『神に造られた死体』[推理編]

305 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 19:45:07.88 ID:YVJOkzVE0


登場人物

【透】男。
主人公。高校二年生。
【真理】女
透と同じクラスの女子。
【香山】男。
透と同じクラスの男子。
【啓子】女
透とは別の高校の三年生。
【小林二郎】男
真理の親戚のおじさん。ペンション『シュプール』のオーナー。
【今日子】女
小林二郎の奥さん。ペンションのシェフでもある。
【みどり】女
ペンションでアルバイトをしている。
【加奈子】女。
フリーター。二十歳。
【美樹本】男
冒険家。三十五歳。

【突如現れた死体の女】
首を絞められて殺害されていた。


306 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 19:46:07.15 ID:YVJOkzVE0


吹雪で外界と閉ざされたペンションで、一つの死体が僕たちの旅行を惨劇へと変えた。
それは二つの意味で衝撃的な死体だった。

最初の衝撃はもちろん、友人がいるはずの部屋に女の死体があったこと。
そしてもう一つは、その女は今夜の宿泊客では無かったということ。

一体誰が女を殺したのか? 消えた友人は何処へ行ったのか?
この吹雪のペンションに女はどうやってやってきたのか?
僕たちは果たして、生き残ることが出来るのか……?



安価「探偵」より創作

――神に造られた死体


307 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 19:47:01.19 ID:YVJOkzVE0


話は一ヶ月前に遡る。
真理のところにある招待状が送られてきた。
それは真理の親戚のおじさんからだった。

招待状にはこう書かれていたらしい。
新しくペンションを開業したので、是非友達を誘って来て欲しい。と。

そこにスキー場の全エリア一日無料券を三人分添えられて。



そういう訳で、真理と僕と香山の三人で、一泊二日のスキー旅行に行くことになった。
憎しみが渦を巻く、殺人事件に出くわすことなど知らずに。


308 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 19:47:44.75 ID:YVJOkzVE0


「たっのしー!」

真理は久しぶりの旅行だと大いに喜んでいた。
滑り終えた真理がストックを肩にかけて、僕たちが座っているベンチの方に歩いてくる。

「おいおい、はしゃぎすぎて転んで怪我するなよ」
「だいじょーぶだよ。透じゃあるまいし」

香山の言葉に軽口を叩く真理。
僕と違って運動神経が良い真理は、スポーツと名のつくものは大体何でもこなす。

「日が暮れる前にペンションに急ごうよ」
「ん、あともう一回滑ってからね!」

僕の言葉など聞くこともせず、真理はリフトの方へ走っていってしまった。
香山はやれやれと言ったように肩をすくめ、僕と顔を見合わせて笑った。


311 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 19:48:38.07 ID:YVJOkzVE0


ペンションは山奥にあり、マイクロバスが一日五回送迎を行っている。
僕たちはバスに乗り込み、ペンションへと向かった。

バスには他にもペンションの宿泊客がいて、人見知りしない真理はさっそく話しかけていた。

バスに同乗していた女の子二人組は啓子さんと加奈子さんという名前で、
二人はついさっきスキー場で知り合ったもの同士らしい。

「実はあたし彼氏に振られちゃって、気晴らしに一人で旅行しにきたの」

啓子さんは丸顔が可愛らしい人で、聞けば高校三年生らしい。

「スキー場のカフェにいたら、加奈子さんと相席になって……」
「話しかけたらあら不思議。私と同じ理由で旅行に来てたもんだから、意気投合しちゃってさ。
 啓子と名前も聞かないで元カレの悪口を言い合ってたのよ」

啓子さんの話に割って入ってきた加奈子さんは、とても饒舌で
ペンションにつくまでマシンガントークを絶やさなかった。
おっとりしている啓子さんは笑顔で加奈子さんの話に相づちを打っている。

境遇が一緒だったこともあるだろうが、性格的にも二人は相性が良いのだろう。


314 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 19:49:39.66 ID:YVJOkzVE0


