150 名前: スパンキーと片耳の猫 投稿日: 2007/10/07(日) 00:43:50.22 ID:8T++Fwu10
ある日子猫のスパンキーは、座敷猫を尋ねてとある家の庭に忍び込みました。
その猫はすぐに見つかりました。縁側でぼーっと青空を見上げています。
スパンキーが近寄ると、その猫はぴくっと触覚を揺らし、ゆっくりと首を動かします。
「君は二丁目のラーメン屋の横の路地裏で暮らしているスパンキーだな」
聡明な顔をした猫は、早口でまくし立てました。
真っ赤な首輪をつけている彼の名前はアリストテレス。
このまちで最も物知りで、また情報屋として知られています。
「アリストテレスに聞きたいことがあるにゃ」
「なんだ? 君のレベルでの質問ならなんだって答えられる自信があるよ」
「むぅ……」
馬鹿にされたスパンキーは、ぷくっと頬を膨らまします。
「聞きたいことっていうのは、友達のことにゃ」
アリストテレスはその言葉を聞いて口をしかめます。
あまり面白い質問ではなさそうだ、と思ったからです。
「どうやったら友達が出来るにゃ?」
質問の内容を聞いて、アリストテレスは今度は困った顔で首をかしげました。
友達の作り方、などという質問に確固たる答えなんて無いからです。
151 名前: スパンキーと片耳の猫 投稿日: 2007/10/07(日) 00:44:19.14 ID:8T++Fwu10
しかし答えられない、では自分のプライドが許せないと、彼は考えました。
「友達というのは心の通い合った者同士を言うんだ。
損得や利益が一緒故に徒党を組む”仲間”という集まりとは一線を画す。
つまり、お互いがお互いを大切だと思っていれば、それは友達な訳だ」
「よくわかんにゃいにゃ」
アリストテレスはイライラする気持ちを抑え、頭を捻ってスパンキーにも
わかりやすいように説明することにしました。
「つまりだね、まずは君が大切だと思う猫を見つけるべきだ。
そしてその猫と仲良くなり、向こうが君を大切な存在だと思い始める。
そうすると君とその猫は友達な訳だ。わかるかな?」
「にゃんとなく」
「親しい、とは常に一緒にいる訳では決してない。
しかしお互いの気持ちが干渉するにはある程度同じ時間を過ごす必要がある。
つまり、仲良くなりたい猫と一緒にいれれば、向こうの猫次第でいずれは友達になるのさ」
「わかったにゃ!」
アリストテレスは一息でまくし立てると、大きなため息をつきました。
我ながら中々良い説明だったと、心の中で呟きます。
153 名前: スパンキーと片耳の猫 投稿日: 2007/10/07(日) 00:44:43.23 ID:8T++Fwu10
踵を返したスパンキーは塀の上に飛び乗り、庭から出ようとしましたが、
くるっと後ろを振り返ると、疲れた顔をしているアリストテレスに言いました。
「アリストテレスは、友達がいるかにゃ?」
アリストテレスの触覚がぴくっと揺れます。
「いないね。僕の友達は知識だけさ」
「寂しくにゃいの?」
「全く」
「わかったにゃ」
スパンキーが行ってしまうと、アリストテレスはまた空を見上げました。
誰かの為に自分を犠牲にする。友達という繋がりの中にある自己犠牲の精神。
アリストテレスはそれが全く理解出来ませんでした。
「スパンキーめ……オスだと思っていたが、どうも違うらしいな」
メス特有の甘ったるい残り香を嗅ぎながら、アリストテレスは呟きました。
続く
最終更新:2008年09月17日 22:56