607 名前: スパンキーと片耳の猫 投稿日: 2007/09/29(土) 01:33:31.14 ID:kkiMNyt70
子猫のスパンキーはメスになってもいつもと変わらない日常を送っています。
いつもの路地裏、いつもの湿気、いつもの日陰、いつものゴミ。
そして、今月もいつもの集会が始まります。
この辺り一帯のボスである黒猫、クレイヴが仕切っている猫の集会です。
「憂うつだにゃ」
スパンキーは猫の集会が嫌いでした。
体の小さいスパンキーは猫の集まるところにいくといつも誰かから
意地悪されるからです。でもクレイヴが怖いので、いつも嫌々行っています。
ぼくも体が大きかったらなあと、スパンキーは心の中でぼやきました。
三日月が煌々と輝く夜空の下、猫の集会が始まりました。
空き地の土管の上で、大柄な黒猫、クレイヴが周りを見渡しています。
「全員集まったか」
クレイヴが低いうなるような声で、手下の猫たちに言いました。
手下の猫たちは二、三言言葉を交わすと、おそるおそるクレイヴに言いました。
「例の片耳の野郎が来てません……」
「なに?」
クレイヴは歯をむき出しにして怒りを露わにしています。
608 名前: スパンキーと片耳の猫 投稿日: 2007/09/29(土) 01:34:26.72 ID:kkiMNyt70
「クレイヴのダンナ、そのことでちょっとお話が」
クレイヴの前に三匹の猫が、他の猫たちをかき分けて近寄ってきました。
「何だてめえらは」
すごみをきかせるクレイヴに多少たじろぎながらも、三匹は名乗りました。
「大神のビリーです」
「同じく、ジェリーです」
「同じく、トニーです」
クレイヴは顔を上げて、思い出したように呟きました。
「てめえらザシキのやつらか」
ザシキ、とは座敷猫のことで、三匹は大神さんちで飼われている猫、ということです。
「へい。片耳のことでちょっと……」
ビリーがクレイヴの耳元に近づき、そっと何かを伝えました。
目を見開いたクレイヴは、低いうなり声で空き地全体に聞こえるように言いました。
「スパンキーはいるか。いるなら前に出てこい」
その一声で、スパンキーの周りにいる猫がさっと後ろに引きました。
逃げようにも逃げられないスパンキーは、重い足取りでクレイヴの前まで歩いて来ます。
609 名前: スパンキーと片耳の猫 投稿日: 2007/09/29(土) 01:36:00.23 ID:kkiMNyt70
「ぼくに何のご用ですにゃ……」
クレイヴの冷たい視線に、スパンキーは顔を上げることが出来ませんでした。
「ここにいるザシキたちが、片耳にやられたと聞いた。
答えろ。お前は片耳の仲間か?」
スパンキーは近くでニヤニヤ笑っているザシキたちを見ました。
それは、数日前スパンキーを襲った三匹でした。
「ぼぼ、ぼくは何も知らないですにゃ」
「嘘だったらかみ殺すぞ」
低いうなり声が土管の上から降りかかります。スパンキーは必死に答えました。
「ほ、本当に知らないですにゃ。かみさまに誓いますにゃ」
クレイヴはスパンキーを真っ直ぐ見据えて、ため息と一緒に言いました。
「わかった。信じよう。ところで……」
「何ですにゃ?」
「お前メスだったのか。どうだ、俺と一発やらねえか」
スパンキーは顔を赤くして俯きました。
クレイヴの取り巻きのメス猫たちがスパンキーを睨み付けます。
「え、遠慮しますにゃ……」
「そうか。下がって良いぞ」
とぼとぼとクレイヴの前から去っていくスパンキーを見て、ザシキのジミーたちはチッと舌打ちをしました。
611 名前: スパンキーと片耳の猫 投稿日: 2007/09/29(土) 01:36:59.20 ID:kkiMNyt70
その日の集会は、えさ場のことを話し合っただけで終わりました。
集会が終わった後、スパンキーはいつものねぐらには帰らず、ある場所へと向かいました。
それは近くにある小さな酒屋です。
家の構造から、簡単に屋根の上に上れるので、子猫のスパンキーは
夜空を見るときいつもその酒屋の屋根に上がるのです。
スパンキーがするすると屋根まで上ると、既に一匹の猫がそこにいました。
いつもは誰もいないはずの酒屋の屋根。
それも、集会が終わって誰よりも早くたどり着いたはずのスパンキーよりも、早く来ていた者。
「……ん? てめえは……」
月光に浮かび上がったシルエットは、右耳がちぎれた猫の姿でした。
続く
最終更新:2008年09月17日 22:54