ペンションにつくと、真理が真っ先に中に入り、カウンターの前に出た。

「おじさん! お久しぶりです」
「おお、真理ちゃんか。大きくなったな!」

ペンション『シュプール』のオーナー、小林二郎さん。
今日子さんと夫婦でこのペンションを経営している、真理の親戚のおじさんだ。

「こんにちわ。真理の友達の香山と言います」
「あ、どうも。透です」

「真理から話を聞いてるよ。来てくれてありがとう。
 夕食が出来たら呼ぶから。はい、これ部屋の鍵。部屋は全部二階にある」

真理は三つの部屋の鍵を受け取り、僕たちに手渡した。
鍵についてるプレートの番号を見ると、真理の横の部屋が香山、香山の横が僕の部屋らしい。


部屋に荷物を置くと、僕たち三人は談話室へと向かった。

「あ、真理ちゃんたち、良いところにきたね。トランプしない?」

談話室には先ほどの加奈子さんと啓子さんがソファーに座っていた。


315 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 19:50:41.98 ID:YVJOkzVE0


僕たちが五人でトランプに興じていると、新たな宿泊客がやってきた。
大柄な体に迷彩のズボン。加えて顎を覆うヒゲから山男、という印象を受ける。


「いや~酷い酷い。山の天気は変わりやすいと言うけど、これはちょっと酷いな!」
「あ、美樹本さん。どうもお久しぶりです」
「お久しぶりです。小林さん、外は猛吹雪ですよ。ナイターに行こうと思っていたのに」


山男は美樹本さんという名前らしく、オーナーの小林さんとは知り合いらしい。


「マイクロバスは元々夜中には出ないはずですが……」
「僕は自分の車で来たんですよ。どうも人が運転する車は信用出来なくてね」

美樹本さんは普通に喋っても声が大きいので、談話室にいる僕たちに全て話が聞こえてきた。
美樹本さんが二階に上がると、すぐまた下の階に戻ってきて、雑談している僕たちのところへやってきた。

陽気な人で、すぐに僕たちとうち解け、僕たちは六人でたわいも無い雑談をしていた。


317 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 19:51:34.48 ID:YVJOkzVE0


「うーん困ったな」

しばらく経った後、小林さんが僕たちのところへ頭を掻きながらやってきた。

「どうしたんですか?」

美樹本さんが大柄な体を小林さんの方へ向け、聞き返す。


「どうやら吹雪でバスがこれなくなったみたいなんだ。今日の宿泊客は君たち六人だけになりそうだ」
「確かにこの吹雪の中車を走らせるのは自殺行為でしょうね」
「こんな吹雪は久しぶりだよ。全く運が無い」

うなだれた小林さんは、肩を落としながら奥へと消えてしまった。


318 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 19:52:16.40 ID:YVJOkzVE0


「ちょっとトイレに行ってくるよ」

三十分後、香山がそう言って席を立ったので、僕も慌ててそれに続いた。
実は僕も我慢していたのだ。

トイレは一階の奥にあった。男性用の方に入ると、さっそくジッパーをおろす。

「吹雪なんてついてないよな」

そう言いながら香山は楽しそうに見えた。
小学校の頃とか、学校にいるとき雷が鳴ったりするとはしゃぐ奴がいるが、こいつはそういうタイプだ。
お前楽しんでるだろと僕がつっこみを入れかけた、その時だった。

「きゃっ」

トイレの入り口から、エプロン姿の女の子が入ってきたのだ。
短い悲鳴の後、すぐトイレから出て行った。


319 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 19:53:01.31
ID:YVJOkzVE0


「ご、ごめんなさい。誰もいないと思って、トイレットペーパーを取り替えようと……」

し、しまった。ちょうど便器から振り向いた瞬間だったので、僕の粗末なモノを見られたかもしれない。

「あ、私このペンションでバイトをしているものです。
 食事の用意が出来ましたので、透さんと香山さんも談話室の奥のダイニングへどうぞ。
 他の方たちはもう集まっているはずです。私も先に行っています……」

早足で廊下を歩く音が聞こえ、女の子が行ってしまったのがわかった。


「見られちゃったかな……」

香山がぼそっと呟いたが、おそらく見られたのは僕の方なので、何も言わないでおいた。


323 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:02:04.00 ID:YVJOkzVE0


ダイニングに行くと、既にみんなが席についていた。
先ほどの女の子もいて、僕と目が合うと恥ずかしそうに下を俯いた。やはり見られていたか……。

その子の他にもう一人、僕の知らない人がいた。人の良さそうなおばさんだった。


「皆さん初めまして。小林今日子と言います」
「今日子さん、初めまして。真理です」
「あら、貴方が真理ちゃん? 話は夫から聞いてますわ。こんな山奥まで来てくれてありがとうね」

