『まおっこ』3

35 名前: まおっこ3 投稿日: 2007/07/31(火) 22:30:54.09 ID:yLrknNQV0

前回までのあらすじ

女体化の影響で魔力を失ってしまった魔王ジークフリード。 城に乗り込んできた勇者エルに自分は捕らわれた姫だと言いその場を逃れる。 しかしエルはそのまま城に居座ってしまった。 果たしてジークは自分が魔王なのを隠し通せるのか。 あとパラディンはジークのお目付役の魔族です。





36 名前: まおっこ3 投稿日: 2007/07/31(火) 22:31:40.10 ID:yLrknNQV0



エルは適当に部屋を選び、自分の荷物をそこに置いた。 エルの命令通り、ジークはエルの隣の部屋に寝泊まりすることになった。

(元々私には自分の寝室があるのだぞ…)

ばれると一巻の終わりなので、そんな文句も言えないジークであった。 ジークはエルに見つからないように、まだ頭を抱えているパラディンにそっと囁く。

「すぐに皆の者を集め、今の状況を報告するのだ。あやつに悟られるぬようにな」
「わかりました」

パラディンが廊下の奥へと消えると、ジークは深いため息をつき、新しい自分の部屋へと戻った。





37 名前: まおっこ3 投稿日: 2007/07/31(火) 22:32:43.26 ID:yLrknNQV0


うかつに動けないジークは、部屋のベッドの上で何をする訳でもなく、ただ座っていた。 相変わらず着ているのは布一枚で、布の下は裸だ。 備え付けのクローゼットを覗くと、女物の服があった。 布一枚よりはよっぽど良いので、おずおずと着替え始める。 初めて着けるスカートは意外と着心地が良かったが、何か不安感というか物足りなさを感じた。 着替え終えるとジークは鏡の前で自分の姿を確認した。 やはり、というか当然、鏡に映っているのは魔族の女。 ジークは豊かに膨らむ胸と、華奢な体つきが未だに慣れていない様子だった。 手を広げたり、後ろを向いたりと、いろいろと角度を変えて眺めている内に、猛烈な空腹感を感じてきた。 ジークはその日朝から何も食べていなかった。 死の危機を回避した今、安堵感と共にそれが思い出されたのだ。

「ジーク様、お夕食の準備が整いました」

ドアの外から城のメイドの声が聞こえた。 ドアを開けると、メイドは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに顔を戻し、平常に戻った。 既にパラディンが城の者に根回しして、口裏を合わせたのだろう。 メイドは次にエルの部屋をノックし、同じようにエルを呼び出した。





38 名前: まおっこ3 投稿日: 2007/07/31(火) 22:33:59.29 ID:yLrknNQV0


「まさか魔王の城にメイドがいるとは思わなかったよ」
「ええ、まあ…」
「こんな若い内から働いてるってえらいなー。俺なんか勇者になる前までニートだったし」
「あら、本当ですかそれw あと、私一応千百歳を超えているのですが…」
「そ、そうなんですか…(年齢全くわからねえ…)」

城で食事をする場所は大きく分けて三つある。 一つは城の兵士やメイド等、城で働く者たちが食事をする大礼拝堂。 もう一つは来客用のバンケットホール。 最後が、幹部クラスのみで食事をする最上階のテラス付きダイニングだ。 メイドは、垂直テレポート効果の魔法陣の所まで二人を案内した。

「この上が、ダイニングとなっております」
「魔法陣…初めて見た」
「上に乗るだけで、次の瞬間には最上階! これ高かったんですよ」
「魔法って買えるものなのか?」
「はい。魔法陣は特殊な魔法ですから、ちゃんとしたプロの方にお願いするんですよ」
「へえ…勉強になった」
「ありがとうございます」

和気藹々と話している二人の後ろで、ジークはつまらなそうに腕を組み、壁にもたれていた。 ジークの様子に気付いたメイドは、慌ててエルに魔法陣に乗るように促す。 おそるおそる足を踏み出したエルは、一瞬の内に光の中に消えていった。





