『ボクと兄さんと兄さんの彼女と』

460 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 19:27:14.31 ID:WK8RQyZb0


恋愛には壁はつきもの。
そうは言っても、ボクの恋の障壁はあまりにも高かった。

その人に恋をしているとはっきり確信したのは、ボクが小学生の時だった。

その人は近所では有名人で、ボクの小学校でもよく話題に上る程だった。
先生を二階から投げ飛ばしたとか、暴走族二十人相手に一人で乱闘したとか……。
そういう噂ばかり立っていて、それだけ聞くととても恐ろしい人という想像をしてしまうと思う。

でもボクは知っているんだ。本当はとても優しい人なんだということを。


461 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投稿
日: 2007/09/09(日) 19:27:50.09 ID:WK8RQyZb0


ボクが不良たちにからまれた時、真っ先に助けてくれたのはあの人だ。
風邪にかかった時、背中におぶってもらい、病院まで送ってもらったこともある。
いつからその人のことを好きだったのか、わからないくらい、大好きだ。

でも、さっきも言ったけど、ボクの恋の障壁はあまりにも高い。


だって、その人はボクの実の兄で、ボクはれっきとした男だから――。



――ボクと兄さんと兄さんの彼女と


462 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 19:30:55.36 ID:WK8RQyZb0


ボクはよく女の子と間違えられる。

髪は結べるくらいあるし、体の線が細く、背が低い。体毛は見えないくらい薄い。
顔はまるっきり女顔で、中学生になって学生服を着るまで、他のクラスだった人にずっと女だと思っていたと言われた。

でも見た目だけじゃなくて、ボクは中身も女だ。


普通の人と違うことは、昔からわかっていた。

ボクは女の人からよくモテて、告白された回数は両手で数えられない程であった。
もちろんそれらは全て断った。友達ならいざ知らず、恋人は絶対男だと思っている。

ざらざらの肌、かちこちの筋肉質の腕で、ぎゅっと抱きしめて欲しい。
汗の匂いや、ヒゲのそり跡まで、何から何まで魅力的に見えた。


463 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 19:33:24.55 ID:WK8RQyZb0


何の因果か、さっきも言ったけどボクは女の人にモテる。
年上の女性から何度か童貞を奪われそうになったこともある。

その度にボクは全力で逃げ出して、今の今まで童貞を守ってきた。
それもこれも、十七歳で女体化する為だ。
ボクが女になれば、壁を一つ乗り越えたことになる。


自己紹介をしてなかったね。ボクの名前は桂木葵(かつらぎ あおい)。
今年十五歳になる、中学三年生だ。

ボクが恋している相手、ボクの兄さんの名前は桂木健一(かつらぎ けんいち)。
高校二年生で、今は家を離れて一人暮らしをしている。歳はもう十七歳だ。


464 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 19:35:10.93 ID:WK8RQyZb0


兄さんが女体化してしまうのではないかと少し心配だったけど、誕生日の日に電話すると、ちゃんと男の兄さんが電話口に出て、ほっとした。
兄さんは女の人にモテないらしい。何かある度にいつもボクが羨ましいとぼやいていた。

世の中の女は人を見る目が無い。でもボクに取っては好都合だ。


ボクが女体化するまであと二年。世の中には十五歳とか十六歳で早期女体化する人もいるけど、確率は限りなく低い。
とりあえず十七歳で女体化することを目指して、ボクは今密かに女を磨いている最中である。

休日には女物の服を着たり、セーラー服のコスプレで街を歩いたりしている。
今まで幾度となくナンパされた。それは傍目には女の子に見えているということだ。上出来上出来。


465 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 19:37:40.07 ID:WK8RQyZb0


でもこうやってあと二年もの間、待つことなんてボクには出来なかった。
今すぐ兄さんに抱きしめて欲しい。キスして欲しい。その後だって……シテ欲しい。


夢に出てきた兄さんと、口では言えないようなことをしてしまったこともある。
日に日に兄さんへの想いはつのっていくばかりだ。


ボクはもう、限界だった。


466 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 19:39:19.26 ID:WK8RQyZb0


