『まおっこ』4

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 04:14:13.06 ID:fOQi8UT80

廊下を照らす淡いたいまつの光が揺れる度に、ジークの影が不安そうに揺らめいた。
ジークは耳をドアに押し当てると、魔族特有の鋭い聴力で微かな呼吸を感じ取る。
音がしないようにそっとドアを開け、目を凝らし中の様子を探った。ベッドに寝ているエルを見つけると、ジークは足音を立てないように、そっと部屋の中へと侵入。
エルは心地よさそうな寝息を立て、シーツもかけずにベッドの上で大の字で寝ていた。
ジークはベッドの傍でエルの眠りが深くなるのを待ち続けた。


「……」


三十分程経っただろうか。
深呼吸をして落ち着かせると、ジークは懐から震える手で短刀を取りだした。
ジークは逆手に持った短刀を、無言で振り上げた。





87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 04:19:38.73 ID:fOQi8UT80

(……死ね!)


勢いよく振り下ろされる腕。
飛び散る鮮血がジークの顔に跳ね返り、声を上げる間もなくエルは絶命……するはずだった。


ズドッ


振り下ろされた短刀は、エルの寝返りによって躱されてしまった。
敷かれたシーツを貫き、短刀は木のベッドに深く突き刺さっている


(ま、まずい…気付かれたか…!)


ジークは慌ててエルの様子を伺うが、エルはすやすやと眠っていて、気付いている様子は無い。
安堵したジークは、もう一度寝返りを打たれる前に急いでベッドに突き刺さった短刀を引き抜いた。





88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 04:25:24.99 ID:fOQi8UT80

(今度は…外さぬ!)


エルの心臓に焦点を当て、再び短刀を振り下ろす。
しかし短刀がエルに届く直前、ジークの腕ががしっと捕まれ、反動で短刀がベッドの向こう側に飛んでいってしまった。


(き、気付かれた…!)


流石にこの状況をごまかせる言い訳など無い。
心臓の鼓動は破裂寸前のスピードだった。
終わった、とジークは思った。
しかしジークの腕を掴んだまま、エルは動かなかった。


(……え)


寝ていた。
がっしりと捕まれた手首は、痛いほど力が入っていたにもかかわらず、エルはまだ寝ていたのだ。





90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 04:29:50.92 ID:fOQi8UT80

(に、逃げよう…!)


震える手でエルの手を引き離そうとするが、女になったジークの力ではびくともしなかった。
短刀はベッドから少し離れた場所に落ちてしまったので、今更拾うことも出来ない。
どうしようか途方に暮れているとき、エルは再び寝返りを打った。


(ぐ、まずい!)


寝返りを打ったひょうしに、ジークはエルに巻き込まれるようにベッドに引きずり込まれた。
それだけでは収まらずエルの足がジークに絡みつき、両腕で上半身をがっちりホールドされた。
その姿はさながら、エルが人型(魔族型?)の抱き枕を抱いているようだった。


「う…ん……エミリー…Zz…」


寝言を言いながら、ジークの体をさするエル。
腰やお尻をなで回されたジークは、声が漏れそうになるのを慌てて口を押さえて耐えた。





91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 04:30:25.73 ID:fOQi8UT80

「エミリ……またこんなに汚れて…Zz…」
(触るな無礼者! 私はエミリーではない!)


ジークの心の声が届くはずもなく、寝ぼけているエルはジークの体をなで回すように触り続けた。
ちなみにエミリーはエルが飼っている猫のことだ。


(な、何をするのだ…! 離せこのうつけ者が! やめっ、変な所を触るなっ…あぅ…!)


エルはジークのあんなとこやこんなとこを、揉んだりさすったりつまんだり掻いたり……。
ジークは顔を真っ赤にしてこの恥辱に耐え、なんとか声を出さずに頑張っていた。





93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 04:43:33.03 ID:fOQi8UT80

しばらく耐え続けていると、エルは再び深い眠りへと落ちていった。
しかしジークはからまった手足のせいで、エルから離れることが出来ない。
何度かもぞもぞと動いている内に、いつの間にかエルの上にジークが覆い被さっている形になった。
からみついた腕を丁寧に外していき、なんとか上半身を起こすことに成功する。
しかしがっしりと捕まれた手首は依然外れそうにない。
このときジークはまだ気付いていなかった。
自分の体勢が体位の一つである、あの形になっていることを。





95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 04:48:43.62 ID:fOQi8UT80

からみついた足はどうにも外れそうにない。
腰を左右に動かすが、がっちりと極められていてほとんど動かない。
ここでジークは、腰を上下に動かすことを思いついた。
お尻を持ち上げ、持ち上げた瞬間からまった足を動かす。
そうすることで、非常に少しずつだが足のもつれを解くことが出来そうだった。
お尻を持ち上げ、おろす。
お尻を持ち上げ、おろす。
お尻を持ち上げ、おろす。
動かす度に、ベッドはぎしぎしと音を立てた。