どうやらこの人がオーナーの奥さんである、今日子さんらしい。
今日子さんは料理が上手ということで、真理はそのテクニックを聞き出すのだと旅行前言っていた。


僕たちが適当に席につくと、エプロンの女の子が料理を運んできてくれた。
料理には一つ一つ工夫が施されていて、見た目だけでも楽しめる。


324 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:02:41.68 ID:YVJOkzVE0


「皆さん、今日はペンション『シュプール』に宿泊頂きまして本当にありがとうございます。
 お腹も空いているでしょうし、さっそく食べましょう。
 お酒もありますので、今日はサービスということでご自由にどうぞ」


小林さんの簡単な挨拶が終わると、僕らはさっそく料理に手をつけた。

う、うまい! うまいぞー!
口に広がる濃厚かつ芳醇な刺激が舌を刺激し、僕は休むこともせず手を動かし続ける。

「ちょっと透、恥ずかしいからあんまりがっつかないで」
「ふぁってりょうひがおいひいんだほん」
「おいおい、食べるか喋るかどっちかにしてくれ」

両サイドにいる真理と香山が冷たい目で僕を見てくるが、僕は気にせず料理を口に運び続けた。


325 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:03:11.59 ID:YVJOkzVE0


「なあ、君は前に来た時はいなかったね」

ふと声のした方に目を向けると、美樹本さんが空になった皿を片づけているエプロンの女の子に
声をかけているところだった。

このエプロン姿の女の子、トイレで会った時から思っていたが相当可愛い。
歳は知らないが、たぶん僕と同じかそれ以下だと思われる。

「透くーん? そういう目で女の子を見るのはやめた方がいいと思うよ?」
「え? 真理、今僕声に出してた?」
「出してた。あと目つきがやらしい」


326 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:03:55.47 ID:YVJOkzVE0


「私はシュプールでバイトとして働かせてもらっているんです」
「へえ、そうなんだ。君はいずれこのペンションの看板娘になるだろうな」
「口がお上手ですね。えっと……」
「美樹本だ。これはおせじでも何でもない。僕の素直な感想さ。名前を聞いてもいいかな?」
「みどりです」

美樹本さんはさっそくみどりちゃんに手を付けていた。
この人はさっき真理や啓子さんや加奈子さんにもアプローチをかけている。相当な女好きなのだろう

「透君、僕は別にやましい気持ちで声をかけている訳では無いよ。変な誤解をしないでくれ」
「え? 美樹本さん、今僕声に出してました?」
「出してた。あと目に殺意がこもってた」


みどりちゃんと小林夫妻も加え、僕たちは楽しい夕食の時間を過ごした。


328 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:04:50.80 ID:YVJOkzVE0


夕食が終わると、僕たちは再び談話室へと戻ってきた。
小林夫妻も交え、加奈子さんのマシンガントークに付き合っているうちに
いつのまにか時刻は十時となっていた。

「皆さん、コーヒーをお持ちしました」

みどりちゃんがお盆を持って僕たちの前に現れた。
僕らはそれぞれ勝手に手を伸ばし、カップに口をつける。


「あれ? そういえば啓子ちゃんがいないな」

美樹本さんの言葉で、僕も啓子さんがいないことに気がついた。

「啓子はもう寝るって言って、さっき二階に上がりましたよ。一日九時間寝るそうです」

加奈子さんが美樹本さんの隣で笑いながら言った。さっきの夕食の席でも加奈子さんは美樹本さんの隣に座っていた。
あーいやだいやだ。男女の貞操感について危機感を覚える今日この頃である。


329 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:06:06.36 ID:YVJOkzVE0


それから僕たちは十一時半くらいまで、談話室で雑談を続けていたような気がする。
気がする、というのは、あまり覚えていないからだ。
眠くなったから二階の自分の部屋まで行き、布団に倒れ込んだ。