ある日の平日、学校へ行くフリをして家を出たボクは、近くの公園にある女子トイレの中へと入った。
うざったい男物の学生服を脱ぎ、友達のお姉さんから借りたセーラー服に着替える。
これは兄さんの学校のセーラーと同じものだ。これで学校に潜り込むことが出来るはずだ。

前髪を髪留めして、ワックスをつかってボリュームを出す。こうするだけでボブヘアがぐっと女の子らしくなる。
トイレの鏡を使って、化粧ポーチを取り出し、最期の仕上げに入った。


十分後、ボクは見事な変身を遂げることが出来た。どこからどう見ても、女の子だ。
これなら兄さんはボクに振り向いてくれるかもしれない。
いや、ひょっとすると凄い展開になったりして……。


467 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 19:41:03.49 ID:WK8RQyZb0


※妄想です。

あ、葵……! どうしてここにいるんだ! それにその格好……。
健一兄さん! ボク、どうしても貴方に会いたかったの!
葵……お前……。(健一、ぎゅっと葵を抱きしめる)
兄さん……。(葵、濡れた瞳で健一を見上げる)
(二人の視線がぶつかる。目を閉じる葵。健一は葵に優しくキスをする)
大好きだよ……兄さん……。
俺も……大好きだ……。


469 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 19:42:43.90 ID:WK8RQyZb0


……何考えてんだボクは。でも本当にそんなことになっちゃったら……。
自然と顔がにやけてしまう。ありえないと思いつつも、期待してしまう。

この時まだボクは浮かれていた。この後、世界がひっくり返る程の事件が起ころうとは知らずに。
時刻はまだ朝の八時半。今から駅に行き電車で行けば昼休みの時間には兄さんのいる高校へつく。

高揚感でスキップでもしたい気分だったが、それを抑えて、駆け足で駅へと急いだ。



470 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 19:44:38.47 ID:WK8RQyZb0


兄さんの学校に着いたボクは、一目に知られず中に入れるルートを探った。
学校をぐるりと一周すると、弓道場のフェンスが破れているのを発見した。
誰にも見られないようにそっと中へ侵入する。しかし……。


「あれ、女の子がいるー」
「うわ、マジだ」


まずい、見つかった。弓道場の死角になっているところに、数人の高校生たちがたむろしていた。
全員タバコを吸っている。やばい、見るからに柄が悪い。


474 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 20:03:08.40 ID:WK8RQyZb0


きっとこの人たちは抑圧されたことによるやり場の無い怒りが大人への反抗心を生んだ資本主義の犠牲者なのだろう。

「お、おいおい……無茶苦茶なこと言うな。そんな深く考えてねえよ」
「え……? ボク、声に出してた?」
「ああ。資本主義がどうのこうのってな」


不良たちは持っているタバコを足で踏み消し、ボクの周りに集まってきた。
い、嫌……! 犯される! 兄さんにも抱かれたこと無いのに!

「なあお前、一年生だろ? 良かったらさ、学校サボってカラオケ行かない?」
「カラオケ代くらいおごってやるからさ」


徐々に距離をつめられていく。ボクは胸の前で手を組み、ただ震えることしか出来なかった。
その時だった。


476 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 20:06:41.43 ID:WK8RQyZb0


タッタッタッタ……。

「とお!」
「ふごっ!」


不良たちの一人が突然前のめりに倒れた。
後ろには一人の女――制服からして、この学校の生徒だ――が仁王立ちしていた。


「あんたらねえ、いい加減女の子の扱い覚えたほうがいいよ?」


女は呆れたように言った。この人数の不良たちを目の前にして、怖くは無いのだろうか?


477 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 20:09:43.89 ID:WK8RQyZb0


「あ、晶、てめえ!」
「俺たちのナンパライフを邪魔するとは許さんぞ!」
「俺ら一応お前の先輩なんだから敬語使え! 敬語!」
「いてえよお……アバラいったよこれ……今度こそいった……」
「もう山崎邦生はいいよ……」


不良たちは、晶と呼ばれた女を囲んでいる。この人たち、リンチするつもりだ!