39 名前: まおっこ3 投稿日: 2007/07/31(火) 22:35:49.45 ID:yLrknNQV0

エルがいなくなると、ジークはメイドに言った。

「おい、人間と親しげに話すとは、貴様それでも魔族の端くれか」
「も、申し訳ございませんジークフリード様!」

頭を下げるメイドに、ジークは本日何回目となるかわからない深いため息をついた。 顔を上げたメイドは言った。

「ですがジークフリード様、あの者、今まで会った人間とは違った印象を受けました」

魔法陣に進もうとしていたジークは、メイドの言葉に足を止めた。

「…続けろ」
「あ、あの者は、その、上手くは言えませんが、対等に話しているという感じがするのです。種族が違えばいがみ合うのが普通。ですがあの者から敵意や悪意は一切感じられませんでした。それどころかすごく紳士で顔もハンサムだし体つきも…」
「もうよい(どの辺りが紳士なんだ…)」

ジークはメイドが言い終わる前に魔法陣に乗り、光の中に消えていった。

「……勇者エル…不思議な方」

メイドは魔法陣の方向を見つめ、ジークのそれとは種類の違うため息をついた。





40 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 投日: 2007/07/31(火) 22:36:50.85 ID:yLrknNQV0


ダイニングには豪華な長机が中央にあり、その上に食べきれない程の食事が乗っていた。 天井にはシャンデリアがまぶしい程に輝き、開けはなったテラスから夜空が見える。 装飾や絨毯、家具や壁の材質まで高級な物を使っているらしく、エルにとって異世界のようだった。 長机にはパラディンを始め、幹部クラスの者たちが数人、椅子に座って談笑をしていた。 その者たちがエルを見つけると、途端に声が小さくなり談笑はひそひそ話に変わる。 エルが居心地の悪さを感じていると、魔法陣からジークが現れた、

「む、なぜ座らないのだ。椅子は空いているだろう」

立ったままのエルに、ジークはさらっと言ってのけた。

(こ、この子意外と神経図太いな…)

この城の主であるジークにとって、食事の席で遠慮する必要など皆無だ。 ジークの正体を知らないが故に、怖い物知らずの姫というイメージをエルに植え付けることとなった。

「お二方、ここが空いていますよ」

パラディンが二人を呼びつけ、隣の席に座らせた。

「まあ、それでは乾杯といきましょうか」

魔族の内の一人がグラスを掲げ、皆がそれに続く。 食事は静かに始まった。





42 名前: まおっこ3 投稿日: 2007/07/31(火) 22:38:14.97 ID:yLrknNQV0

誰も何も喋らなかった。 下手な事を喋り、ジークの正体がエルにばれることを避けているからだ。 もしもエルがジークの正体に勘付いた場合、神に定められた掟により加勢は出来ない。 魔力を喪失しているジークと勇者のエル。 戦わなくとも勝負は明らかだ。

「それにしても…敵である魔族のまっただ中に居座るとは、対した度胸ですな、勇者殿」

静寂を破ったのは、白いヒゲを生やした年老いた魔族だった。

「うむ…いつ寝首をかかれるやもしれんというのに…クク…」

エルの対面に座っている大柄な魔族が、エルを挑発するような目つきで言った。

「それにしても、人間の代表者にしては、何だか弱そうねえ…」
「これなら私らでもすぐに始末できそうですなあ…ゲゲッ…」


妖しい色香を放つ女魔族と、張り付いたような笑い顔の魔族がそれに続く。 魔王以外の者がエルと戦ってはいけないので、これらは単なる脅しだ。 しかしエルは挑発に乗ることなく、黙々と食事を続けていた。





