何処で聞いたのかは忘れたが、仏前に供えた食べ物は、霊が食べるから?味が落ちるらしい。
そういえば思い当たる事もある。彼女の大好物の桃とかは、確かになんだか味気なくなる。
「なのに何でオレの手作り料理の時は味が変わらないんだよ。そりゃまぁ料理人としては修行中の身だけどさ」
今日も妻の好物を供えながら、独りごちる。

妻の夢を見た。
オレが作った料理に、箸をつけようとしない彼女。
「…俺の料理、そんなに嫌か?」
しょぼんとして尋ねたが、彼女は拗ねたような、怒ったような顔をして黙っていた。

「これならお客にも出せるな」
「!!…有難う御座います!」
ようやく板長に認められる料理が作れるようになった。
帰宅し即妻に報告した。丁度彼女の命日だ。彼女にも食べてもらおうと、精一杯気持ちをこめて料理を作り、供えた。

昔の夢を見た。
料理人を目指し始めた頃の夢だ。
料亭の娘として生まれた彼女は、味付けには人一倍五月蝿かった。
『私に食べさせるのなら、まず人に出しても恥ずかしくない料理を作ってからにして下さい』
そう言って、俺が作ったものには、一切箸をつけなかった。

泣きながら目覚めた。
どうやらうたた寝していたらしい。
仏壇に供えた料理をおろし、口に運んで。
「ん?」
首を捻った。味付けがおかしい?
その時ふっ…と、耳元で懐かしい声がした。
『まだまだね』
最終更新:2011年03月05日 23:58