「ひ、卑怯だよ! 女の子相手にそんな人数で……!」


ボクがそう言うと、不良たちは軽く笑って、ぐっと親指を立てた。

「名も知らぬ一年生よ。俺たちの勇姿、忘れないでくれよ」

そう言って不良たちは、一斉に晶に向かって飛び出していった。


479 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 20:11:59.83 ID:WK8RQyZb0


――二分後。


「すいませんでした……猛省しております……」
「よし。許す」


晶は不良たちを軽く一蹴してしまった。
あの細い手足でどうやったらいかつい不良たちを倒せるのだろうか。不思議だ。


「アンタ大丈夫? 変なことされなかった?」

不良たちが足をひきずって退散した後、残っていたボクに向かって晶は言った。

「あ……はい。大丈夫です。ありがとうございました」
「よかった。別の奴がきても私の名前出せば大丈夫だから。私は二年生の晶。んじゃねー」


それだけ言うと晶は颯爽と去っていった。
あんな可愛い顔してヤンキー女だなんて、世の中見た目だけではわからないこともあるものだ。

健一兄さんが、ああいう人にひっかかっていなければ良いけど。
いい人みたいだったけど、ヤンキーは嫌いだもの。


482 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 20:14:42.91 ID:WK8RQyZb0


昼休みの学校の中を、あてもなくうろついた。
兄さんのクラスは二年D組なのだが、どこにその教室があるかわからない。

一学年につきクラスが十個近くあり、校舎はいくつか棟にわかれている。
ボクは複数ある渡り廊下を何度も往復しながら、やっとのことで二年D組にまでたどり着いた。


でもどうしよう。いきなり女の格好、それも学校のセーラー服でやってきた弟を見て、兄さんはどう思うだろうか。
せめて学校の外ならば良いが、不法侵入までしてここまで来てしまった。
やはり学校の外で待ち伏せした方がいいかもしれない。

一度学校から出よう。そう思い、後ろを振り返ったその時だった。

ドンッ

急に振り返ったので、誰かとぶつかってしまった。反動でしりもちをつく。


483 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 20:16:35.90 ID:WK8RQyZb0


「お、すまん」

低い男の声が上から降ってきた。先ほどのこともあり、また柄の悪い生徒かと思い身がすくんだ。
おしりをおさえるボクに手が差し出された。ゆっくりと手を伸ばし、その手につかまる。

「ご、ごめんなさい……」

そう言って顔をあげると……何ということでしょう。
そこにあったのはいかつい顔ではなく、爽やかなイケメンでした(ビフォーアフター風に)。


男なのに綺麗という表現が似合いそうな整った顔は、日焼けしていてとてもセクシーに見えた。
背はそこまで高くないが、体格がよく、引き締まった体は何か運動部に所属していると思われる。

まあ健一兄さんには遠く及ばないが、まだ中学生のボクにはとても大人っぽく素敵に見えた。


484 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 20:17:38.39 ID:WK8RQyZb0


「お前二年生じゃないよな。一年がなんでこんなところにいるんだ?」


突然の質問に、ボクはとっさに健一兄さんの名前を出してしまった。


「健一?」
「そ、そうなんです。健一さんに、用事があったので……」
「ふーん。あいつなら屋上にいるよ。俺も今から行くとこ」

思わぬところから健一兄さんの場所を知ることができた。
もう迷わない。玉砕覚悟でアタックするのみだ!

「すみません。良かったら、ボクも一緒に行っても良いですか?」
「ん、いいよ」

胸の鼓動が高まっていくのを感じた。健一兄さんに会うのは一ヶ月ぶりだ。
しかし女の格好をして、化粧をして会うのはもちろん初めてだ。


ボクのこと、少しでも女として見てくれたらいいケド……。


485 名前: ボクと兄さんと兄さんの彼女と 投稿日: 2007/09/09(日) 20:19:21.41 ID:WK8RQyZb0


次回予告

屋上で運命の出会いを果たす、健一と葵。
しかし健一の横にはあの女の姿があった。
火花を散らす、女と女(?)の戦い。
果たして勝つのはどちらか……!

来週もサービスサービス!


~to be continued~


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最終更新:2008年09月17日 21:06
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