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盲腸で入院した。
ベッド数の関係で、個室へ通された。
部屋の具合は悪くないのだが、妙に暗い印象を受けたのを覚えている。

入院した日の夜。
夜中に、かすかな音で目を覚ました。
部屋の扉が、音もなくゆっくりと開いていく。
看護師の巡回だろう。寝ぼけていた事もあり特に危機感もなく眺めていた。
若い看護師だった。それもかなりの美人。
四角いステンレス製のトレーを掲げ持ち、
何故か明かりをつけることなく、無表情のまま静かに部屋へと入ってきた。
「採血します」
こんな時間に?と疑問に思ったものの、看護師さんの言う事だしと大人しくされるがままに、
腕の血管に針が刺さっていくのをぼんやりと眺めていた。
そのうちに強い睡魔に襲われ、意識を失うように眠りに落ちた。

翌朝、別の看護師に夜の出来事を話してみた。
「夜中に採血なんてしませんよ。そんな看護師もうちにはいませんし」
夢でも見たのだろう、そうあしらわれた。
腕を確かめてみたが、針を刺した痕はどこにも見当たらなかった。
だが、それから毎夜、看護師はやってきた。
いつも明かりをつけることなく現れて、機械的に採血をしていく。
寝起きの夢うつつの状態ではそれが当たり前だと感じて抵抗する考えさえ起きない。
盲腸で入院した筈だが、次第に体調が悪くなる。
退院も、先送りになった。


見舞いに来てくれた親友に、ネタとして深夜の看護師の話をしてみたら、
御守りより効く邪気払いとか言ってエロ本を買ってきやがった。
その日は久しぶりに無駄に元気になったせいで消灯時間が過ぎても全く眠れなかった。
そのうちいつもの時間になり。
いつものように、看護師が現れた。

「採血します」
無感情に準備を始めた看護師を眺めているうちに、たぎるものを押さえきれなくなり。
もぞもぞと動いていたら、注射器片手に振り向いた看護師に見咎められた。
「いやそのこれは小便でトイレに行きたくなって我慢してるだけで」
慌てて誤魔化そうとしたのだが、掛け布団と寝巻きと下着まで剥ぎ取られてしまう。
「そちらの方が血管が良く見えますね」
看護師の言葉に血の気が引く音が聞こえた。
「いや針は勘弁してください」
涙目で懇願する。
無表情のまま注射器とイチモツとを見比べていた看護師。
「針のほうが痛くないと思いますが、では直接採血させていただきます」
注射器をトレーに戻し、それからイチモツに手を沿える。
白く長い犬歯が、脈打つ血管にじわじわと潜り込んでいくのを、混乱した頭で眺めていた。


「お前の部屋、『入ったら生きて帰れない』魔の部屋だったらしいぞ」
看護師や入院患者たちが話していたと、退院の手伝いに来てくれた親友が耳打ちした。
「まあお前にゃ関係ないか」
元看護師が近づいてくるのを見てからかうように肩を叩き、タクシーを呼びに行った。
「家に憑いて来るって本当でしょうか?」
「はい。同一人物から同意を得た上で継続的に血を頂ける機会は滅多にありませんので。
その代わり、お約束どおり体調管理はしっかり行わせて頂きます」
表情同様無機質な冷たい光を放つ瞳が真正面から見つめてくる。
蛇に睨まれた蛙のように身じろぎできないでいるうちに、彼女の手がすうっと伸びてきて―
「そこの熱いお二人さーん」
「違います」
からかい口調の親友の呼びかけにいち早く反応する彼女。
何も知らない無邪気な親友に気取られるわけには行かない。
逃がさないつもりなのだろう、掌に絡みつく彼女の指を、決意をこめて握り返した。

◆◆

以上が奴とその嫁との馴れ初めだそうです。
酒の席で無理やり聞きだしました。
きっかけになった俺がやったエロ本は今でも使っているそうですつかそんなもん後生大事にするな。
確かに嫁さん見た目は無表情でちょっと怖いけどあれで中々感情的だし奴にべったりなのに。
最終更新:2011年03月06日 09:54