なんだって」
「…あっそう」
溜息と共に煙を吐き出す。と―――
「きゃぁっ」
小さな悲鳴と共に、真後ろの木の上から女の子が落ちてきた。
尻餅をついたまま咳き込んでいる彼女を、二人で慌てて助け起こす。
「大丈夫か」
「っ大丈夫なわけないでしょ!!」
手を払われた上に、キッと睨みつけられた。
どうやら煙をまともに吸い込み、むせた拍子に樹上から滑り落ちたらしい。
「ああ悪ぃ」
さすがにばつが悪いので、足で踏み消し、
「火事になったらどうするのよ!?」
「携帯灰皿くらい持ちなよ」
サラウンドで注意される。ああうぜぇ。
「ん、もう、とにかくあんた迷惑!とっとと帰って!!」
膨れっ面でわめかれた。仁王立ちはともかく、指差しは止めろ。
「いや、カブトムシまだ採ってないし。つかむしろお前のが帰ったほうがいいと思うぞ」
「いいのよあたしは!とにかくさっさと帰りなさいよね!!」
言いたいだけ言うと、少女はくるりと踵を返し、闇の中へ姿を消した。
「…あの子尻尾があったね」
「何だ、俺達を化かしてたのあいつか」
すっかり気が削がれた俺達は、結局そのまま帰路に着いた。


翌朝早く、少女の声が夢うつつに聞こえた。
「別に、あんたの為に採ってきたわけじゃないんだからね!また山に来られたら迷惑なだけだから!」
何のことかと思っていたら、直後、母親の絶叫で完全に目を覚ます。
玄関先に置かれた小さなつづら。その中には、うじゃうじゃとひしめき合うカブトムシ。
俺が母親に怒られたのは言うまでもない。
最終更新:2011年03月05日 23:46