初日
36歳、毒男。職業、ネット監視員。
不動産屋で格安物件アパートを見つけ、その場で即決。パソコンやベッドなど重い荷物は先に搬入し、さあいざ我が王国へ。
玄関を開けた瞬間。
「チェンジ」見えない誰かに冷たい声で言われ、鼻先でドアを閉められた。
…ネカフェで一夜を明かす。

二日目
近所のコンビニで、食塩、味塩、ついでに塩コショウを買う。コンビニ袋に中身を全て移し替え装備。
ノックし、ドアを開け、「食らえぃ!!」吼えつつ相撲取りばりにミックス塩を撒く。
「おお、効いてる!?」ドアが閉まらないのを見て、喜んだのもつかの間。
後ろからコンビニ袋を奪われ、頭の上から中身をぶちまけられた。
「めが、めがああああはくしょんへくしょうわああぁぁあん!!」
その足で不動産屋へ抗議に行く。強面の社長さんが直接対応してくれた。
「幽霊なんか出ませんて」不動産屋さんのお話では、前の住人が汚部屋に→虫大量発生という流れで、破格家賃へせざるを得なくなったとか。
丁寧な対応で大変ありがとうございました。
…公園とコンビニで夜を過ごす。

三日目
対幽霊戦に備え実家へ帰る。ついでにママンに軍資金を募る。
幽霊相手に戦うのだ、形からきっちりとしないと。
「そう、俺は間違っていたのさふふん」
巫女さんの衣装、もちろんかつらと御幣も忘れずに装備し、いざ!「食らえぃ!!」ダウンロードしたお経、祝詞、賛美歌その他諸々を、部屋の前で大音量で流す。
…警察に泊めて頂きました。

四日目
予約しておいたゲームソフト、ゲットだぜ!ルンルンでアパートに戻るも「…ここまでするか…」そこは炎と黒煙に包まれていた。
「俺の、俺の命にも等しいデータがぁぁぁ!!」
人垣を押し分け、アパートに突入しようとした瞬間、幽霊に頭をどつかれ足を掬われ転がされた。
ついでに引きずられて駐車場の端まで連て行かれる。
「お前にはわからないのさ…俺がどれ程のものを失ったかが…」転がったまま泣いていると、背中をつつかれた。顔を上げる。
「…ぉお、おおおおおおお」
そこには、俺の荷物が全て置いてあった。
「ふっ、勘違いしていたみたいだな。ありがとうと言うべきだったか」
HDDやCD-Rの無事を確認していると、『馬鹿よね、炎の中に飛び込もうなんて。余程大事なデータなのね』少し優しい声で言われたので、つい油断して答えてしまった。
「今では法律に抵触する可愛い弟妹達の画像とか、入手困難なものばかりさ」
炎の中に、荷物全てと財布を放り込まれました。
…現場検証をずっと眺めてました。原因は漏電だそうです。

五日目
ママンに車で迎えに来てもらう。大きな財産を失った殺風景な自室。「今回は社会勉強だと思えば」そう自分を慰める。
取り敢えず、古いパソコンを引っ張り出し、数日絶えていたネット監視を始めんと起動。
暫く巡回していたのだが『キモい。働け』忘れようにも忘れられない声が。「悪霊退散ーーー!!」ファブリーズと蝿叩きを装備して夕方まで戦う。
夕飯の時間になったので台所に向かうと、俺が暫く居なかったのが余程寂しかったのだろう、「何時までも家にいていいのよ」とママンに泣きながら言われた。
…『ハローワーク行きなさい』幽霊の説教を子守唄代わりに就寝。

二ヵ月目
幽霊はすっかり部屋に住み着いている。
最近は、説教は減ったが代わりに菓子を食ったり財布から金を抜いて読みもしない資格本を買ったり秘蔵本を破ったりデータ破壊をしてくれる。
負けるもんか。あ、今日WJの発売日。
…ネットゲームにはまっている幽霊のキーボード操作音を子守唄代わりに就寝。
最終更新:2011年03月05日 23:55