56 名前: まおっこ2 投稿日: 2007/07/30(月) 01:50:49.85 ID:l71Fiq5U0
前回までのあらすじ
千七百歳の誕生日に女体化してしまったジークフリード。 さらにその影響で魔力まで失ってしまった。 一方その頃博打で文無しになってしまった勇者、エルが城に乗り込んできた。 どうするジーク!
57 名前: まおっこ2 投稿日: 2007/07/30(月) 01:51:34.54 ID:l71Fiq5U0
「まずい…今戦えば私の負けは必至だ…」
ジークは今まで感じたことのない絶望感にさいなまれていた。
「今勇者と接触してはまずいです。ここはひとまずジーク様は不在ということにしましょう」
「ぐ…このジークフリードに尻尾を巻いて逃げろというのか」
「仕方有りません。魔力が戻るまではそうするしか…。とりあえず、ジーク様は台座の下の隠し部屋に隠れてください。私が勇者に話をつけてきます」
「……致し方あるまい…」
うなだれるジークに、以前までの威厳は無かった。
58 名前: まおっこ2 投稿日: 2007/07/30(月) 01:52:51.57 ID:l71Fiq5U0
「何処だ魔王ー! 勇者エル・カインズが貴様の首を取りに来たぞー!」
大声を上げながら城を散策するエル。 勇者の金色の髪が、廊下を照らすたいまつによって淡い光を反射していた。
「……誰だ」
廊下の先の暗闇に感じた気配にエルは立ち止まる。 現れたのは、マントに身を隠した赤い毛の魔族、パラディンだった。
「長き苦難の旅、ご苦労であった。しかし申し訳ないが、魔王様は今…」
「うおおおおおお!!!!」
「ちょっ! まっ!」
パラディンの話を遮り、剣を抜いた勇者は飛びかかった。 間一髪で勇者の攻撃を避けたパラディンは、尻餅をついた格好のまま、 両手を挙げて降参のポーズをしている。
59 名前: まおっこ2 投稿日: 2007/07/30(月) 01:54:15.96 ID:l71Fiq5U0
「ストップ! ストップ!」
「臆したか魔王!」
「話を聞け! 私は魔王様ではない!」
「はぁん? じゃあ魔王は何処だ!」
「魔王様は今不在である! お帰りになられるまで、戦いはしばし待たれよ!」
殺気立っているエルは、パラディンの話など聞く耳持たなかった。
「うるせえ! こちとら、切羽つまっとんじゃい! さっさと出てこい魔王ーーー!」
「ま、ま、待って! キャーーー!」
剣を構えたまま突進してくるエルに、パラディンは目を覆った。 しかしエルはパラディンを素通りし、そのまま奥へと向かっていった。
「し…死ぬかと思った……! まずい、あの先は玉座の間!」
パラディンは立ち上がり、急いでエルの後を追った。
61 名前: まおっこ2 投稿日: 2007/07/30(月) 01:56:14.51 ID:l71Fiq5U0
「お、ここは…」
エルが扉を開けた先は、禍々しいオブジェが並ぶ玉座の間だった。 趣味の悪い柄の絨毯が、一直線に奥まで伸びている。
「こりゃあビンゴだな」
エルは絨毯の続く先に向かって、一直線に走っていった。 走り始めて間もなく、部屋の奥の玉座が見えてきた。 いよいよ決戦かと思いきや、玉座には誰も座っていない。
「ちっ、何処行きやがった魔王は…」
「はぁ…はぁ…だから不在だと言ったであろう…」
いつの間にか追いついたパラディンが、肩で息をしながら言った。
「甘いな。俺の冒険で鍛えた勘をなめるな。……ふーむ…この玉座が怪しいとみた!」
(ま、まずい!)