96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 04:50:26.29 ID:fOQi8UT80

暗い廊下を歩く、一人の者がいた。
頭からフードを被り、ローブで体を隠している赤毛の魔族。
魔王軍の参謀であり、ジークの付き人でもある魔族、パラディンだった。
ジークのことが心配になり、こっそり様子を見ようと部屋を訪ねている所だった。
エルのいる部屋を通り過ぎ、ジークの部屋の前まで行き、ドアをそっとノックする。
返事は無かった。
小声でジークの名を呼ぶが、それでも返事は無い。


(もう寝てしまったのか……?)


心配性なパラディンは部屋のドアを開け、そっと中の様子を探った。
ジークはおらず、部屋はもぬけの空だった。





97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 04:54:44.48 ID:fOQi8UT80

ジークに何かあったのかと、慌てて来た道を帰ろうとしたとき、エルの部屋から何か物音がした。
ぎし、ぎしとリズミカルな音が絶え間なく部屋から漏れている。
少しだけ部屋のドアが開いていたので、パラディンはその隙間から中を覗いた。
パラディンが見たものは…


ぎし…ぎし…ぎし…。


「……! …!?!!???」


エルの上で懸命に腰を振る、魔王ジークの姿だった。





98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 04:57:08.41 ID:fOQi8UT80

そこで問題だ! この状況を見たパラディンが起こしたリアクションは?


3択―ひとつだけ選びなさい


答え①冷静、かつ的確な状況判断によりジークを助ける。
答え②見なかったことにしてそっとドアを閉める。
答え③絶叫する。現実は非常である。


答え ―③ 答え③ 答え③


「貴様何をしとるかぁぁああぁあ※☆∀≒℃%◎edcftl;:drftgy!!!!」


城中に聞こえるかのような絶叫が響き渡る。





99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 05:00:10.82 ID:fOQi8UT80

「パ、パラディン!」


わなわなと肩を震わすパラディンは、赤髪が逆立ち天をつくようだった。
流石のエルもその絶叫で目を覚ます。


「な、何だ! あれ、ジーク、何してんだそんなとこで…」
「私の台詞だーーーーー!!!!」


怒り狂ったパラディンの跳び蹴りが、ベッドの上のエルを吹っ飛ばした。


「痛っ! 何すんだよ!」
「黙れ不埒者が! ジーク様を手籠めにするとは貴様八つ裂きにしてくれるわ!」
「お、おい、落ち着け…何かの間違いだ…」
「消滅しろゴミクズがぁぁああああああ!!!!」


部屋の物を手当たり次第に投げつけ、終いにはベッドを投げ飛ばしたパラディン。
もうやめて、エルのライフは0よ! だった。





100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/08/05(日) 05:03:24.21 ID:fOQi8UT80

「お、お前タナトスとかいう奴よりよっぽど強いぞ……」


もはや粗大ゴミと化した家具の山に埋められたエルは、息も絶え絶えかろうじて生きている感じだ。


「ジーク様! さっさとここから出ますよ!」
「は、はい」


手を引かれ強引に部屋から連れ出されるジーク。
一人残されたエルは、ゴミの山の下でただ唖然とするしか出来なかった。


「な、なんで俺がこんな目に…というかなんであいつジークのことで起こるんだよ…」


エルはジークのことを捕らわれた姫だと思っているので、パラディンの怒りの理由をわかっていなかった。
なぜジークが部屋にいたのかもエルにとっては謎だ。
哀れ勇者エルは傷ついた体で部屋の掃除をするはめとなった。


「ん?」





101 名前:終[] 投稿日:2007/08/05(日) 05:07:16.35 ID:fOQi8UT80
ぶつぶつと文句を言いながら部屋を片付けていたとき、床に短刀が落ちているのを見つけた。
手に取り首をかしげるエル。


「……まいっか」


その時エルに少しでも物事を考える余裕があれば核心に辿りついた可能性もあったのだが、残念なことにそんな余裕などあるはずもなく。
エルは短刀を皮の布で包み、自分の荷物と一緒に置いた。
ひっくり返されたベッドを元に戻し、その上に転がると、睡魔は鮮やかなスピードでエルの意識を刈り取っていった。
その後エルが見た夢にジークが現れ、あんなことやこんなことを夢の中でしたのだが、それはエルだけの秘密となった。


「次は殺される。間違いなく殺される」


エルの中でパラディンは第一級危険人物にめでたく認定された。


~to be continued~


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最終更新:2008年09月17日 22:40
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