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昔通っていた小学校がこの春で廃校になったと聞いたので行ってみた。

誰もいない校舎にひとり、足を踏み入れる。
懐かしい教室。
黒板には最後の卒業生達の別れの言葉が残されていた。
過去に思いを馳せながら、窓際の席に腰を下ろし、外をぼんやり眺めていた。


「まいちゃん…?」
声を掛けられ振り返る。そこに居たのはなんとなく見覚えのある男性。
「わかるかな、僕だよ」
「わ…たる…君?」
「うん!覚えててくれたんだ…!」
破顔する彼。その顔を見て、ああ、変わってないなと思った。
昔、一緒に過ごした友人だ。
両親が転勤族だったらしく、この学校に通っていたのは一年間だけだが、私と同じ理由でかつての母校を訪れたらしい。
上気した顔で色々話しかけてくる彼に適当に相槌を打ちつつ、校内を見て回る。

急におしゃべりが止まったと思ったら、苦笑交じりに溜息をつかれた。
むっとして睨むと、彼は少し慌てたように弁解した。
「変わらないなって思って。僕はずっとおしゃべり、まいちゃんはずっとだんまり。昔と一緒だなって」
「話す様な事何も無いし」
そっぽを向いて早足で進む。
この展開も昔と同じ。嫌ならついてこなければいいのに、昔の彼はいつもすぐ追いかけてきた。
そして今日も。


夕刻、そろそろ帰る時間。二人並んで校庭から校舎を眺めていた。
「僕ね、先生になったんだよ」
ちらりと彼を伺う。彼は校舎を寂しそうに見つめたままだ。
「まいちゃんに出会って、僕は先生になろうって思った。そうすればここにまた戻ってこられる…」
「……」
「そうすれば、さ。ずっと…ずっと一緒に居られる。そう、思ったから」
今度は私が溜息をつく。
「学校の怪談、誰も知らない同級生。私は同じ学年の子としか出逢えない。普通先生は私には気づかないのよ」
「そうだけどさ」
困ったように頭を掻く彼。笑っているのに泣いているようにみえた。
「も一つ言うなら、私、この学校に縛られてるわけじゃないから」
「…え」
「当たり前でしょ。私小学生なの。学校がちゃんと機能している所に居るの。今日は偶々ここを見に来ただけ」
なんともいえない微妙な表情で固まった彼。それが妙におかしくて、私は思わず噴出した。
彼の濡れた目尻に気付いていないフリをして。
彼の告白のせいでこぼれそうになった私の涙を誤魔化しながら。

彼の乗る電車がホームに入ってきた。
「まいちゃん、僕の学校においでよ」
「いや」
未練がましく話しかけてこようとする彼を追い立てるように電車に乗せる。
窓にへばりついてこちらに手を振る初恋の人のややみっともない姿に、思わず溜息がもれた。



ずっと仲良しだったのに、どうしても思い出せない友達。
確かに同じクラスに居た筈なのに、誰も覚えていない友達。
『幻の友達』、それが私。
私はずっと5年生。基本的に一年単位で学校を移る。
どれほど望んでも私の意志で学校を選ぶ事はできない。始業式の朝、目を開けた時には既に校門の内側に立っている。
全員に見えるわけじゃない。誰にも気付かれない時すらある。
それでも、何度経験しても楽しく不安で緊張する瞬間。
始業式。そしてクラス決定後の教室。

でも今年はちょっと複雑な心境。
私の事は無視しなさいという意味で睨みつけてみたのだが、新担任の彼は意に介することなく私に向けてにっこり笑顔を浮かべた。
最終更新:2011年03月06日 08:31