『第四幕・崩壊』|安価『高校+ツンデレと親友のラブストーリー』より『第四幕・崩壊』

学校に行くのが楽しいなんて、俺の人生には無かった経験だ。
初めての彼女、というわけではない。
だが初めて愛おしいと思える存在が出来たというのは確かだ。


教室に入り、窓際で友達とだべっている谷口のところへ急いだ。
俺が麻衣子と付き合えたのはこいつのおかげだ。
谷口は俺を見つけるとグループの輪から離れ、俺の前にきた。

「よお。
 遅刻とセーフのぎりぎりの境界線を追い求めるお前にしちゃ随分早い登校だな」
「あ、ああ」
「……で、どうだったんだ?」

谷口のにやついた顔の前に手を持って行き、ピースマークを作った。
俺たちは月曜日の憂うつなど忘れ、笑いあった。


          ◆         ◇         ★         ☆


月曜日はいつも憂うつな日。でも今日の私は、心の中だけだけど明るく振る舞える。
彼氏が、恋人が出来た。

(恋人……なんだよね)

初めての恋、初めての恋人、初めてのキス。
おとといは初めての連続だった。
あんなに心が温かくなったのも、初めての経験。
心の中につもる黒い塊を、マコっちゃんが溶かしてくれた。
また頑張れそう。そう思っていた。


教室に入るとそこにいた人たち全員の視線が私に集中した。
いつも感じている半ば被害妄想に近い視線と違い、はっきりと私を見ている。
何が何だかわからなかったが、黒板に貼られた写真を見て、その理由がわかった。

「……え……?」

私と、マコっちゃんが抱き合っている写真だった。
背景から戸塚動物園だということがわかる。
どうして……どうしてこんな写真が……誰が撮ったの……。
カバンを持ったまま立ちつくす私の肩を、誰かが後ろから叩いた。
振り返ると、一瞬で心を凍らせてしまうような笑顔の三人がいた。
潮崎さんと、甲斐さんと、野菊さんだった。

「あっつあつじゃーん桂!」
「誰なのよあいつは。いつから付き合ってたの?」
「泉堂誠くんっていうんだよねー? 同じ中学校だった人?」
「どうして……」

どうして、マコっちゃんのことを知ってるの……?
その時チャイムが鳴り響き、先生が教室に入ってきた。
黒板に貼られていた写真は、いつの間にか無くなっていた。


          ◆         ◇         ★         ☆


「で、詳しく聞かせてくれるんだろうな」
「な、何をだよ」

昼休みになり、俺と谷口は弁当を広げていた。
谷口は俺と麻衣子のことが相当気になるらしく、先ほどからそのことしか喋らない。

「だーかーらー、どういう感じに告白してその後どこまでいって今お前はどんな感じなのかだよ!」
「全体的に不明瞭だな、お前の質問は」
「じゃあこれだけは聞かせろ。キスはしたか?」

俺は答えにつまった。端的に言えばYESなのだが、恥ずかしくて言えない。
大体声量のアベレージが高い谷口の言葉は教室全体に聞こえていて、
何人かは谷口の言葉に聞き耳を立てているみたいだった。
俺みたいなタイプが恋愛しちゃいけないってのか。

「……」
「……したな」

俺が答えられないでいるところを見て、谷口は察してしまったらしい。

「なーんだキスまでしたのかよ。じゃあ今週はBで、来週はCだな!」
「そんな計画立ててねえよ……!」

ひそひそ話をし出す者が出てきた。俺の方をみてクスクス笑う者まで。
ちくしょう。このタイプの恥ずかしさは今まで味わったことがない。

「あーいいねえいいねえ青春だねえ。俺なんか最近倦怠期入ってるぜ。高校生のくせにさ」
「お前の彼女、他校だよな。何処だったっけ」
「○○高だよ」

○○高校と言えば、麻衣子と同じ高校だ。
ひょっとすると麻衣子の知り合いかもしれないな。
しかしそれを言えば彼女経由で麻衣子のことを調べられる可能性がある。
そうすれば俺はさらなる話の種にされかねないので、それは黙っておいた。