旅行で疲れているのだろうか。そんなことを思いながら、僕の意識は、闇の中に落ちていった――。





「きゃああああああああああああ!!」

「――! なんだ!?」

突然の悲鳴で僕は目を覚ました。
ベッドから跳ね起き、部屋を出ると、僕と同じように部屋から出てきた人たちと目が合う。


330 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:06:49.50 ID:YVJOkzVE0


すぐ隣の部屋の前で、口に手を当ててわなわなと震える啓子さんの姿があった。
隣は香山の部屋である。

「どうしたんだ!……これは……!」

美気本さんがいち早く啓子さんの所へ駆けつけ、部屋の中を見て絶句していた。
僕たちも一拍遅れて啓子さんの元へかけつける。

「きゃああああああああ!!」

部屋の中を見て、真理が叫び、そして気を失った。
僕は真理を支えながらも、自分も気を失いそうな程ショックを受けていた。


香山がいるはずの部屋には、裸の女の死体があったのだ。
ソレは素人の僕が見ただけですぐに死体とわかるほど、凄惨な光景だった。

顔を切り裂かれた死体は、まるで生前の姿を想像することが出来ない。
胸に突き立てられたナイフが、まるで墓標のように見えた。


332 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:07:41.47 ID:YVJOkzVE0


「どうしたんだ!……ああ!」

小林さんが一階から上がってきて、部屋の中へと駆け込んできた。
僕たちと同じように、言葉が出ない様子だった。

真理の体を支えながら、僕は部屋にいる人を確認してみた。
僕、真理、啓子さん、加奈子さん、みどりちゃん、小林夫妻に、美樹本さん。

いないのは、香山だけだ。

ここで一つ疑問があがる。

「この子は一体……誰なんだ?」

美樹本さんが誰に聞いている訳でもなく、独り言のように呟いた。

そうなのだ。今ペンションにいる女性は全員部屋にいる。
この死体の女が一体誰なのか、誰にもわからないようだった。

「ひとまず下の談話室に行きましょう」

小林さんの言葉に無言で頷くと、僕たちは一階に下りた。


333 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:08:43.53 ID:YVJOkzVE0


「さっきのは紛れもなく殺しだったな」

静まりかえる談話室の中で、みんなが言いにくかったことを、美樹本さんがさらっと言った。

「じゃあ、犯人がまだ近くをうろついている……」

加奈子さんが泣きじゃくる啓子さんをなだめながら、そっと呟いた。
時刻は、深夜三時をまわっている。


僕は今の状況を必死に整理していた。

香山の部屋で発見された女の子の死体。これは明らかな他殺だ。
しかし殺された女はペンションの宿泊客では無ければ、誰かの知り合いでも無い。

そして、忽然と消えた香山。一体何処へ消えたのか。
今外は猛吹雪で、このペンションにいなければ下手すると凍死してしまう。
つまり香山は、まだペンションの中にいる。そして……。


334 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:09:55.70 ID:YVJOkzVE0


「殺人鬼がこのペンションに迷い込んだ可能性もあるけど
 こんな猛吹雪の中、この山奥のペンションに果たしてたどり着けるかな。
 ……透君、真理ちゃん。君たちの友達の香山君が何処に行ったのか、知らないんだね?」

美樹本さんの問いに、僕と真理は目を合わせた後、こくりと頷いた。

そう、この状況下で外部の者の犯行と思うには、いささか無理があるのだ。

「美樹本さん。香山を疑っているんですか?」

僕の問いに美樹本さんはまたしてもさらっと言ってのけた。

「ああ。疑っている」


真理ががばっと立ち上がった。

「香山が人を殺すなんてありえません! 大体、あの女の子は誰なんですか!」

真理の剣幕に美樹本さんが一瞬たじろいだのがわかった。


336 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:10:58.58 ID:YVJOkzVE0


「調べて……みましょうか」

小林さんがそっと呟いた。

「あの女が一体何者なのか。それとあの部屋に何か犯人に繋がるものがあるのかも……」
「よし。そうしよう」


小林さんが言い終わる前に、美樹本さんが立ち上がった。

「えーと、そうだな……透君、ついてこい。他の人はここで待っていて下さい」

女の子に見せるにはあまりにも凄惨すぎるし、女の子だけを下の階で待たすのは危険だと美樹本さんは判断したのだろう。
小林さんを下に置いておけば、ひとまず大丈夫だ。


僕と美樹本さんはあの凄惨な現場に、もう一度向かった。


342 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:24:20.88 ID:YVJOkzVE0


死体はどうやら縄のようなもので絞殺されて死んだらしい。
犯人は相当頭がイカれているらしく、その後ナイフで顔をめった刺しにして、心臓にナイフを突き立てたのだ。


僕は気持ち悪くなりながらも、部屋に何か犯人への手がかりが無いか探した。
窓を開けて外を覗いてみる。凍えるような吹雪が、僕の体の体温を一瞬にして奪う。

窓から下を覗くと、何か布のようなものが下に落ちているのがわかった。
その布には見覚えがあった――。

僕がその布をじっと見ていると、後ろから美樹本さんが僕に言った。

「死体をどけよう。手伝ってくれ」

死体には触りたくなかったが、あまり見ないようにして足首をもって、死体をベッドの上に移動させた。
心臓の辺りに刺さっていたナイフはかなり浅かったらしく、死体を動かすとぽろんと落ちてしまった。

