『クラッキ』7

106 名前: クラッキ7 投稿日: 2007/09/06(木) 03:25:00.56 ID:qkkRIpP20
クラッキ7

翌日、ニコは学校を休んだ。 誰もいない隣の席を見ると、昨日のニコの言葉を思い出してしまい、心が沈んだ。


昼休み、屋上で健一とあった。 でかい絆創膏が顔にはってあり、俺の顔の絆創膏とペアルックだなと言うと、苦笑した。


「あんた達、昨日何があったの? 喧嘩したの?」
健一の隣に座っている晶が、俺に聞いてきた。 あまり事情を知らない健一の為にも、昨日のこと、そしてニコのことを洗いざらい話した。

話が終わると、晶も健一も絶句していた。
「許せない……そんなの許せないよ……」
握りしめた手から、晶の怒りが伝わった。
「こうなったら、私が毎日ボディガードになるよ。あの子、放っておいたら、やばいかもしれない」
俺も付き合うよ、と言いかけた時、健一が口を開いた。
「やめとけ、晶」
「……なんで」

健一に却下されたことで、晶はあからさまに不満そうだった。




107 名前: クラッキ7 投稿日: 2007/09/06(木) 03:25:54.57 ID:qkkRIpP20
「危ないからだよ」


いつもの飄々とした態度と比べると、今日の健一は妙に落ち着いていた。
「だからって、ニコを放っておけないよ。あんなに良い子なのに……」
「それにな、晶……よく聞け」

健一の真剣な顔に、晶はそれ以上何も言えなかった。


「いいか、俺たちがいくら守っても、ニコ自身に戦う気が無いなら無駄なんだよ。  人間、最後は結局一人だ。支えてやるのは構わんが、歩くのはそいつだ」
俺も晶も、言い返す言葉が無かった。
「松崎。ニコを支えてやるのはお前だ。俺でも晶でも無い。お前だ」
「ど、どうして」

急に自分の名前が出てきて、焦りながらも聞き返した。


「自分で答えを見つけろ。お前もニコも、ちーっとお子様だ。  そろそろ成長しなきゃいけない時期だろうしな」
俺が、ニコを支える。 兄貴を見捨てた、俺が……。





108 名前: クラッキ7 投稿日: 2007/09/06(木) 03:26:32.82 ID:qkkRIpP20
それにしても……。
「健一。お前中学校の頃に口調が戻ってるぞ。昨日の喧嘩、勝ったのか?」
口を突き出し、すねたような顔で健一は言った。
「……負けた」



次の日も、ニコは学校を休んだ。 もう学校にこないのだろうかと心配になったが、その翌日はちゃんと学校へ来ていた。

ニコは女子から人気があった。 ただ席に座っているだけで、ニコの周りには必ず数人の女子が集まってくる。 彼女には人を惹きつける魅力があるのだ。 悪い方向にさえ働かなければ、それは素晴らしい才能である。





109 名前: クラッキ7 投稿日: 2007/09/06(木) 03:27:11.03 ID:qkkRIpP20
隣の席から笑い声があがった。 一際うるさい女子が、恋愛について熱く語っている。 拳を振り上げての大演説を見て、ニコを含めた周りの女子がけらけらと笑う。


ニコはよく笑う。 だが、いつも泣いている。

俺が話しかけると、ちょっと気まずい感じになるが、ニコはちゃんと応えてくれた。 あの日以来、俺とニコは疎遠気味だ。 それでも俺はニコに話しかける。 だが本当に話したいことは、いつも胸の奥に眠っていた。

その日は雨だった。 窓にあたる雨粒が、弾けたりくっついたりして一筋の流れになるのを、俺はぼうっと見ていた。 この日最後の授業は現代国語で、先生の話を真面目に聞いている者は二、三人しかいない。





110 名前: クラッキ7 投稿日: 2007/09/06(木) 03:27:54.09 ID:qkkRIpP20
俺は雨が嫌いだった。 サッカーの練習が筋トレメニューになるからだ。 かといって理由も無くサボる訳にはいかない。


窓から視線を外し、そっとニコの様子をうかがった。 ニコは黒板に書かれたことをちゃんとノートに書き写していた。


そのとき、机の横に下げたニコのカバンの、外側についているポケットが微かに光った。 点滅する緑色の光。 すぐに中に入っている携帯のランプだとわかった。 電話、もしくはメールが来たのだ。


ニコは、気付いていない。


あの日以来体育の時とか、ニコがかばんから離れる隙に、携帯の中を覗いていた。 市子という人物からよく電話があったりメールが来たりしているが、この人物については何も心配する必要が無かった。 おそらくニコの友達だろう。





111 名前: クラッキ7 投稿日: 2007/09/06(木) 03:28:28.30 ID:qkkRIpP20
あの日以来変な奴らからメールが来ていることは無かった。 健一にボコボコにされたのが効いているらしい。 今のは果たして、誰からの着信だろうか。


放課後、携帯を取り出し中を確認するニコの姿を、横目で観察していた。 一瞬ニコの顔が曇ったのを、俺は見逃さなかった。 ニコは携帯をしまい、教室から駆け出していく。



どうやら今日の筋トレには行けそうにないな。 降りしきる雨はさらに激しさを増してきていた。

~to be continued~


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年09月17日 21:03
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。