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書庫から一冊の本を持ち出し、読み始めた。
僕に足りないのは覚悟だ。そしてそれが立脚する自信だと思ったからだ。

「・・・マキャベリ?貴方は絶対的な支配者になれるの?」
「あっ姉さんっ」
いつの間にか姉が背後にいた。何か恥ずかしい気持ちでいたたまれなくなった。
「答えて」

君主論。冷徹な支配者たる指針の書。僕の真逆にあるような書だ。

「・・・わかりません」
「わからない?・・・まだ読み始めたばかりなのね。いいわ。こっちに来て」
姉は僕を促し部屋の真ん中に導いた。

「わたしを服従させられる?」
姉が僕を射抜くように見つめた。その表情からは真意が見抜けない。
「・・・それが、君主であるという事なら」
声が震えた。でも、それがきっと、姉が求める答えだと思ったのでそういった。
心臓が早鐘のように響く。手が痺れる。

「どうやって?」
姉はあくまで冷静に尋ねてきた。どうやって・・・?


どうやって・・・。僕は必死に思考を巡らしながら、だが姉を見つめ返した。
目をそらさない。それは最低条件だったから。

「どう・・・やって?」
姉の頬が心なしか紅潮し、声はかすれていた。

「ひざまづいて。僕に」
「・・・はい」
姉はそのまま僕にひざまづいた。うつむいた顔からは表情は伺えない。

「姉さんは僕に・・・忠誠を誓う最初の一人になるんだ」
声が震えていたが、言い切った。僕は、華族の名門の跡取り。
姉がゆっくりと顔をあげる。

「・・・まだまだ。そんなことでは忠誠は誓えないわね」
初めて見下ろす姉の顔。紅潮し、桜色の頬にはにかんだ笑みがかすかに漂う。
「でも・・・私はあなたの最初の一人になるはずよ」

ひざまづく姉の肩に手を置く。指先は震えていたが、姉が掌を重ねた時震えは
溶けるように、消えた。

「そうだね」
「いつかくるのかしら?楽しみにしているわ」

静寂の中、僕と姉はただ見つめあった。
最終更新:2011年03月08日 19:21