『クラッキ』2

39 名前:クラッキ2[] 投稿日:2007/08/07(火) 02:23:17.43 ID:U4SatLEf0
転校生、しかも美少女。
さらに自分の隣の席にそいつが来たら、要素は全て揃ったと思って良いだろう。
でもそいつはそれ以上のものを持っていたんだ。

何から何まで負けっぱなしの俺だが、九回裏、まだ逆転の可能性はあったのさ。


40 名前:くらっき2[] 投稿日:2007/08/07(火) 02:26:41.16 ID:U4SatLEf0


ニコが俺の隣の席に座ると、ようやくHRが始まった。
先生の話を右から左に受け流しつつ、俺はニコのことを観察していた。
ニコは筆箱から消しゴムを手に取り、机の上をじっと見つめている。
何か探しているようだった。

「……何してるの?」

俺が声をかけると、ニコはびくっと肩を震わし、消しゴムを落としそうになった。

「あ……えっと、落書きがあるかと思って……」

転校早々机の落書きを探す美少女。
これは潔癖症というやつだろうか。

41 名前:クラッキ2[] 投稿日:2007/08/07(火) 02:28:46.10 ID:U4SatLEf0

「ふーん、そう」

手品は種を知ったらつまらなくなる。
ニコの挙動不審な動きの理由を知った俺は、それ以上会話をすることはせず、大人しくHRの終わりを待った。
ニコはその後も、ありもしない落書きを探して下を向いていた。
変な女。

42 名前:くらっき2[] 投稿日:2007/08/07(火) 02:32:11.75 ID:U4SatLEf0


休憩時間がくる度に、ニコの机の周りには人だかりが出来た。

どこの高校から来たの?
部活何入る?
笑顔って変わった名前だよね。
彼氏とかいます?
俺の作った詞を見てくれ。こいつをどう思う?

ニコは畳みかけるような質問の嵐に、しどろもどろだが一つ一つ答えていった。
隣のクラスから来る暇人(残念ながら俺の知り合い)もいたから、さながら特売に群がる奥方の群れ。
今日は美少女転校生が半額でございますよ、奥様。

43 名前:クラッキ2[] 投稿日:2007/08/07(火) 02:35:04.57 ID:U4SatLEf0
それにしても一つだけ気になることがある。
笑顔って名前の割には、ニコは笑っていない。
そりゃあ完全な無表情ではないし、傍目には笑顔に見える時がある。
でもそれは笑顔の形に固まっている薄い皮を顔に貼り付けたような。
悲しげにも見える、愛想笑いだ。

45 名前:くらっき2[] 投稿日:2007/08/07(火) 02:40:19.16 ID:U4SatLEf0


昼休み。
俺はいつもコンビニのパンで済ませているが、ニコは違った。
ニコはカバンから可愛らしい包みを取り出した。
中に包まれているのはもちろん、弁当箱だ。
横目でそっとニコが弁当箱のふたを開けるのを見ていた。
中身はこれまた可愛らしいもので、ご飯の上にニコちゃんマークに切られた海苔が乗っている。

「手の込んだ弁当だな」

俺が話しかけると、またニコは肩をびくっと震わし、手に持った箸を落としそうになっていた。
俺のこと嫌いなのかな。

「これ、お姉ちゃんが作ってくれたの」

ほお、それはそれは。

46 名前:クラッキ2[] 投稿日:2007/08/07(火) 02:44:14.41 ID:U4SatLEf0
にしても誰かの質問に答えている時もそうだったが、ニコは人の顔を見るのが怖いらしい。
話している時人の目を見る時間が極端に少ないのだ。
今のところニコの顔を真正面から見られたのは、朝の自己紹介の時だけだ。