死体がおいてあった床のところに、一枚の紙切れが落ちている。
そこにはこんなことが書かれていた。


343 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:25:44.76 ID:YVJOkzVE0


 みなごろしにしてやる 
 もうおれはとまらない 
             』


「……決まりだな」

美樹本さんが紙をひらひらさせて僕に言った。
美樹本さんは僕にこう言いたいんだ。犯人は香山だ、と。

その時僕は全く別のことを考えていた。
そう、今回の事件についてだ。もし僕の推理が正しければ、犯人は香山ではない。

「下に行こう」

美樹本さんがそう言いながら部屋を出ていったので、僕は慌てて後についていった。


344 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:26:34.71 ID:YVJOkzVE0


談話室で暗そうな表情を浮かべるみんなに、美樹本さんは紙を出して言った。

「やはり犯人は香山君らしい。この紙が証拠だ」

美樹本さんがテーブルに紙を置くと、みんながそれをのぞき込みはっと息を呑むのがわかった。
真理が涙ぐみ、手で顔を隠しそっと泣いている。

「小林さん。今からシュプールの中を捜索しましょう。香山君はまだこの中にいるはずです」
「わ、わかりました」
「透君はここにいたまえ」

そう言って美樹本さんたちは行ってしまった。おそらく香山は見つからない。

しかし犯人がわからない。犯人を推理するには材料が足りない。
いや、待てよ。真理は招待状でここに……よし、後であの人に聞いてみよう。

あとは……。


345 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:27:48.24 ID:YVJOkzVE0


「啓子さん。一つ聞いていいですか?」
「……何でしょう」

啓子さんは疲れ切った表情だった。

「貴方はどうして、香山の部屋にいったんですか」
「……トイレに行ったとき、部屋が空いてたの。覗いてみたら……中に……」
「そうですか。啓子さんは確か、他の方たちより先に寝ましたよね」
「うん」

「では、啓子さん以外の方に質問なんですが、いつ頃寝ましたか?」

そこまで言ったとき、加奈子さんが僕をにらみつけた。

「あんた、ひょっとして私たちの中に犯人がいると思ってんじゃないでしょうね」
「別にそういう訳ではないですよ。気になったから聞いてみただけです」
「……あんたが寝た後、私たちもみんなすぐに部屋に行ったよ。
 私はすぐに寝たけど、他の人は何してたんでしょうね」

加奈子さんの含みのある言葉に、他の人たちがいっせいに口を開く。


349 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:37:24.80 ID:YVJOkzVE0


「私もすぐに寝ましたわ。今日は疲れていたみたいで」
「……私も気がついたら寝てた」
「私もです」

今日子さんも真理もみどりちゃんも、僕が寝た後すぐに眠っていたらしい。


二十分後、美樹本さんと小林さんが帰ってきた。

「駄目だ。香山君はどこにもいなかった。外にいるんなら、戸締まりさえすれば僕らは安全だな」

美樹本さんの中では、香山が犯人だということは確定しているらしい。

僕は二人にさっきの質問をしてみた。

「僕かい? すぐに寝たよ。今日は寝付きがよかったもんでね」
「私もすぐに寝てしまいましたね」


やはり変だ。十二時になる前に全員が寝たというのか。
小学生じゃあるまいし、いくらなんでも健康的過ぎる。


350 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:38:08.08 ID:YVJOkzVE0


僕はトイレを装ってそっとある人物を誘い、しようと思っていた質問をしてみた。

「――」

! そう、だったのか……。

消えた香山。部屋に現れた見知らぬ女の惨殺死体。窓の下の布。
おかしな言動。そして全員が感じた突然の眠気。


事件のパズルは、全て揃った。

犯人は、あいつだ。


351 名前: 安価:探偵 投稿日: 2007/09/15(土) 20:38:49.08
ID:YVJOkzVE0


談話室に戻り、全員がいるのを確認すると、僕は立ち上がり言った。


「皆さん。聞いて下さい。これから、この事件の真相を話しましょう」

僕の言葉に美樹本さんは顔をしかめた。

「何を言っているんだ? 真相も何も、犯人は香山君だろう」
「いいえ、違います。犯人は、この中にいます」


僕は香山のことを思い、ぐっと胸が苦しくなるのをこらえながら、事件の全貌を語り始めた。



神に造られた死体[推理編] 終わり     解決編へ続く……


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最終更新:2008年09月17日 20:52
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