          ◆         ◇         ★         ☆


昼休みになると、すぐさま私は部室に連れ込まれた。
部室の壁一面に貼られたものを見て、心臓が止まるかと思った。

「あ……ああ……!」

マコっちゃんと手を繋いでいる写真。
マコっちゃんと抱き合っている写真。
マコっちゃんと笑いあっている写真。
マコっちゃんと話している写真。
マコっちゃんとキスをしている写真。
見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない!
一番踏み込んで欲しくなかったところを、一番構って欲しくなかったところを、
ずたずたに荒らされた気持ちだった。
お願い……マコっちゃんの気持ちを、汚さないで……!

「ねえ、こいつとどこまでいったの?」

潮崎さんの冷たい声が、私を暗い闇の底へ引きずり込もうとしている風に聞こえた。
一度は味わった幸せ、一度は信じた未来が、徐々に崩壊していくのを感じる。

「……キス、しました」
「それだけ?」
「……はい」

潮崎さんたちは小声で何か話し始めたが、それは私には聞こえなかった。
話し合いはすぐに終わったようだった。三人は含みのある笑顔で私の方を振り返る。
すると突然野菊さんがロッカーからモップを取り出した。
何が始まるのか全くわからなかった。うろたえる私に、甲斐さんが言う。

「初めては上手く出来ないだろうから、練習しないと、ね?」

練習……?

「大丈夫大丈夫。これ先が丸っこくなってるから」

野菊さん……?

「私がやる。桂を押さえてて」

そのとき、これから起こることを、全て理解した。



     「いや! いやあああああ!」
        「暴れるなよ!」
            「桂さん暴れると余計痛いよ!」
       「そっち押さえて! 足を広げて!」
「あ、あんたたち何してんの?」
       「先輩! お願いします桂を押さえててください!」
               「やめて! やめて!」
   「ああ、そういうこと? オッケー。ほら、そっち持って」
             「下着切っちゃう?」
      「やめてください! お願いしますやめてください!」
 「……脱げた! 足持って!」   「乙女ちゃんそれ突っ込んで!」
   「ま、待ってよ。こいつ動くからうまく当てれないの」
      「いや! ああああ! ああああああ!」
   「……よし! 入った!」
            「そのまま一気に突っ込め!」
   「あー! あ……痛い! 痛い! 痛い! 痛い痛い痛い!」
   「もっと足広げて!」  「うわ、グロ……」
   「血出てるじゃん。ちょっと太すぎたかな」
       「いいいぎいいぃぃ……あぁあああ!」
  「もっといけるでしょ。潮崎力こめなよ」 「はーい、せんぱい」
   「ああああ……あああ……ああああう……い……」
   「うっわー。げろげろ」
       「血が止まらないけど、良いのかな」
           「生理だと思えば良いんじゃない?」


   「あぐっ……えっ……ああ……」
        「吐いたら殺すからね」
 「どう桂、気持ちいい?」「泉堂くんのだと思えば気持ちよくなるって」
   「誰? 泉堂って」    「桂のカレシです。別の高校の奴です」
   「彼氏いんのこいつ? なにそれ、きもちわる」
   「痛い……痛い……痛い……痛い……」
   「モップもう一本取って」
          「なんで?」
   「……穴は一つじゃないでしょ?」 「ああ、そういうこと」
   「お金は、ちゃんと払いますから……やめて、ください……やめっ、て……」
        「はい、今度は利香がやってよ」
     「えーお尻の穴でしょ? 何かこわーい」
      「……」
   「大丈夫だって。痛いのあんたじゃないし」
            「桂ー。笑いなさいよ。あのデートのときみたいにさ」
    「どうして……」
      「アンタの携帯のメール見たのよ。だから土曜日こっそりつけてたって訳」
   「どうして……私なの……」  「は?」
   「どうして私が……こんなことされなきゃいけないの……」
     「……利香、それ貸して」   「乙女がやってくれるの?」
     「うん。お尻こっちに向けて」  「こう?」
       「そうそう。……よ」
            「あぁぐぅ! いがぁあ!」
   「うわ、獣みたい……」      「きつい! ちょっと手伝って!」
   「ああああああああああああああああああああああああああああ!」



