予備校に幽霊が出るという噂は聞いていた。
初めて見かけた時、彼女はとても寂しそうに見えた。
だからつい声を掛けた。
『こんな問題もわからないの。本格的にどうにもならないわね』
「やーめーてー」
河川敷の木陰に設置されたベンチで広げた参考書。
彼女は僕の左側に座り、僕のノートをチェックする。ここ最近の日課だ。
清楚なお嬢様タイプの彼女。見た目どおり成績はかなり良かったようだが。
幽霊だからだろうか、どうも無表情というか、冷淡というか。
『何故この程度の問題で悩むのかしら』
「どうせ僕は頭悪いです」
『そうね』
にべもないい物言いに落ち込む一方の僕。先日の模試の結果も最悪だった。
「ああ、受験なんてもうやめちゃおうかな」
『貴方の勝手になさいな』
「うぅ」
がっくり肩を落としながら彼女を上目遣いに見上げる。
ちらりとこちらを伺ったのだろう彼女と目があった。慌てたように目をそらす彼女。
強めの風が吹いてきて参考書が飛ばされそうになった。
慌てて押さえる僕と彼女。
尤も彼女の手は、参考書も重なる筈の僕の手も突き抜けてしまったけど。
一瞬浮かんだ寂しそうな表情を見て、何故か悪い事をしてしまった気になる僕。
「うーん。もうちょっと頑張ってみようかな」
『そう。悪あがきだと思うけど、私も暇だし貴方の気が済むまで付き合ってあげてもいいわ』
口調は相変わらずだが、何故だろう、彼女の横顔は心なしか楽しそうに見えた。
最終更新:2011年03月06日 09:05