『クラッキ』5

72 名前: クラッキ5 投稿日: 2007/09/03(月) 03:09:39.36 ID:eZr+jmiI0

周也へ。
俺は最低の兄貴だと思う。 お前を残して勝手に逝くのだから。



決して俺のようになるんじゃない。 でかい口を叩くようだし、随分と自分勝手な言いぐさなのはわかる。 でも俺と同じ道を辿って欲しくないんだ。

一人の人間を愛する。 そんな当たり前のことが出来なかった俺は、神様から罰を受けたんだ。



ごめんな周也。 お前と共に生きた十四年間。 俺はお前からたくさんのかけがえのないものをもらった。

それなのに俺ときたら、何一つお前にしてやれてない。 俺は最低の卑怯者だ。 でもこれだけは言わせてくれ。






74 名前: クラッキ5 投稿日: 2007/09/03(月) 03:13:33.70 ID:eZr+jmiI0




周也、お前は最高のクラッキだ。

陽平








75 名前: クラッキ5 投稿日: 2007/09/03(月) 03:16:57.30 ID:eZr+jmiI0

飛び交うやじの中、金髪は余裕そうに微笑んでいる。 今俺がこいつに負ければ、俺だけじゃなくニコまでも危ない。

勝てなくてもいい。 何とか隙を作って、ここからニコを逃がすんだ。
「何かたまってるの? もう始まってるよ」
ファイティングポーズをとる俺に対し、金髪は腕をだらんと垂らし、随分と落ち着いていた。

俺はじりじりと相手との距離をつめ、あと一歩の所まで近づいていく。 それでも金髪は、ただ微笑むだけで動かない。
「あ、そうそう」
思い出したように金髪が呟いた瞬間、俺は一足飛びで懐まで飛び込み、顔面に向けて渾身のストレートを放った。 しかし俺のパンチはふわりとかわされてしまった。
「君の名前聞いてなかったね」





76 名前: クラッキ5 投稿日: 2007/09/03(月) 03:20:06.97 ID:eZr+jmiI0

金髪がそう言う間にも、俺はもう片方の手で第二撃を繰り出していた。 今度は体をひねったフックだ。 その攻撃すらも最小限のスウェイバックでかわされた。

まるで空中で揺らめく綿毛だ。 捕まえようとすれば、間一髪で指をすりぬける。
「俺は東高のエース松崎周也だ!」


俺は攻撃の手を休めなかった。
金的狙いの前蹴り。
かわされた。
タックル。
かわされた。
もう一度金的狙い。
かわされた。
ストレートパンチ。
かわされた。
もう一度ストレート。
かわされた。
アッパー。
かわされた。
ハイキック。
かわされたし、おまけに反動でこけて、周りのやつらから笑われた。





77 名前: クラッキ5 投稿日: 2007/09/03(月) 03:24:45.61 ID:eZr+jmiI0

金髪はまだ構えてすらいないというのに、俺の息はもうあがっていた。
「僕はレイジ。周也くん、いいこと教えてあげるよ」
閑散とした第一公園に、透き通った声が響いた。
「なぜいじめが無くならないと思う、なぜ戦争が起こると思う、なぜ人間が不平等なんだと思う?」
「知るか!」
「それはね、人は食う、寝る、セックスをするのと同様に、地位を欲しがる生き物だからなんだ」
「うらあ!」


疲弊しきった体で繰り出したパンチは、またもやふわりとかわされてしまった。 体勢を戻せなかった俺は、そのままもんどりうってこけた。 口の中にじわりと鉄の味が広がる。
「弱者がなぜ存在するか。それは強者が己の地位を認識し、そして踏み台にする為なんだ」
レイジが喋っている間に立ち上がったが、もう満足に立ち向かえる状態では無かった。 レイジはまだ何もしていない。





79 名前: クラッキ5 投稿日: 2007/09/03(月) 03:29:40.97 ID:eZr+jmiI0
「ここから人は何故女体化するかがわかる。いいかい?  人として生まれたからには、種の保存の為生殖行為を行う義務がある。 神が決めた絶対的なルールだ」
俺は息を整え、反撃のチャンスを待った。
「ニコは男であることの義務を果たせなかった、クズだ」
ニコは目に涙を浮かべ、ただ下を俯いている。 俺は体の芯から沸騰するような怒りがこみ上げてくるのを感じた。