エルは玉座を隅々まで調べ、台座と床が少しだけずれていることを発見した。
63 名前: まおっこ2 [さるが怖いからちょっと休憩とるね] 投稿日: 2007/07/30(月) 01:57:39.10 ID:l71Fiq5U0
「この下に何かあるな!」
「待ってくれ! 魔王様は本当に不在なんだ! 今日はもう帰ってくれ!」
「うるせえ! 帰る場所があったら帰っとるわ!」
「えぇ!?」
エルは巨大な玉座を両手でがっしり掴むと、力任せに持ち上げた。
「な、なんて馬鹿力……」
本来は隠しスイッチで動く仕組みなのだが、エルは強引に玉座を動かしてしまった。 玉座をどけると、下に続く階段が現れた。
「今行くぜ!」
頭をかかえるパラディンをよそに、エルは勢いよく階段を下りていった。
64 名前: まおっこ2 [再開] 投稿日: 2007/07/30(月) 02:01:33.97 ID:l71Fiq5U0
階段を下りた先は、古びた剣や盾などの骨董品が置かれている倉庫だった。 木造の棚が等間隔に並んでいて、広さは畳二十畳程だろうか。 感覚を研ぎ澄ましているエルは、何者かの息づかいを部屋の奥から察知していた。
「遂に会えたな魔王。まさか魔界の王がこんな臆病者だったとは意外だぜ」
逃げられないように慎重に距離をつめる。 部屋の奥に、かすかにうごめくシーツの固まりがあった。 勇者は剣を構え、少しずつ距離をつめる。 剣を持っていない方の手でシーツに手をかけ、意を決してめくった。
「…………あれ?」
勇者の想像とは裏腹に、現れたのは魔族の女だった。 布きれ一枚を体に纏い、膝をかかえて怯えた目で勇者を見上げている。
「あ、あんた誰…?」
65 名前: まおっこ2 投稿日: 2007/07/30(月) 02:02:54.81 ID:l71Fiq5U0
(! しめた、こやつ気付いておらぬ)
魔族の女……女体化したジークフリードは、ここで咄嗟に口から出任せを言って なんとか場を乗り切ろうと決めた。
「わ、私は、山を越え草原を越え谷を越えた先にある国の姫だ。実は、魔王に捕らわれてしまって、ここに捕まっていたのだ」 (我ながら上手い言い訳だ…)
エルは何か考え込むように上を見上げている。 しばらくして言った。
「姫、貴方の名前は?」
「ジークだ」
「ジーク? 確か魔王の名前も…」
「ま、魔界ではよくある名前なのだ」
「ああ、そういうことか。ジーク、とりあえずここから出よう」
エルはジークの手を引っ張って、地下室から出て行った。 唐突なヒロイン(←勇者的視点)の登場にエルは心躍る。 対照的にジークはばれたら殺される恐怖で足が震えていた。
66 名前: まおっこ2 投稿日: 2007/07/30(月) 02:04:16.23 ID:l71Fiq5U0
「…ん? 出てきたか…ええぇえ!?」
玉座の前にいたパラディンは、勇者とジークが手を繋いで穴から出てきたことで 軽いパニックに陥った。 パラディンには何がどうなっているか検討がつかなかった。 そんなパラディンに向かって、勇者は言う。
「おい、魔王はいつ帰ってくるんだ?」
「へ? 魔王様は…」
お前が手を繋いでいるのが魔王様だ、とパラディンは言いたかった。 パラディンがジークの方を向くと、ジークはそっと目配せした。 それでパラディンは大体のことを察知した。
「ま、魔王様はしばらく帰られないかと…」 「どれくらいだ」
「私には検討が…」
何とか勇者に帰ってもらって、ジークの魔力を取り戻す策を見つけたいパラディンであった。 しかしエルはとんでも無いことを言い出した。
67 名前: まおっこ2 終 投稿日: 2007/07/30(月) 02:05:49.45 ID:l71Fiq5U0
「では、魔王が帰ってくるまで、俺はこの城にいよう」
「え?」
「は?」
「今更町に戻るのも面倒だからな(何よりも金が無いし)。ジーク、お前はどうするんだ」
「な、何がだ」
「行く宛はあるのか」
「いや、無いが…」
「では俺と一緒に城にいるんだ。何で魔王に捕まってたか知らないが、遠い国まで俺が送るのも今は出来ん。とりあえず、俺と一緒にいた方が安全だろう」
パラディンはジークが何を言ったか知らないので、口を挟むことが出来なかった。
「それは…確かにそうだが……」
「では決まりだ。おい、お前。俺とジークの部屋と、毎日飯を三食分用意しろよ」
「い、いや、それは…」
「断るというのか…?」
剣が鞘から抜かれる前に、パラディンは泣く泣く了承した。 この日から、勇者と魔王の、奇妙な共同生活が始まった。
~to be continued~
最終更新:2008年09月17日 22:39