「お姉さんと仲良いんだな」

俺がそう言うと、ニコは目を輝かせて

「うん。優しくて強くて、ぼくの憧れの人だよ」

笑いながら、そう言った。
たぶん、ニコの笑顔を見たのは、この学校で俺が初めてだと思う。


47 名前:くらっき×クラッキ2[] 投稿日:2007/08/07(火) 02:48:40.42 ID:U4SatLEf0

「可愛い」
「え?」

しまった。
つい本音が漏れてしまった。

「うん、ぼくもそう思う」

どうやらニコは弁当の事だと解釈したらしい。
危ない危ない。
たぶん俺一瞬だけ変質者の顔になってた。
それからニコは、意外と人なつっこい性格かもしれないと思った。

「あの、貴方の名前教えてください」

上目遣いでこんなこと言うんだぜ。
子猫が物欲しそうな顔でこっちを見つめる時があるだろ?
今そんな感じ。

49 名前:苦羅津鬼2[] 投稿日:2007/08/07(火) 02:51:40.50 ID:U4SatLEf0

「松崎周也。周也でいい」

俺は精一杯かっこつけてそう言った。

「周也くん、一つ聞きたいことがあるんだけど、いいですか?」
「ああ、いいよ。あと敬語はいらない」

転校初日で緊張してたから、何話してもしどろもどろだったのかもしれない。
今のニコは饒舌だ。
ああ、姫。
そんなつぶらな瞳で俺を見ないでくれ。
俺は王子様にしちゃ随分汚れているぜ。

「この学校で、女体化した人がいるって聞いたんだけど、周也くん知らない?」

50 名前:クククラッキサイドへよようこそそそ2[] 投稿日:2007/08/07(火) 02:54:56.85 ID:U4SatLEf0

つい最近、俺の友達が女体化したってのは、前に言ったな。
おそらくそいつのことだ。
香坂晶(こうさか あきら)。
健一の彼女。

「よく知ってる。昼休みなら大体屋上にいるよ」
「会いに行っても大丈夫かな」
「いや、喜ぶと思うよ(特に健一が)。良かったら、連れて行こうか」
「うん。ありがとう、周也くん」

さすが笑顔という名前をつけられただけはある。
まるで天界から舞い降りた天使のようだ。
うん、どうやら俺の詞のレベルは健一並だ。

51 名前:くラっキ2[] 投稿日:2007/08/07(火) 02:57:55.99 ID:U4SatLEf0


ニコを連れて校内を歩くと、すれ違う者たちは皆振り返って俺たちを見ていた。
視線に耐えられないらしく、ニコはずっと俯いている。
俺はというと、芸能人の彼女を連れて街を歩いている気分。
うーん、役得役得。
屋上に出るドアを開けると、いくつかのグループがかたまって昼飯を食べていた。
その中で一際五月蠅いカップル目指して俺たちは歩いていった。

52 名前:クラッキsecond[] 投稿日:2007/08/07(火) 02:58:59.71 ID:U4SatLEf0
「お、松崎。珍しいな屋上に来るなんて」
「退院おめでとう。あの時はありがとね。今度ご飯おごるよ、健一が」
「何で俺だよ! で、松崎君。何で君がその子を連れているのかね?」

美女と野獣カップルは、今日も絶妙のコンビネーションを発揮していた。

「晶、久しぶり。実はな、橘さんがお前に会いたいって」
「え、私に? その子って、今日転校してきた子だよね」
「ああ。橘さん、この人がそうだよ。こう見えても子ゴリラより強いから気をつけて。痛っ!」

晶の蹴りが飛んできたが、いつものことなので気にしない。


53 名前:クラッキちゅう[] 投稿日:2007/08/07(火) 02:59:50.98 ID:U4SatLEf0

「あ、橘笑顔(たちばな にこ)と言います。あの、ちょっとお話したいなと思いまして、その、ご迷惑でないのなら……」
「全っ然大丈夫! これのことなら気にしないで」
「ちょ、ちょっとそれは酷いんじゃないかなー晶さん。仮にも初めての男をこれ扱いぐふぅっう!!」

晶のひじ鉄が健一の顔面にヒットしたが、これもいつものことなので気にしない。

「じゃあ俺は教室に戻るから」

親切なクラスメイトキャラとしてニコに定着させることが出来たので、ひとまず合格としてこの場は退散しようとした。
だが歩き出そうとした俺の服の袖を掴む者がいた。

54 名前:クラッキ2 終[] 投稿日:2007/08/07(火) 03:01:11.15 ID:U4SatLEf0

「ご、ごめん。周也くんも、一緒に……」

ニコが困った顔で俺を見つめる。
そんな濡れた瞳で頼まれちゃ、プレイボーイとして断る訳にはいかない。
こうして学園最強のカップルと、ちょっと変わり者の転校生との、非日常的な会食が始まった。
言い換えれば美少女二人に囲まれた青空の下での食事(余計なのがもう一人いるが)。
生きていればこんな良いことあるんだから、皆さん希望は捨てないでね。


~to be continued~


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最終更新:2008年09月17日 21:01
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