「では神はクズを生かして何をさせたいのか? もちろん生殖行為だ。だから」
自分を抑えることは、これ以上は出来なさそうだった。
「僕達がそれを手伝ってあげているだけだよ。君がとやかく言うような事じゃないんだ周也君」
「ごちゃごちゃうるせえ!」
最後の力を振り絞ったダッシュだった。 その勢いのまますました顔にパンチをたたき込んでやるつもりだった。





80 名前: クラッキ5 投稿日: 2007/09/03(月) 03:32:56.94 ID:eZr+jmiI0

「弱者は強者の為に存在し、いつの世も虐げられていた」


拳は空を切り、お返しにとんでもない衝撃を顔に受け、俺は半回転し後ろ向きに倒れた。 後頭部から地面に激突し、視界が歪み強烈な吐き気がした。

後頭部にそっと手をやると血が流れているのがわかった。 逆にパンチを入れられたのだと気付くのに、倒れてから数秒かかった。


「全ての争いは、勝者を満足させる為にある。 正義も悪も言葉でしかない。いつだって力ある者こそが正しいのだから。 さあ、立ちなよ周也君。もっと血を吐いてくれ。骨の砕ける音を聞かせてくれ。 命乞いをしてくれ。痛みに顔を歪ませてくれ。君は今、僕を満足させる為に戦っているのだから」
こいつは完璧にイカれている。 人として大事な部分がまるごとそっくり欠如しているようだ。





81 名前: クラッキ5 投稿日: 2007/09/03(月) 03:36:05.07 ID:eZr+jmiI0
そしてもう一つ確かなことは、俺に勝ち目は全く無いということだ。

だが立ち上がらなくてはいけない。 俺が倒れてはいけない。

こいつを満足させる為じゃない。 守る人がいるから、俺は立ち上がらなくてはいけないんだ。

よろよろと立ち上がる俺を見て、レイジは心底嬉しそうに笑った。
「僕は……」
レイジはそこで言葉を切った。 俺とレイジの間に、周りをかためているガキの一人が吹っ飛んできたからだ。

そのガキは地面に勢いよくバウンドし、近くの草むらに突っ込んだ。 ガキが吹っ飛んできた方向には、夕日を背にした男が仁王立ちしていた。

そいつは正義でも悪でも弱者を虐げる強者でもない。 俺の親友で、世界で最も頼りになる男だった。





82 名前: クラッキ5 投稿日: 2007/09/03(月) 03:38:57.31 ID:eZr+jmiI0

「君、ダレ?」
レイジの問いに男は声を張り上げて言った。
「しらねえのか? 俺はな、リーサルウェポン……健一だ!」
「ダサッ!」
「だせえ!」
「だせえけどこいつ強いぞ!」


周りのガキ共が慌てだしたが、レイジだけは無表情で健一を見ていた。
「健一くん! 逃げて!」
ニコは泣きはらした目でそう訴えたが、健一は親指を立て「大丈夫だ」とだけ言った。 ちらっと俺の方にも目を向けウインクをする余裕ぶり。

俺はさっきまでの絶望的な状況が一気に覆ったことに安堵していた。 事前にメールを送っておいて本当に助かった。 しかし同時に、自分の無力さをありありと見せつけられたようでもあった。





83 名前: クラッキ5終 投稿日: 2007/09/03(月) 03:40:08.81 ID:eZr+jmiI0

いや、俺は俺に出来ることをすべきなんだ。


皆が健一に気を取られている隙に、ニコの傍に近づく。 健一が戦っている最中にニコを人質に取られないようにする為である。
レイジならやりかねない。
そっとレイジの様子を伺うと、先ほどと同じ姿勢でじっと健一の方を見ていた。 顔はやはり無表情だったが、その目に宿る不気味な光が、何か気がかりだった。

~to be continued~


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最終更新:2008年09月17日 21:02
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