          ◆         ◇         ★         ☆


「なんつーか、感無量って感じだな、うん」

腕組みをして、息子が成人した親父みたいな顔で谷口は言った。

「お前に彼女か……くー。きっと菩薩みたいな人なんだろうな」
「そりゃどういう意味だ」
「そういう意味だ」
「……」
「まあかりかりすんなって! 聞いて無かったけど、どういう子なんだ?」
「どういうって……」
「ほら、おっぱいが大きい! とか、お尻がかわいい! とかだよ」
「……笑顔」
「うん?」
「笑顔が、かわいい」
「……こりゃあ重症のようだ」


          ◆         ◇         ★         ☆


「うふふ……! あははははははははは!」
 「何こいつ、急に笑い出したよ」  「壊れたんでしょ?」
   「小便ちびっておかしくなっちゃのー?」
「あははははははははははははは! ひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!」
  「乙女……やばいよ、こいつ」  「何が」
 「何がって……もうやめた方がいいんじゃない?」
       「冗談言わないでよ。これ、毎日続けるんだから」
            「おーおー流石サド姫」
 「せんぱーい。そのあだ名やめてくださいよー」
       「私らみんなそう呼んでるよ? ねえ?」
            「うん。潮崎はサドっけあるから」
「あはははははははははははははははははははははははは!
 あははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
  「そろそろ授業始まるからいこーよ」 「そうだね」
   「こいつどうするの?」  「ほっとけば?」
       「気持ち悪いからほーちプレイってことで」



「あはは……よごれっちゃったぁ……うふふふふふふふふふふふふふふ」

誰?

「うふふふ。ふふふふふふふふふふ」

笑っているのは、誰?

「ひひっひひひあははははははははははは!」

ああ、そっか……。コレ、私だ……。

「ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ」

ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ
ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ
ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ
ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ。


ぜーんぶ、だいなしだぁ……――。


          ◆         ◇         ★         ☆


肌寒くなってきた。今日は雪がふるかもしれないな。
家についたらすぐに部屋に向かって、エアコンをつけた。
部屋が暖まる数分でさえ我慢できず、既にエアコンの恩恵を受けている居間に避難する。

「あ、誠。帰ってきたらただいまくらいいいなさい」
「ただいま」
「おそい!」

母さんは台所で夕食を作っていた。
つけっぱなしになっているテレビの前のソファーに体を預け、一日の疲れをため息と共にはき出した。
すると二階から携帯が着信しているのが聞こえた。机の上に置きっぱなしだった。
俺は慌てて二階に上がり、七コール目で携帯に出た。着信は谷口からだった。

「もしもし」
「誠、あのさ、聞きたいことがあるんだ」
「何だ?」
「お前の彼女って、麻衣子っていう子だったっけ?」

俺は呆れて笑ってしまった。
他人の恋愛にどこまで首を突っ込む気なんだろうと。

「ああ、そうだよ。どうした、俺のことフライデーにでも載せる気か」

俺の軽口を無視して、谷口は続けた。

「名字は何ていうんだ」

真剣な声だった。

「……桂だ」
「……そうか、わかった。
 もしかしたら今日もう一回電話するかもしれないから、携帯ずっと持っとけよ」

俺の返事も聞かず谷口は一方的に電話を切った。
何だ、あいつ。よくわからんが、少し焦っていた気がする。

何か胸騒ぎがする。

俺からかけ直して事情を聞こうとしたとき、一階の方から母さんの呼ぶ声が聞こえた。
一階に下りると、母さんが家の受話器を持って俺の方を見ていた。
父さんが死んだ時以来の、険しい表情をしていた。

「……誠、病院からよ」


心臓の鼓動が高まるのを、感じた。


第四幕・崩壊   終わり


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最終更新:2008年09月17日 20:55
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