卒論の追い込みで、殆ど毎日研究室に泊り込み状態だった時の話。
時間は既に深夜をまわっていたと思う。
疲労が溜まりうつらうつらとしていた俺は、誰かが窓を叩いている音で目を覚ました。
何とはなしに後ろを振り返り、そして思い出す。
この部屋は3階で、あの窓の向こうには足場も何も無い。
それなのに、窓の向こう側で、下から伸びた右手が窓を叩いている。
恐怖のため動けない俺は、ただそのノックを聞くしかなかった。
そうしているうちにふと気付いた。音が一定のリズムを刻んでいる事に。これは確か運動会の――
「…三三七拍子?」
無意識に漏れた声に、右手は一瞬動きを止めた。
そして、ばん!!と一回大きく窓に掌を叩きつけると、すっと消えた。

翌日からも夜中に窓を叩かれた。何時間か毎にバンバンと何度か激しく叩くだけで、あのリズムは二度と聞かなかったけど。
でもおかげで居眠りすることなく、卒論締め切りには何とか間に合った。
『ありがとう、おかげで卒業できるよ』とお礼を書いた紙を窓に貼り付けておいたら、
次の日結露で曇った窓一杯に『別にあんたにお礼言われるような事何もしてないし勘違いしないでよね!!』という文字と、
あっかんベーの可愛いイラストが書いてあった。
記念に携帯カメラで撮っておいた。今も大事にしている。
最終更新:2011年03月06日 06:37