安価『旅人』

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真っ白な砂浜、底まで見えそうなくらい透き通る青い海、そして雲ひとつない空。 俺の遊び場には、今日もあの人が来ていた。 誰かを待っている訳でもなく、ずーっと海を眺めているだけ。 長い髪を海風に靡かせながら、その人は立っていた。 「ねえ、なんで毎日ここにいるの?」 気になって仕方がなかった俺は、ついにその人に声を掛けた。 長い髪がふわっと舞いながら、その人はこちらの方に体を向けた。 その人を見た俺は、一瞬どきっとした。 誰もが見とれてしまうような絶世の美女、という表現がふさわしいだろう。 砂浜と同化してしまいそうなその白い肌は、俺たち自慢の海と同じくらい透き通っていた。 彼女の薄いピンク色の唇が動く。 「ここのね、景色が気に入ったの。」 そう一言だけ言い、再び海のほうを向いた。 「そりゃそうだよ!ここの景色は日本・・・いや、世界一だぜ!」 俺は自慢げに言う。すると彼女はこちらを向き、ふふっと笑った。 「私もそう思うわ。今まで色々な所を歩いてきたけれど、これほど心に残る所はなかったわ。」 「お姉さん何やってるの?」 僕は無邪気に質問をする。 まだこの頃は、彼女がどういう立場、心境にあったのか全く露知らずだったからこんなことがいえたのだろう。 「私?・・・色んなところを・・・旅してる人・・・かな?」 「どうして旅してるの?」 「自分探しの旅なんだろうね・・・きっと。」 「自分探し?」 「私ね・・・元々は男の人だったの・・・でもね、ある日突然女の子になっちゃってね・・・」 彼女はゆっくりと話し出した。 どこか遠くを見つめている。何かを思い出しているのだろうか。 俺は彼女が何を言っているのか理解できていなかった。 まだ女体化という言葉すら知らぬ時期であった。 「あ、まだ君には関係のないことだったね。」 そう言うと、彼女は屈みながら俺の頭をわしわしと撫でた。 当時6歳であった俺は、素直に喜んだ。 「いずれ君にも来るよ・・・分かるさ・・・」 何処となく寂しそうな表情をしていた。 「また会えるといいね。」 そう言い残して、彼女は港のほうへ歩いていった。 夕暮れ時の海岸。波の音だけが俺らを包んでいた。 ---- それから10年後、俺は女となった。 漁師である親父の仕事を継ぐことを夢見ていたが、本当に夢となってしまい、女体化した日は一日中泣いていた。 翌日、途方にくれた俺はいつもの場所に向かった。 彼女と出会ってから10年間、毎日欠かさず立ち寄っているあの海岸だ。 夢や希望を失った俺は、砂浜に寝転んでいた。 雲ひとつない空が広がっていた。 「ここも変っていないわね・・・」 ふと後ろから声がする。 地元の人のしゃべり方ではない。 どことなく懐かしいその声。聞いたことがあった。 俺はその声をするほうを向く。 するとそこには、10年前に出会った彼女が立っていた。 彼女は相変わらず美しかった。 あのときから10歳も年をとったとは思えないほど、若々しかった。 俺は懐かしさと不安な今の状態が相まって、寝転んでいた体を起こし、彼女の方に走っていった。 彼女は俺の行動に驚き、少しばかり後ろに仰け反る。 一体何が起こったのか分からないような感じであった。 「あの・・・10年前にもこちらを訪れませんでしたか?」 「え・・・ええ、訪れましたけど・・・?」 突然の質問に驚きを隠せない彼女。 俺は間髪いれずに質問をした。 「10年前に、ここで出会った少年のこと、覚えていませんか?」 彼女が覚えていないことは百も承知で聞いてみた。 10年も前の話、まして10分くらいしか話してない俺のことなど覚えている訳がない。 「もしかして・・・あの時の少年ですか?」 なんとも、覚えていたのだ。 彼女は驚きながら聞いていたが、驚いているのは俺のほうだった。 「女体化・・・しちゃったんだ。」 少し苦笑いしながら言う。その表情にはどことなく懐かしさを感じさせるものがあった。 俺は今の心境、そして今後どうしていったらよいかなどを彼女に話した。 「私ね、旅をする前はあなたと全く同じような考えをしてたの。 すっごく後ろ向きで、なーんにもやる気が起きなかった。 でもね、何かをやらなくちゃ始まらないよ、って言われたの。 それから私は自分探しの旅を始めたの。」 そう話す彼女。10年前に見たときより、表情に力強さがあるように感じた。 旅をしてきて、彼女は彼女なりに何かを見つけたらしい。 俺も見つかるものなのか、と聞いてみた。 「あなたの努力次第ね・・・」 彼女は何かを考えるように上を向き、そして俺にこう言った。 「・・・あなたも旅に出たら?」 船の汽笛とともに、すうっと心地よい風が駆け抜けた。 ----

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