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漫画に影響されて幽体離脱の訓練してた俺。
とうとう部分的とは言え初めての幽体離脱に成功した。
だが喜びを感じる暇などなかった。
いつの間にか俺の上には赤い影がわだかまり、身体も霊体もピクリとも動かせない。
『魂が体から完全に抜け出たら、食い殺してやろう』
そういう趣旨のかなりダークな思考も感知し、俺はそのまま気絶した。
それ以来毎夜金縛りが続き、ビビリな俺はただひたすらに目を閉じていた。

霊感ゼロだった俺だが、訓練の副作用か次第に霊を見たり触ったりできるようになった。
悪霊に取り憑かれて以来幽体離脱は断念したものの、
霊感は無駄に研ぎ澄まされ続け、人間と見間違うほどはっきりと認識出来るまでに。
流石に数ヶ月も経つとなんとなく衰え始めた気がするが。


で、先晩。いつもの金縛りの最中。
幽霊がはっきり見えるうちに正体を見てやろうかな。
怖いもの見たさでそんな風に考えた俺は、とうとう意を決してそろっと薄目を開けてみた。
悪霊とかそういうのだと思う、うん。そんな危うさを感じさせる空気を纏っていたし。
整った顔立ちだがきつめの印象を与えているつり目で退屈そうに俺を見下ろしているその人影は、
大きな獣耳や顔に描かれた模様などが相まってお稲荷様の狐像を連想させた。
しっとりと濡れた唇からは、長い犬歯が覗いている。
ふわゆるウェーブな薄茶色のセミロングヘア。
短め丈の赤い着物に映える白い肌。
胸のふくらみは襟元を押し開いて顔を覗かせるほどに豊満で。
ほぼむき出しのしなやかな足を投げ出すようにして、俺の腹部に馬乗りにまたがっている。

そんな風にまじまじ観察してたらいつの間にか半分近く目が開いていた俺。
当然ばっちりと目が合ってしまった。
一瞬嬉しそうに見えたのは獲物を見つけた肉食動物とかそういうのだろうか。
狐女はすぐに表情を引き締めると、俺に覆いかぶさるように上半身を屈め、耳元に唇を寄せて囁いた。
『腹が減って堪らぬ。はよう魂が抜け出ぬものか』
鼻孔をくすぐる甘い香りと、胸の上にのしかかる不思議な弾力。

これは…。
幽体離脱は危険な行為だからとあえて恐怖心を煽るような行動を取っていると考えるべきか。
本気で空腹なだけなのか。
それとも他に目的が!?
さあどうする俺?!


抱きしめてみた。
何故か金縛りは解けていたし。
多分毎回金縛りにビビって硬直してた俺が今更何か行動を起こすなんて考えてなかったんだろう。
腕に伝わるあたたかで柔らかな感触。
『――!?や、ふ、不埒者ぉっ!!』
グーで殴られ気絶した。


それから暫くは金縛りも彼女の気配も全く無かったのだが。

『その、これはただの形式的な…そう、
我が狐一族が縁のある勇者や大物を支援するのはただの慣例であって、
あ、あ、あのような大胆な行為が初めてだったとかときめいたとかいうわけではなく』
和服に割烹着を身に着けた彼女が台所に立ってもじもじしていた。
最終更新:2011年03月06日 09:41