43 名前: まおっこ3 投稿日: 2007/07/31(火) 22:40:02.47 ID:yLrknNQV0

エルの様子に、魔族の内の一人が苛立つように言った。

「勇者さんよお、俺と勝負しねえか」 「おい、貴様掟を破る気か!」
「安心しろよパラディン、殺しゃしねえから」
「そういう問題では…」

止めに入るパラディンをよそに、エルはまだ食事を続けていた。

「……なああんた、話聞いてるか?」

食事が始まってからずっと手を休めないエルに、魔族は不思議そうに聞いた。 ようやく顔を上げたエルは、間の抜けた声で

「ふぁ、ふまんきいへなかった(あ、すまん聞いてなかった)」

と言った。

「て、てめええナメてんのかあ!」

椅子から立ち上がりエルに突進していく魔族。 迫り来る巨体に動じず、エルは小皿を抱え、魔族の突進からひょいと身を躱した。





44 名前: まおっこ3 投稿日: 2007/07/31(火) 22:43:09.37 ID:yLrknNQV0


「あふれえなあ。ふぁらをひっふりはへふほほろらったほ(危ねえなあ。皿をひっくり返す所だったぞ)」
「やめろ! 落ち着けタナトス!」

タナトスと呼ばれた大柄な魔族は、パラディンが止めても収まる様子は無く、再びエルに向かって突進していった。

「仕方ねえな」

エルは小皿をテーブルの上に置くと、突進してくるタナトスの方を向き構えに入った。 タナトスがエルにぶつかったと思われた瞬間、背負い投げの要領で地面に投げ飛ばされていた。 地面に大きなヒビが入り、衝撃でテーブルの上の料理がひっくり返る。 タナトスは何をされたかわかっていない様子で、ぽかんとした顔で仰向けになったまま動かなかった。

「な、投げ飛ばした…? 五百キロ以上あるタナトスを…?」
「化け物だこいつ…」

先ほど散々エルを小馬鹿にしていた魔族たちが、一転して戦々恐々とし始めた。 ジークとパラディンなど、お互い抱き合って震えている程だ。





45 名前: まおっこ3 投稿日: 2007/07/31(火) 22:43:52.67 ID:yLrknNQV0

(何だあやつは…! 本当に人間か!?)
(わかりません…今まで会った人間とは全く違うタイプと思われますが…)
(それはそうだ! 元々人間というのは群れをなして力を発揮するものだろう!)
(わ、私もそのように存じていましたが…)

ジークは改めて死の危険を感じ始めた。 エルはばつが悪そうに、仰向けになっているタナトスに手を差し出した。

「悪かったな、えーと…」
「タナトスだ」

差し出された手をはねのけ、タナトスは立ち上がった。

「…この名前、地獄に行っても覚えてろよ」
「…自信無いな。人の名前を覚えるのは苦手でね」

険悪なムードに、他の魔族たちはただおろおろとするばかりだった。 パラディンの一声でその日の食事は解散となり、各自ダイニングを後にした。





46 名前: まおっこ3 [次回予告もあるのよん] 投稿日: 2007/07/31(火) 22:45:26.52 ID:yLrknNQV0


真夜中の城内で、息を殺し廊下を歩く者が居た。 手には鋭い短刀が握られている。 腰まで伸びた鮮やかな銀髪が、窓から差す月光を反射してきらきらと輝く。 足音を消して歩いていたので、廊下にはスカートの衣擦れの音だけが囁くように響いていた。 ジークはエルの部屋の前で立ち止まり、耳を当てて中の様子を探り始めた。 ジークは先の夕食の席である決心を決めていたのだ。 今日、エルを殺すと。

~to be continued~





47 名前: まおっこ3 終 投稿日: 2007/07/31(火) 22:47:14.94 ID:yLrknNQV0

次回予告
(な、何をするのだ…! 離せこのうつけ者が! やめっ、変な所を触るなっ…あぅ…!)

果たしてジークに何が起こったのか! 次回投下も、サービスサービスぅ


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最終更新:2008年09月17日 22:40
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