『まおっこ』10

658 名前: まおっこ10 投稿日: 2007/09/14(金) 14:59:23.85 ID:0voUOeh/0

あらすじ
ギガツヨース襲来。一同、てんやわんや。


キャラクター紹介
【ジークフリード】
魔王。女体化。魔力喪失の呪い。勇者エルに自分は囚われの姫と嘘をつく。
現在呪いを解く為嘆きの森でタナトスと行動中。

【エル・カインズ】
勇者。現在嘆きの森でパラディンと行動中。ギガツヨースと戦闘中。

【パラディン】
魔王軍参謀。現在嘆きの森でエルと行動中。ギガツヨースと戦闘中。

【タナトス】
騎兵隊総大将。現在嘆きの森でジークと行動中。

【リリージョ】
嘆きの森の魔女。呪いに精通している。本編にはまだ未登場。


――まおっこ10

659 名前: まおっこ10 投稿日: 2007/09/14(金) 15:02:11.43 ID:0voUOeh/0

「来るぞ!」
「爪に気をつけろ!」


嘆きの森、一日目。
突然のギガツヨース襲来により、ジーク隊、パラディン隊に分かれ行動することになった。
パラディン隊がギガを食い止める間、ジーク隊が先に向かうという作戦である。

いや、これは作戦とは呼べないかもしれない。
魔界最強の種族、ツヨース族と戦う選択肢など、本来存在しないからだ。


「ぎゃあああ!」
「くっ! かたまるな! 一気にやられるぞ!」


ギガツヨースは超巨大な蜘蛛のような怪物である。
蜘蛛と違うのは足の数が二十本以上あるという点だ。
足の爪一つで牛の大きさを軽く超えており、その爪から繰り出される攻撃は俊敏、かつ的確だ
660 名前: まおっこ10 投稿日: 2007/09/14(金) 15:03:55.63 ID:0voUOeh/0

「……くそ!」


ギガの攻撃でやられていく兵士たちを、パラディンはただ見ていることしか出来なかった。
パラディンは魔族だが、生まれた時から一切魔法が使えない。
戦闘が出来ないからこそ、寝る間を惜しんで兵法を学び、現在の魔王軍参謀という地位まで上り詰めた。

全ては魔王、ジークフリードの為。
ただ今は、戦えない自分がとても悔しかった。


『グルル……』
「……しまっ」

無数にあるギガの目の一つが、パラディンを捕らえた。
その瞬間鋭い爪がパラディンの脳天目掛けて振り下ろされる。
戦えないパラディンにとって、その攻撃は避けることも防ぐことも、不可能。

パラディンが死を覚悟した、その時だった。

661 名前: まおっこ10 投稿日: 2007/09/14(金) 15:06:53.56 ID:0voUOeh/0


「危ねえ!」

エルがパラディンを抱きかかえるようにして横から飛び出した。
巨大な爪が二人の頭上をかすめとり、先ほどまでパラディンがいた場所に大穴が出来た。
ギガの爪はパラディンのフードにかすっており、布製のフードがはじけ飛び宙に舞った。


「す、すまない勇者殿……」

人間に命を助けられる。それはパラディンにとって、耐え難い屈辱だった。
何よりも嫌悪しているのは、自分がエルに心から感謝していること。

人間に心を傾けるというのは、自分が魂の忠誠を誓った
魔王ジークへの裏切りに相当すると、パラディンは考えている。


662 名前: まおっこ10 投稿日: 2007/09/14(金) 15:09:09.70 ID:0voUOeh/0

エルはその時全く別のことを考えていた。
いつもフードで顔を隠し、その素顔を今の今まで一度も見たことが無かった。
仰々しいしゃべり方と雰囲気で、ずっと男だとエルは思っていた。

フードが無くなり、中から出てきた顔は、精悍な顔立ちをした女だった。


パラディンは、女だったのだ。


「勇者殿。助けてもらって申し訳ないのですが、どうやらもう私たちだけのようです」

深紅の長髪を揺らしながら、パラディンは悟ったように言う。
先ほど攻撃をかわした際、足を傷つけたのか、片足を引きずっていた。


(怪我したパラディンを守りながらこいつと戦う……はは、こりゃあ終わりだ)


『グオオオオ! グオオオオオオオオオオオ!』

猛々しく吠えるギガを目の前に、二人は逃げる気すら無くし、ただその場に立ちつくし死を待っていた。

663 名前: まおっこ10 投稿日: 2007/09/14(金) 15:11:51.14 ID:0voUOeh/0

パラディンは死を畏れてはいなかった。ただジークのことが気がかりだった。
エルは死を畏れてはいなかった。ただ自分の使命を果たせないことを悔やんでいた。

しかし運命は彼らを見捨ててはいなかった。

『……グル……? ググ……!』

「な、なんだ? 何が起こっているんだ?」

突然何かに怯え始めるギガ。
無数にある目を四方八方に動かし、何かを探ろうとしているように見える。

その後ギガは方向転換すると、とどめを刺すこともせず全速力で逃げ出してしまった。
残された二人は自分たちが生きていることを喜ぶこともせず、ただ呆然としていた。


664 名前: まおっこ10 投稿日: 2007/09/14(金) 15:15:22.89 ID:0voUOeh/0


「さっきの何だったんだろうな」


パラディンを背中に背負い、エルはジークたちの待つ湖を目指していた。
負傷したパラディンの足は思ったより酷く、渋々パラディンはエルに背負ってもらっていた。

「自分よりも弱い者にしか魔獣は襲いかかりません。
 つまりあの場にギガよりも強い何かが迫っていたということでしょう」


ギガよりも強い魔獣。それはやつしかいない。
魔獣、テラツヨース。その存在は今なお謎に包まれている。

「まあ、助かったんだから何でもいいんだけどな。ところで、その……」

エルは言葉をつまらせた。何が言いたいかパラディンはわかっていた。


「私が女だったのが、そんなに意外でしたか?」
「ああ、驚いた。それもそんな美人だったなんてな」

魔王軍の中でもパラディンの素顔を知るのは魔王ジークだけである。
パラディンは普段言われることのないその誉め言葉に、自分の顔が赤くなったのがわかった。

665 名前: まおっこ10 投稿日: 2007/09/14(金) 15:17:11.10 ID:0voUOeh/0

「なんで顔を隠すんだ? 隠すような顔じゃないぞ」
「……魔王様の付き人としてお側に仕える者が、女だと色々と不都合なことが多いからです。
 男尊女卑は地上にもあるでしょう」
「……ふーん、そんなもんか」


(……誤魔化せただろうか……人間相手に少し喋り過ぎたか)

命を助けられ、素顔を誉められ、背中に背負ってもらっている。
パラディンは憎しみという感情しか沸かなかった人間相手に、自分の心が
少しずつ揺らぎ始めているのを感じた。

パラディンは邪念を振り払うようにぐっと歯を噛みしめたが、
それでもエルの背中の暖かさに、心を乱されていくばかりだった。


~to be continued...if fate kisses them~


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最終更新:2008年09月17日 22:44
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